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85年の歴史を誇るアイアンマンマガジンの歴史とは?元発行人ジョン・バリック氏が語るボディビルへの情熱

アーサー・ジョーンズとの出会い

私がアーサー・ジョーンズと初めて会ったのは1970年ミスターアメリカのコンテスト会場だった。大会はカリフォルニア州のカルバーシティで開催され、大会の主催者はビル・パールと私のふたりだった。そこにジョーンズがコンテナ車を運転してはるばる東海岸のフロリダ州から西海岸の会場までやってきたんだ。
なぜコンテナ車だったのか。その中には2台の大きなトレーニングマシンが積み込まれていた。ジョーンズはそのマシンを会場のロビーで組み上げて、そのマシンを使ったトレーニングのデモンストレーションを行った。
ちなみに、カルバーシティの会場は当時カルバーシティ・オーディトリアムと呼ばれていて、現在はその名前をベテランズ・メモリアル・オーディトリアムに変えたが、今でもボディビルのコンテストがたびたび行われている。当時、コンテストが開催されても、会場のロビーにマシンを広げることを認めるプロモーターはいなかったが、大会開催に協賛していた『アイアンマン』のピアリー・レイダーがジョーンズに好きなだけスペースを使っていいと、マシンを展示することを認めていた。なぜか。それは、ジョーンズのトレーニング理論にピアリーが賛同していたからだ。そして、是非ジョーンズに実際にその理論を見せてほしいと思ったからだよ。これだけを見ても『アイアンマン』がいかにオープンで特別な雑誌であったかがおわかりいただけると思う。
そもそも、読者の中には誤解している人たちが大勢いると思う。トップボディビルダーのワークアウトは、雑誌で紹介されてきたトレーニング記事を読む限り、常に量が多く、長時間をかけて行われるものだと理解されがちだ。でも実際はそうではない。確かに彼らのワークアウト量はコンテスト前になれば増える傾向があるが、1年中そんな内容のワークアウトを行っているわけじゃないんだ。冷静に考えてみたらわかることだ。そんなに大量のワークアウトを1年中続けられるはずがないじゃないか。
ビンス・ジロンダとアーサー・ジョーンズの効果的なトレーニングに対する考え方は実に似ていた。でも、それを彼らは決して認めようとはしなかった。彼らは互いに強烈な人格を有していて、互いの主張は個別のものであると主張したからだ。ジョーンズもビンスと同じように議論好きの人物だった。しかし、彼は自分のとれ二理論こそが唯一のやり方だと主張して一歩も引かなかった。でもね、それは言い過ぎだ。なぜなら、ジョーンズだって70年もの間、ずっと彼の主張するトレーニング理論だけで肉体を研磨してきたわけじゃないからね。彼だって試行錯誤を繰り返し、様々なトレーニング法を試しながら、ついに行き着いたのが高強度理論であったと言うだけで、あれこれ試してきた過程の中で少しずつ筋肉を発達させていったんだから。
一方、ビンス・ジロンダはよくこう言っていた。
「バーベルは愚かな物体に見えるだろうが、それを使いこなし、結果を出すためには、使用するトレーニーが十分に賢くなくてはいけない。逆に、マシンは科学的に計算されて作られたものであるかのように見えるだろうが、実はそうじゃない」って。ビンスはマシンでのトレーニングに否定的だったんだ。もちろんビンスはジョーンズに対抗し、ただの感情だけでそんな発言をしていたわけじゃない。ビンスによると、人それぞれの骨格にあった動きの角度というのがある。その人にとっての理想的な角度で運動を行うということは、つまりは関節などに無理がかからず安全な動きが可能になると言うことだ。そして安全な動きが行えれば、筋肉には効率よく刺激をもたらすことができるわけで、それこそが筋肥大を促すことになる。それがビンスの持論だった。
私もそれについてはビンスと同感だ。マシンは悪くないよ。ただ、バーベルやダンベルなどのフリーウェイトは、ひとつだけしか選ぶことができないなら有利だと思う。

薬物について

薬物が持ち込まれてからボディビル界は大きく変わった。ピアリー・レイダーは薬物使用を徹底的に嫌った。ビンスもそうだ。ジョーンズもそうだった。そしてもちろん、私もそうだ。『アイアンマン・マガジン』は終始一貫して読者に薬物を使わないやり方で、すなわち、トレーニングと食事を研究し、正しく実践していくことで肉体改造は可能であると主張し続けてきた。しかし、現実は薬物を使う人たちが増えてしまった。どうすれば以前のボディビル界の姿に戻すことができるのか。
薬物に対する人々の反応は様々だ。一般社会ではこれをタブー視しているが、ボディビル界は薬物使用を完全に排除しているわけじゃない。そして、おそらく、この世界は今さら何が起きても、以前の姿に戻ることはないと私は思っている。
ならば現実を許容し、薬物使用を認めるのか?もちろん答えはノーだ。確かに薬物を使用したいという人がいなくなることはないだろうが、以前と変わらず、薬物を否定する人たちだって大勢いる。私たちの役割はその人たちの価値観を敬い、その人たちに筋力向上、筋量増加、競技能力向上、健康、そして満足感をもたらすための情報を提供し続けることだ。
コンテストに出場し、順位を競うことに価値を置いている人たちは、勝つための手段を選ばない。たとえその手段によって自らの命を縮めることになったとしても、あるいはそのことが事前に理解されていたとしても、彼らは結局勝つことがすべてと認識しているのだから止めようがない。これが問題なんだ。
それこそ、法律で薬物使用が罰せられるとか、あるいはボディビル界全体がいかなる例外も認めない厳密なドラッグテストを採用するかしなければ、私たちはこれからも異質で奇妙なフィジークを完成させる選手たちをステージで見続けることになるだろうね。もちろん、そんなフィジークを作り上げてくる人たちを全面的に否定するわけじゃないよ。彼らはみんな魅力的な人たちだ。薬物の使用の有無だけでその人の人となりを判断することはできない。また、今のボディビル界のやり方が続く以上、勝つことにすべてをかけている選手たちは使わざるを得ない現実がある。この事実も真正面から受け止めなければならないんだ。
1990年代、ボディビル界は大きな転換期を迎えた。原因はステロイドなんかじゃない、インスリンだよ。ステロイドについて言えば、正直言って、もう時代が古いんだ。つまりね、薬物は次から次へと新しいものが主流になり、今後のボディビル界にはどんなフィジークが表れてくるのか未知なんだよ。
今さら後戻りはできない状態まで来ている。それが現実だ。しかし、そんな時代になっても、昔ながらの方針を変えず、ナチュラルで身体作りをしたいという人たちは大勢いる。その人たちのために情報を提供することが私たちの使命だ。そして、どれだけ貴重な情報を提供し、ナチュラル志向の人たちがそれを実践したとしても、薬物を使って作り上げたフィジークと同じようなレベルのフィジークにはならないだろう。それでも、よりよいフィジークを目指し、いまより優れた肉体を目指す人たちを、私たちは決して置いてきぼりにするようなことはしない。
薬物の使用によって、ボディビルダーたちは以前ほどの達成感や満足感を得ることができなくなってしまった。ナチュラルボディビルダーはナチュラルに身体作りをしていく限り、高い満足感と達成感を味わうことができる。ナチュラルであることの最大のメリットはそこだよ。だから『アイアンマン・マガジン』はナチュラルトレーニーを応援したいんだ。


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