トレーニング mens

筋肉の芸術・嶋田慶太のトレーニング理念&テクニック徹底解説「至高の肉体芸術を求めて」 前編

――続いて脚なのですが、映像を見ると、第1種目のスクワットには嶋田選手の重量設定の考え方が分かりやすく反映されている印象を受けました。
嶋田 はい、60㎏で組んでいます。ベンチプレス同様、ノンロックで行います。脚ではスクワット、レッグプレス、スミスマシン、ハックスクワットはノンロックです。

――有名なビルダーの方は、周囲の人から「何㎏くらい挙げるんだろう?」という目で絶対に見られます。そうした中で、重量へのこだわりを捨てるのに抵抗はなかったのでしょうか。
嶋田 ありました。また、「これでいいのかな?」といった迷いが出るんです。他人と比較してもキリがないのですが、選手のDVDなどを見ると、「あの人はあの重さを扱っているから、あのような身体を作れるんだ」という考えを埋め込まれてしまいます。だから、僕もあのくらいの重量は持たないといけないんじゃないかと。そうした迷いを捨てて、今のトレーニングスタイルが出来上がってきました。

――きっかけがあったのですか。
嶋田 やはりケガです。2ヵ月に1度くらいの頻度で突発的に腰を痛めていたんです。痛めている間は当然トレーニングはできません。それでは遠回りになってしまうので、そこから重さを扱わなくなり、「筋肉を動かす」という考えにシフトしていきました。

――そういう考えに至ったのはいつくらいですか。
嶋田 結構最近のことです。脚に関しては、昨年の9月です。それまではスクワットは130㎏くらいでやっていたんです。それが自分にとっては一杯いっぱいの重さだったんですが、腰は張るのに脚は全くパンプしませんでした。これでは筋肉が発達しないと思いました。パンプしていないということは、血流も増えていないということです。不得意な部位は水分の滞留時間が長く、皮膚が厚くなってむくみが出てしまう。僕の場合は下半身がその状態にありました。逆に大胸筋は得意部位なので、胸の皮膚は薄く仕上がるんです。得意な部位は、しっかりと筋肉を動かせていて血流もいいので、酸素や栄養を送り込めて皮膚の再生も速くなり、余計な水分を弾いてくれ、皮膚が薄く仕上がります。

――だから得意部位と不得意部位とで仕上がりに差が出てくる?
嶋田 そう思います。そこで重さへのこだわりを捨て、「しっかりと筋肉を動かす」「血液を送り込む」という考えでトレーニングを組むようになりました。

――それも重量を扱っていた時期があるからこそ分かったことです。
嶋田 重量を扱っていた時期があって、その重量を扱うことをやめて、4週間ほどの重量へのこだわりを捨てたトレーニングをすると、5週間目に迷いが出るんです。「60㎏ でスクワットやっていて、これで日本選手権に通用するのか」と。そこで「やはり重さを持たないとダメだ」と思って以前のトレーニングに戻してはみたものの、また腰が痛くなる。その繰り返しでした。1年間やり込んでみないことには結果は分かりません。それで9月から考え方を固定して、今のやり方を続けています。今は翌日に筋肉痛がハンパなくきます。

――セットの組み方は?
嶋田 15レップでインターバルは1分、これを10セットです。

――いわゆる、ジャーマンボリュームトレーニング(GVT)と呼ばれているものですか?
嶋田 そうみたいです。僕はそのGVTというものを知らなくて、これがいいと思ってこのセットを組んでみたんです。そしたら昨日、たまたま寺地(進一)選手とお会いして脚のトレーニングについて話していたら「GVTってすごくいいですよね」と。最初、何のことだかよく分かりませんでした。

――そこで初めて「GVT」という言葉を知った?
嶋田 はい、もともとそういうセットの組み方があったということを初めて知りました。

――自分の感覚を頼りにセットを組んでいったら、それが偶然GVTにいきついていた?
嶋田 そうなんです。これは後半になるにつれてキツくなってくるんですが、7セット目くらいから脚が疲弊して挙げられなくなってくるんです。「次にしゃがんだら立てなくなるかもしれない」と思いながらやっています。「ゾーン」を突破する精神力は強くなったと思います。15レップで10セットをやったあとは、キツいから次のセットにいきたくないと気持ちが制限をかけてしまうんです。でも、それを突破したときは、「いつまででもできるんじゃないか」という域に入れるんです。

――ランナーズハイならずスクワットハイのような状態?
嶋田 リミッターが解除できるようになったといいますか。これはスクワットだけではなく、全ての部位に応用できるかもしれません。

――順番で言いますと、スクワット、レッグエクステンション、次にスミスマシンのスクワットがきます。このスミスマシンスクワットは脚の前を狙った種目ですか。
嶋田 そうです。前を狙います。

――次にはワンレッグのエクステンションが入ります。
嶋田 これは内旋させた状態で大腿四頭筋の外側を狙っています。細かく狙いたい場合はワンハンドやワンレッグにしています。

――スミスマシンのワンレッグランジは?
嶋田 殿部と、殿部・ハムストリングの境目を狙っています。これもノンロックで、膝を緩めた状態からストレッチをかけていきます。

――そしてワンレッグランジ、プローンレッグカール、ルーマニアンデッドリフトと脚裏の種目が続きます。この次に脚前の種目のハックスクワットがくるのはなぜなのでしょう。
嶋田 これは精神論ですね。僕はハックスクワットがすごく嫌いなんです。脚のトレーニングを今のメニューに組み替えたときに、嫌いな種目を一番最後にやろうと思ったんです。ハックスクワットは背中がシートで固定されているので、「逃げ場がない」というイメージなんです。股関節も逃がせず、ズルができない種目です。

――ズルができない! 確かに!
嶋田 その逃げ場がない種目に最後に挑戦しようと。実際にやってみたら、脚のトレーニングのバロメーターになると言いますか、その日のトレーニングでちゃんとオールアウトできたかどうかハックスクワットで、はかれるようになりました。弱点部位は感覚が悪いか、心が弱くて逃げているのか、どちらかだと思うんです。

――なるほど、分かります。
嶋田 僕は下半身が弱点で、サイズもないし、質感もないし、カットもない。だから、逃げないように、最後にハックスクワットで潰れるまでやろうと。ハックスクワットをやっている途中で毎回、脚が攣るんです。攣っても動かせなくなるまでやって、ハックスクワットのマシンの中で潰れて、「今日の脚トレは終わった…」と実感するという(笑)。

――これで成仏できた、と(笑)

嶋田 そうそう、そんな感じです(笑)。もちろん大会で勝つという目的でやってはいますが、僕はトレーニングを楽しみたいんです。最初にスクワットを乗り越えて、各部位を細かく攻めて、最後の最後に嫌いなハックを克服して、その日を無事に終えるという。そういうストーリーを作りたいんです。

――五味原領選手が「ジャパンカップの会場で嶋田慶太選手から脚は前と後ろを一緒にやるようになってから伸びたというお話を聞いたので、私も実験的に前と後ろをまとめてやるようにしています」と。
嶋田 以前は分けてやっていたのですが、それだと週に2回、脚のトレーニングをやることになります。回復のことを考えて同じ日にやるようにしたら、反応がよくなりました。疲労が抜けてしっかりと回復した状態で潰れるまでやって、1週間かけてまた回復させる。この繰り返しでよくなっていたような実感があります。

次ページ:【写真】嶋田慶太の肉体芸術

次のページへ >


-トレーニング, mens
-, ,