健康科学やトレーニング科学を学んでいると“C”から始まる重要成分が多いことに気づく。その中でも4つの「“C”から始まる重要成分」について紹介したい。
第1回目はアミノ酸の代謝物(誘導体)であり、主に筋肉のエネルギーを作り出す働きや、運動パフォーマンスを向上させる効果があると考えられているクレアチン(Creatine)だ。
本記事では米フィットネス誌がまとめたクレアチンに関するレポートをわかりやすく解説する。
(IRONMAN2025年11月号「from IRONMAN USA」より転載)
筋肥大と認知機能の向上をサポート

クレアチンは、長年にわたりボディビルダーやアスリートの定番サプリメントとして、その卓越した筋発達促進作用が重宝されてきた。しかし、クレアチンの恩恵は筋肉だけにとどまらない。実は、脳機能にもプラスの影響をもたらすことが、近年の研究で明らかになりつつあるのだ。
クレアチンは、筋力向上に貢献する一方で、脳機能の一部である認知能力にも良い影響を及ぼす可能性がある。具体的には、短期記憶力、注意力、情報処理速度といった能力の改善が複数の実験で確認されている。
では、なぜクレアチンが脳機能を活性化するのか。クレアチンは、私たちの体内でも生成される天然の化合物であり、ATP(アデノシン三リン酸)を通じてエネルギー生成を助ける働きがある。
人間の脳は、身体が消費するエネルギー全体の約20%を安静時に消費するほど、膨大なエネルギーを必要とする。中でも神経細胞は多くのATPを必要としており、エネルギー産生に深く関わるクレアチンは、脳にとって非常に有用な物質なのである。
脳を活性化するメカニズム

エネルギー量の増加
クレアチンによって、脳神経の細胞が消費できるエネルギー量が増加する
↓
神経伝達の改善
情報や刺激を伝達する経路が改善され、神経細胞(ニューロン)間のコミュニケーション能力が高まる
↓
ストレス耐性の向上
過度なストレスや睡眠不足の状態でも、脳が正常に機能し続けるために必要なエネルギーが供給される
クレアチンが脳機能を活性化する理由については、上記のメカニズムが推測されている。このような効果を期待するために、大量のクレアチンを摂取する必要はない。
例えば、筋発達を促すためにはローディングを行うことが推奨されてきた。これは、一時的に筋中のクレアチン貯蔵量を飽和状態になるまで増加させた後、メンテナンス量を摂取し続ける方法である。
しかし脳機能を高めるためには1日1回、5g程度のクレアチンを摂取すれば十分だとされている。
ただし、クレアチンはあくまでサプリメントであり、日常生活におけるストレスや睡眠不足を放置して良いわけではない。生活習慣の改善を補うためにサプリメントを活用するという基本を忘れないことが重要だ。
脳機能と身体作り
クレアチンは、すでに多くのアスリートに恩恵をもたらしてきた。そのため、クレアチンが脳機能を活性化することを聞いても、それほど魅力的には感じないかもしれない。
しかし、アスリートの競技能力を向上させるのは筋肉だけではない。脳機能を活性化することで、アスリートが秘めるさらなる能力を引き出せる可能性があるのだ。
例えば、最後の1レップを挙げるために全力を出すとき、脳にも筋肉と同じく強い負荷がかかっている。想定以上の力を発揮したり、不可能を可能にしたりできるのは、筋肉と脳が連携しているからだ。
だからこそ、脳を活性化するクレアチンは身体作りと大いに関係があり、元気で活発な脳は筋肉の成長にも役立つと言える。

クレアチンが健康を支える
テスト成績UP

実験で確認された脳機能の向上
ある研究で、被験者に単語リストや視覚情報を含むテストを実施した結果、クレアチン摂取群は対象群と比べて良好な成績を示し、記憶力の向上が示唆された。
研究者らは、長期記憶を司る脳の海馬で神経細胞間のコミュニケーションに関わるタンパク質のレベルが増加し、この領域全体の血流量が改善したことによるものと推測している。
この結果から、クレアチンが脳内のエネルギーレベルを高めるだけでなく、さらに複雑な生理学的プロセスにも影響を及ぼす可能性が考えられる。
別の研究では、クレアチンサプリメントを摂取した被験者の脳処理速度が向上し、迅速な意志決定や記憶の想起が可能になるという結果が確認されている。
うつ病の軽減

クレアチンとうつ症状
また、うつ病の改善にも効果が期待されている。うつ病は脳の機能障害の一種とされており、脳内の神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなど)のバランスが崩れることで、ネガティブな感情に陥りやすくなる。
研究によると、クレアチンは軽度から中程度のうつ症状の改善に役立つとされており、例えばクレアチンが脳内のエネルギーバランスを改善し、脳の変性反応の速度を抑制する実験結果もある。
現時点ではさらなる研究が必要であるものの、クレアチンは心身のストレス、精神的疲労、不眠症による脳への悪影響を緩和し、うつ病の症状改善に貢献するかもしれない。
新たな発見に期待

クレアチンの効果を信じがたいという人は、心身の不調に悩んだ際に試してみることを勧めたい。、すでに摂っている場合は、摂取量を少し増やしてみるとよいだろう。不調の原因が脳にあるとすれば、クレアチンの作用によって霧が晴れるような感覚を得られる可能性がある。
ある研究では、外傷性脳損傷を負った若い患者たちにクレアチンを投与したところ、良好な効果が示された。例えば、頭痛、めまい、疲労感、心的外傷後健忘症など軽度の外傷性脳損傷の後遺症が、通常の医療ケアにクレアチンを併用することで軽減したと報告されている。
さらに研究が進展すれば、クレアチンはハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病、脳卒中といった神経変性疾患の治療にも役立つかもしれない。
これはまだ仮説の段階ではあるが、クレアチンは単なる筋発達促進のためのサプリメントにとどまらず、脳機能を最大限に発揮させるための有用な物質として、その可能性に大きな期待が寄せられている。
参考文献
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