世界的に話題のフィットネスレース「HYROX(※)」で活躍する選手に迫るコーナー。第13回は、運動経験もほとんどなく、学生時代は帰宅部だったという異色の挑戦者、藤原千南(ふじわら・ちなみ/34)さんを紹介する。
※「HYROX(ハイロックス)」とは、ランニングとフィットネス種目を組み合わせた新しいスタイルの競技。1kmのランニングと、8種目のファンクショナルトレーニング(機能的全身運動)を交互に繰り返すことで、筋力や持久力だけではなく、さまざまなフィットネスに関する能力が問われる。
【写真】藤原さん喜びのゴールシーン

「勝ちたい自分」と出会うきっかけとなったHYROX
「元帰宅部の私ですが、何かに勝ちたかったのがきっかけです」
そう語る藤原さんにとって、HYROXはまさに“人生初の戦いの舞台”だった。社会人になってからは競う機会が減り、何か日常に物足りなさを感じていた。
「HYROXを知って、大人になってから本気で戦うって、なんてカッコいいんだろうと思いました。ただ、周りはフルマラソンランナーや体育大出身者ばかりで、私なんかが完走できるんだろうかと、とにかく不安でした。」
最初は“完走できればいい”と思っていた藤原さんだが、出場を決意した瞬間から少しずつ挑戦心に火がついた。
ゴールまで支えてくれた仲間の存在
レースに向けては、コーチの練習会やクロスフィットジムでのトレーニング、ランニングや食事管理など、日々地道な努力を重ねた。
「苦手な種目も多かったけど、練習するほどできるようになるのが楽しかったです。パーピーブロードジャンプやサンドバッグランジは苦手意識が少なかったので、他の種目より自信を持てるようにトレーニングを重ねました」
様々なジャンルのワークアウトをこなしていくHYROXは、得意不得意がはっきりするのも面白さや見どころの一つ。
「スレッドプルは本当に動かなくて…。気づけば周りがみんな終わって、私だけ取り残されていました。ジャッジの方まで応援してくれて、泣きながら引っ張りました」
そんな苦しい場面でも、仲間の存在が大きな力になった。
「ランニング中に友達が追い越すとき、背中を叩いて“いける!”って声をかけてくれたんです。あれがなかったら心が折れていたと思います」
観客や仲間の声援を身近で受けながらレースに挑む時間は、「人生で一番楽しかった」と振り返る。HYROXの醍醐味は、競い合いながらも互いを支え合う空気にあるのかもしれない。
“完走できればいい”から“結果を残したい”へ
レースを終えて、身体も心も大きく変わった。
「肩、腕、背中、脚――全部成長してしまいました(笑)。でも何より、“絶対に諦めない”という気持ちが強くなりました。」
当初は“完走できれば十分”と思っていた藤原さん。しかし、限界まで走り抜けたその先にあったのは、“次はもっとできるはず”という新たな自信だった。
「次回の大阪大会では、横浜で達成できなかった90分切り。と言いたいところですが、実は負けず嫌いなので75分切りを目指します」
“元帰宅部”という言葉が似合わないほど、今は堂々とアスリートの顔になった藤原さん。HYROXを通じて、自分と本気で向き合う楽しさを知り、挑戦する勇気を手に入れた。
私たちが最後に本気で何かに挑んだのはいつだろうか。藤原さんの姿はそんな問いかけを静かに投げかけてくる。
大人になっても人は何度でも変われる。挑戦の舞台はいつだって自分の中に広がっている。
文:林健太 写真提供:藤原千南
パーソナルトレーナー、専門学校講師、ライティングなど幅広く活動するマルチフィットネストレーナー。HYROX横浜はシングルプロで出場。
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