世界的に話題のフィットネスレース「HYROX(※)」で活躍する選手に迫るコーナー。第23回は、仕事の傍ら、ランクラブも運営する渡邉匠(わたなべ・たくみ/23)さんを紹介する。
※「HYROX(ハイロックス)」とは、ランニングとフィットネス種目を組み合わせた新しいスタイルの競技。1kmのランニングと、8種目のファンクショナルトレーニング(機能的全身運動)を交互に繰り返すことで、筋力や持久力だけではなく、さまざまなフィットネスに関する能力が問われる。
ラグビー経験者が感じた“共通点”と挑戦前の不安
渡邉さんがHYROXを知ったきっかけは、自身が運営するランクラブの参加者からの紹介だった。
「ランニングと筋トレを掛け合わせた競技と聞いて、直感的に面白そうだと思いました。7年間ラグビーに打ち込んできた私にとって、全身を使い、持久力とパワーの両方が求められる点は、どこかラグビーと重なる感覚がありました」
一方で、不安もあったという。
特に重りを扱う種目で、どれだけパフォーマンスを発揮できるのか。普段の筋トレでは問題なくこなせる動作も、1kmランの直後に同じクオリティで行えるのかは未知数だった。
「ローイングやスキーエルゴといった有酸素系種目も含め、心肺機能と筋力の両立がどこまで通用するのか。挑戦前のイメージは楽しみ半分、不安半分といった感じでした」
ダブルスでの戦略と、限界を超えたウォールボール
レースに向けた準備は、かなりシンプルだった。
「しっかりと準備したかったのですが、実際はローイングやウォールボールが設置されているジムで、80%のボリュームで通し練習を一度行っただけです(笑)」
もともと筋力トレーニングには自信があった渡邉さん。スレッドプッシュやスレッドプルは「普段の筋トレに近い感覚で軽快にいけた」と振り返る。
「今回はランニングが趣味の友人とダブルスで出場したので、戦略が明確でした。スレッド種目などパワー系は私が中心に担当し、スキーエルゴやローイングといった有酸素種目は友人の比重を増やしました。お互いの強みを最大化して完走できたと思います」
しかし、順調に進んだレースも、最後の関門で真価を問われた。8kmのランと7種目を終えた後のウォールボール100回。疲労が蓄積した状態でのスクワット動作の連続は想像以上だった。
「あれは本当にきつかったですね。呼吸も荒くなって、脚も重くて思ったように動けませんでした。でも、パートナーや周囲の声援に背中を押され、1回、また1回と積み重ねることができました」
1kmランは常にパートナーと同じ距離感で走る必要があり、自分のペースを貫くことはできない。良くも悪くも、渡邉さんはランニングが得意な友人のペースに必死で食らいついた。
苦しさを共有するからこそ得られる達成感
学生時代はバリバリの体育会系だった渡邉さん。仲間とともに追い込み、やり切った瞬間に全員で喜ぶ――そんな経験を重ねてきた。
しかし社会人になってからは、その感覚を味わう機会が減り、どこか物足りなさを感じていた中で出場したHYROX。その会場には、かつて味わった熱量があった。
「日々の孤独なトレーニングだけでは得られない、フェスのような一体感がありました。見知らぬ誰かを全力で応援し、また自分も応援される。スポーツイベントならではの雰囲気を感じて、少し懐かしい気持ちにもなりました」
レースを通じてフィットネスの可能性を再認識し、HYROXには「参加費以上の価値がある」と断言する。
「速さや強さだけでなく、仲間との連帯や達成感まで含めて“フィットネス”だと感じました。参加人数やカテゴリでレベルを選んで出場することで、結果が良くても悪くてもまた出たいと思える体験になるのが魅力だと思います」
HYROXは、特別なトップアスリートだけの舞台ではない。走ること、体を鍛えることが好きな人なら、誰にでも挑戦する資格がある。
もちろん、レースは楽ではない。でも不思議なことに、一度ゴールをくぐると「もう一回やりたい」と思ってしまう。あの会場の熱気、仲間との一体感、限界を越えた瞬間の高揚感が、また味わいたくなるフィットネスだ。
次にもう一度挑戦したとき、そこはもうHYROXワールドの入り口。気づけば、あなたもその世界の一員になっているかもしれない。
文:林健太 写真提供:渡邉匠
執筆者:林健太
パーソナルトレーナー、専門学校講師、ライティングなど幅広く活動するマルチフィットネストレーナー。HYROX横浜はシングルプロ、大阪はミックスダブルスで出場。
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