世界的に話題のフィットネスレース「HYROX(※)」で活躍する選手に迫るコーナー。第5回は数々の海外レースにも出場し、日本人男性初のTOP3を獲得した経験があるHYROX公認パフォーマンスコーチの大石雅貴(おおいし・まさき/32)さんを紹介する。
※「HYROX(ハイロックス)」とは、ランニングとフィットネス種目を組み合わせた新しいスタイルの競技。1kmのランニングと、8種目のファンクショナルトレーニング(機能的全身運動)を交互に繰り返すことで、筋力や持久力だけではなく、さまざまなフィットネスに関する能力が問われる。
思い立ったが吉日、まずはインドへ
「まずは世界を知りたい」──その思いを胸に、大石さんはHYROX挑戦のため、インド・ムンバイに飛んだ。日本ではまだ情報が少なく、出場を決めた当初は不安ばかり。それでも大石さんは「きっと次につながる何かを得られる」という根拠のない自信を信じ、日本人が誰も挑戦していない、インドを選んだ。
「HYROX出場を決意したきっかけは、創設者の言葉でした。多様性を受け入れ、誰もが挑戦できる設計というところは、私自身の思想にもマッチしていました。競技としてもイベントとしても楽しめ、観客との一体感を重視した演出も、フィットネスとして素晴らしいと感じました」
その包括性とコミュニティ性に強く惹かれ、これは日本でも単なる一瞬のブームではなく、文化として根づくと確信したという。
オンラインが主流の現代だからこそ、リアルなコミュニティで人とつながり、挑戦を共有できる場が重要になる。HYROXにはその可能性があると感じ、自らが挑戦の体現者になる道を選んだ。
手探りの準備と挑戦
出場を決めてからの準備は、まさに未知との戦いだった。日本には情報がほとんどなく、頼れるのは海外の事例や自身の探究心。仕事との両立を図りながら、大石さんは情報収集と対策トレーニングを徹底した。
「まずはHYROX公認パフォーマンスコーチの資格を取得し、本部から直接学ぶことで理解を深めました。海外情報を収集し、AIを活用してオリジナルの計画も作りました」
トレーニングでも日本代表選手の練習会などに積極的に参加し、知恵を吸収。最短で目標達成するための環境設定にこだわり、インプットと行動、分析と改善を繰り返す日々を送った。
得意と苦手、そして学び
強みが発揮されたのはサンドバッグランジとバーピー。低身長でも不利になりにくい種目であり、筋持久力や瞬発力、身体の連動性を武器に大きな成果を上げた。ムンバイ大会ではバーピーのタイムで876人中1位、レース全体ではカテゴリー世代別で日本人男性初となる3位(876人中)を記録し、大きな爪痕を残した。
「ウォールボールでは特に、低身長の不利を痛感しました。最後の最後に順位を落とす悔しい結果になりましたが、それも次の課題として活かし、今は効率よく動作の最大出力を上げるトレーニングを積極的に行っています」
HYROXの魅力
「レース中に最も心に残ったのは、世界中の人々との一体感です。国籍も文化も違う仲間が『Go Japan!!』と声をかけてくれて、ゴール後には互いの健闘を称え合いました。国境を超えたつながりに胸が熱くなり、『私が求めたフィットネスがここにある!』と強く実感しました」
また、準備期間には練習会や仲間との切磋琢磨があり、孤独な挑戦を支える大きな力になった。身体は”より疲れにくく、自在に動ける”状態へ変わり、競技だけでなく、仕事のパフォーマンス向上も実感。また、オフラインコミュニティで同じ価値観をもつ仲間とつながれたことも含め、人生の幸福感が大きく高まったという。
「HYROXはもちろん、“フィットネス”と“挑戦”は、必ず人生を良い方向へと導き、幸福度を高めてくれると実感しています。人生一度きり。皆今日が一番若い日です。何歳からでも、どんな状況でも、みんな平等に挑戦して自分を変える権利があります。だから『やってみたい』と思ったらまず一歩踏み出してみてほしいと思います。今後も、自らが挑戦する中で経験した多くの失敗や小さな成功体験の知見をもとに、HYROXパフォーマンスコーチの活動を通して、みんなにこの魅力を伝え続けていきたいです」
挑戦を共有できるフィットネススポーツ。一歩を踏み出した瞬間、あなたの人生は確実に変わる。
文:林健太 写真提供:大石雅貴
パーソナルトレーナー、専門学校講師、ライティングなど幅広く活動するマルチフィットネストレーナー。HYROX横浜はシングルプロで出場。
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