ボディビルダーこそ、日頃のケアを見直そう!ということで、ボディビル元世界チャンピオンの鈴木雅氏と、主にアスリート中心の施術で世界的に活躍される河合智則先生のお2人に解説をお願いした。
セルフケアに必要な3要素を「知識編」「スクリーニング編」「実践編❶」「実践編❷」の4回に分けてお伝えしていく。
取材・文:舟橋位於 撮影:中原義史 撮影モデル:五味原領 Web構成:中村聡美
■参考:「ケアが必要な理由」についてお二人が解説している記事はこちら↓
https://www.fitnesslove.net/conditioning/145163/
骨や筋肉の位置関係を把握する
「筋と骨格の解剖を知ることで、セルフケアはより効果的になります」(河合)
筋肉がどこから始まってどこに付着して終わるのかであったり、骨と骨の位置関係であったりを理解することは大切である。これはもちろんセルフケアにおいて重要な考え方だが、普段のトレーニングに生きてくることも考えられる。今回は一例として、肩関節の解剖を紹介する。興味のある方は、ぜひ他の筋肉や関節についても学べると良いだろう。


セルフケア実践前に押さえておきたい基礎知識
「コンディショニング・姿勢・トレーニングフォーム・ジョイントバイジョイントなどについて、一貫した考えを持って取り組むことが大事だと自分は思います」(鈴木)
鈴木さんは、セルフケアや種々のエクササイズ、トレーニング(ストレングス)までを含めて、全体をコンディショニングだと考える。そしてその中で大事なのは、姿勢やセントレーション(※)だとも言う。最終的には、正しい身体操作ができるようになることを目指して行うものとして、セルフケアが存在するようだ。
※関節を本来あるべき正しい位置に合わせること。セントレーションを基本にして正しいアライメントを獲得し、その上でトレーニングフォームを作ることが大事である

「繰り返しになりますが、次のトレーニングに万全の状態で臨めるように整えるのがセルフケアの基本となります」(河合)
例えば、トレーニングの前に行うのであれば、ウォーミングアップの要素を含むようなメニューを選択したい。ゴリゴリ押して伸ばすような内容だと、神経系の活性化は得られない。トレーニング前は神経系や循環系の活性化を狙うようなセルフケアが良いだろう。
なぜ問題を放置するのか
「トレーニーは、トレーニングなしのごく普通の生活をする方と比べて、負荷が非常にかかっているんですよということを知ってもらいたいです」(河合)
これは、先に紹介した I = FN / AR の式からも分かることで、トレーニーはとにかく FN が大きいため怪我の恐れも大きい。まずはこのことを正しく理解して受け止めることが、怪我なくトレーニングライフを送るためには重要である。
それから続いてやるべきなのが、可動域の確認だ。
「『身体が固いんだよね』と言いつつも、正常可動域のことを知らないケースはよくあります」(河合)
正常可動域と比べて自分の身体がどれだけ逸脱しているかを知り、自分の身体について自分自身で把握しようとすることが大切だ。そして、さらに筋と骨格の解剖を学べるとなお良い。解剖を理解することで、自分の身体のどの部分にどういった問題があるかを分析できるようになるからだ。そうすれば、自ずと施すべきケアの位置や処方も見えてくるだろう。

ボディビルディングはトレーニングだけで完結するわけではない。質の高いトレーニングを継続するためにもセルフケアが必要
部位によってケアを見直し、コンディショニングのムラを無くす
ボディビルダーと一口に言っても、人それぞれ課題は違うだろう。しかし、多くの人に共通して当てはめることのできる考え方もある。
「相反抑制について考えることは大切です。また、同じ筋肉の緊張でも、短縮位で起きているのか伸長位で起きているのかで処方は変える必要があります」(鈴木)
相反抑制とは、ある筋肉が収縮する際に、拮抗筋は逆に弛緩することを表す。肘を曲げる動作では上腕二頭筋が収縮し、上腕三頭筋は弛緩するのがその例である。相反抑制が自然に機能しているならば問題ないが、緊張によって妨げられているならば、それに対してアプローチしないといけない。

「短縮位で緊張が起こっている場合は、弱めの刺激を長く与えるようにします。逆に伸長位で緊張がかかっている場合は、強めの振動を感覚受容器に与え、その後にその部位の筋を促通するようなエクササイズを行うと良いと思います」(鈴木)
大事なことは、全身に全く同じようなアプローチをしないようにすることだ。感覚が足りない部分については、促通を狙ったエクササイズも取り入れるなどの工夫をすると良いだろう。
■続いて【スクリーニング編】はこちら!
https://www.fitnesslove.net/conditioning/145188/
すずき・まさし
1980年12月4日生まれ。福島県出身。株式会社THINK フィットネス勤務。ゴールドジム事業部、トレーニング研究所所長。2010~2018年日本選手権9連覇。2016年IFBB世界選手権ボディビル80kg以下級優勝。現在トレーナーとしては主にアスリートやボディビル競技者のトレーニング、栄養指導にあたる。他にもアスレティックトレーナーや理学療法士に対して身体の原理原則をいかにトレーニングに落とし込むかといった指導にも携わる。
かわい・とものり
愛知県出身、ドクターオブカイロプラクティック(専門職博士)、スポーツ健康科学博士号(学術)を取得。日本でのトレーナー活動の後、スポーツ医科学を追求すべく2005年渡米。カイロプラクティックドクター号(専門職博士)、スポーツ科学修士号を取得。アメリカにてアメリカ州立大学柔道チーム、総合格闘家、NFL、MLB選手などのサポートの他USLPGAツアー公認カイロプラクターとして活動。2011年帰国後プロ野球選手などトップアスリートを中心に臨床を行う。並行して筋膜(Fascia)とスポーツ障害の研究に従事し博士号を取得。ボディビルダーでは鈴木雅氏、相澤隼人氏、現役だと嶋田慶太選手、五味原領選手などの施術も行っている。現在シンガポールで起業し日本と往復生活。











