世界的に話題のフィットネスレース「HYROX(※)」で活躍する選手に迫るコーナー。第14回は、トレーナーとして活躍する亰須卓雅(きょうす・たくま/27)さんを紹介する。
※「HYROX(ハイロックス)」とは、ランニングとフィットネス種目を組み合わせた新しいスタイルの競技。1kmのランニングと、8種目のファンクショナルトレーニング(機能的全身運動)を交互に繰り返すことで、筋力や持久力だけではなく、さまざまなフィットネスに関する能力が問われる。

トレーナーともう一つの顔
文京区・白山に店を構える『キッチンユタカ』は、食とフィットネスを掛け合わせた、トレーニーに嬉しい飲食店だ。管理栄養士の母と、現役トレーナーの息子がタッグを組み、「美味しく身体が喜ぶ」を合言葉にメニューづくりを行っている。
そして店には、そんな二人の想いを象徴する合言葉がある。
「運動も食事も、一人より仲間と!」
その“仲間”の中心にいるのが、キッチンユタカの顔でもある亰須卓雅さん。ジムでの指導はもちろん、自らもハードなトレーニングに取り組む生粋のフィットネス愛好家。
世界中で注目を集めるHYROX(ハイロックス)の日本初開催の横浜大会にも挑戦し、その存在感をさらに高めている。
HYROX挑戦の理由と、出場前のイメージ
「自分のフィットネスレベルをもっと上げたいという単純な向上心がきっかけでした。大会前は不安よりも“とにかく楽しむ”ことを考えていました」
マッスルゲートのフィジーク部門でも優勝経験をもつ亰須さんだが、ウエイトトレーニングは固定概念に囚われすぎず、クロスフィットなどさまざまなトレーニングに取り組んでいる。
「ランニングも定期的には行っていたのですが、本番と同じボリュームのトレーニングをやっていた時にそのハードさを改めて思い知らされました」
1kmランと8種目のファンクショナルトレーニングを一通り通しで練習した結果、最後のウォールボールが終わるまでに90分以上かかってしまったという。想像以上のタイムオーバーに本番への不安が頭をよぎったと話してくれた。
ダブルスの強みと苦しさ、レースで見えた成長
「予行練習を重ねる中で、反省点もいろいろ見えてきたので、ダブルス出場の強みを活かそうと相談しました。僕は得意種目のバーピーを多くこなし、ランジはパートナーに任せるようにしてお互いの得意・不得意を補い合いました」
そんな作戦が功を奏して結果は予想以上の好タイムだった。しかし、後半のランニングは屈強な体を持っても苦しかったと振り返る。
「脚が攣りやすいこともあり、不安は大きかったのですが、それでも走り切れたことで身体のキャパシティが広がったと思います。トレーニングはもちろんですが、食事もバランスを考えながらしっかりとエネルギーが蓄えられるように考えて食べていました。やはりレースは持久力勝負になってくるので、運動と食事はどちらもボリュームが大事ですね(笑)」
ダブルスの魅力は、苦しい時に声を掛け合い、互いを鼓舞できること。しかし同時に、モチベーションの差が課題になることもある。その点、今回は同じ熱量を持つペアと出場できたため、最後まで笑顔で走り切れたと振り返る。
HYROXで得た変化と、次なる挑戦
HYROXを通して大きく変わったのは、ランへの恐怖心がなくなったこと。これまで苦手意識があったランニングを克服し、心身ともにワンランク上のレベルに到達した実感があった。
「HYROXは競技内容が変わらない分、どれだけ種目ごとのキャパシティを高められるかが重要です。挑戦したい人は、まず“練習できる環境づくり”と“しっかり食べる習慣”を大切にしてほしいです」
今後は、これまでのフィジークやクロスフィットの経験も活かし、幅広いフィットネスイベントに適応できる“より高い基準の身体づくり”を目指すという。
そして同時に、HYROXに挑む人々を運動と栄養の両面から支えられるトレーナー として成長していきたいと語る。
「フィットネスは一人でもできるけれど、一緒に挑戦する仲間がいると何倍も楽しくなる。HYROXは、そのことを改めて気づかせてくれました」
運動も食事も、一人より仲間と。その大切さを、今回の挑戦を通じて強く胸に刻んだ亰須さん。
その想いはこれからも、キッチンユタカとフィットネスの現場で、多くの人の背中をそっと押し続けていくに違いない。
文:林健太 写真提供:亰須卓雅
パーソナルトレーナー、専門学校講師、ライティングなど幅広く活動するマルチフィットネストレーナー。HYROX横浜はシングルプロで出場。










