世界的に話題のフィットネスレース「HYROX(※)」で活躍する選手に迫るコーナー。第20回は、会社員の武田信介(たけだ・しんすけ/48)さんを紹介する。
※「HYROX(ハイロックス)」とは、ランニングとフィットネス種目を組み合わせた新しいスタイルの競技。1kmのランニングと、8種目のファンクショナルトレーニング(機能的全身運動)を交互に繰り返すことで、筋力や持久力だけではなく、さまざまなフィットネスに関する能力が問われる。

競技未経験から、世界へ
「これまで本格的な競技経験はありませんでした」
そう語る武田さんは、健康維持を目的に暗闇ボクシングフィットネスジムへ通い、有酸素運動を中心に自分を追い込む日々を送っていた。
転機は、仲間からの一言だった。
軽い気持ちで見たHYROXの公式動画。そこに映っていたのは、仕上がった身体で高強度のトレーニングをこなし、颯爽とランニングをする海外選手たちの姿だった。
「正直、期待と不安が入り混じりました。でも同時に、“自分もあんな身体になりたい”、“あの舞台で戦ってみたい”という本能的な欲求が湧いてきたんです」
本当の強さを手に入れるなら、この道しかない——。そう確信し、エントリーボタンを押した。
“自己満足の追い込み”からの脱却
武田さんは、それまでの“自分なりに追い込むスタイル”を捨て、クロスフィット池袋に入会。実績あるコーチのもとで本格的なトレーニングを開始した。
「ランニングは週3〜4回行っています。ただ距離を走るだけでなく、ワークアウト直後の重い脚で走るインターバルや、実際の種目を組み合わせた“ミニHYROX”を考えて、心拍数が上がった状態で行うワークアウトで徹底的に鍛えました」
さらに基礎筋力の向上とモビリティワークにも注力。競技に必要な「連動性」と「可動域」を磨き続けた。
その成果は、初出場となった2024年横浜大会でいきなり表れる。オープンカテゴリのAge(45〜49歳)部門で3位、続く2025年大阪大会ではプロカテゴリに挑戦し、同年代で優勝に輝き、世界選手権への切符をつかんだ。
202kgを押す覚悟
自信があったのは重量系種目、特にスレッドプッシュ&プル。
「単なる筋力ではなく、全身の力を一点に集約する感覚が重要だと感じています。トレーニングで培ってきたパワーがしっかりと発揮でき、巨大な岩を動かしているようでした」
一方、最大の壁は最後のウォールボール。限界を迎えた脚でスクワットを繰り返し、ボールを投げ続けると、心拍数はレッドゾーンを振り切り、視界が狭まっていった。
「なぜ自分はここにいるのか、と本気で考えました。でも、その極限の中でも練習してきたフォームや呼吸が“100%出せた”瞬間がありました。無駄のない動きが噛み合った瞬間は、キツイのに自然と笑みがこぼれました」
「プロの舞台でも戦える」
努力が“技術”として結実した瞬間は、何物にも代え難い快感だった。
競争と共闘
レース後半、心が折れかけたとき支えになったのは、共に練習してきた仲間の声だった。
「“しんさん、いける!”という声を聞いた瞬間、自分には応援してくれている仲間がいるんだと実感し、信じられないほどの力が湧いてきました」
競争ではなく共闘——その空気が背中を押した。ゴール後には、戦った者同士が称え合う。
「出場前は“ただの過酷なレース”だと思っていました。でも実際は、自分の可能性を問い直す場所だったと感じています」
これまでの自己満足の追い込みから、結果を出すための努力へ。自分の弱さを潔く認め、それを伸びしろとして受け入れる。そうして武田さんは、身体だけでなく、精神面でも大きな成長を実感した。
「2026年は、タイ、香港、スウェーデンでの海外レース参戦を予定しています。そして同年代トップが記録するSUB70を目標に、トレーニングを積み重ねていきたいと思います。HYROXという沼は、まだまだ抜け出せないほど深そうな世界です」
HYROXは、年齢や過去の競技歴、フィットネスレベルも問わない。
「今の自分に満足しているなら、なおさら挑戦してほしいと思います。HYROXには、想像もつかない新しい自分との出会いが待っています」
文:林健太 写真提供:武田信介
パーソナルトレーナー、専門学校講師、ライティングなど幅広く活動するマルチフィットネストレーナー。HYROX横浜はシングルプロ、大阪はミックスダブルスで出場。
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