世界的に話題のフィットネスレース「HYROX(※)」で活躍する選手に迫るコーナー。第9回は、2025年5月のバンコク大会、55〜59歳のエイジカテゴリで見事優勝に輝いた尚幸子(たかし・さちこ/56)さんを紹介する。
※「HYROX(ハイロックス)」とは、ランニングとフィットネス種目を組み合わせた新しいスタイルの競技。1kmのランニングと、8種目のファンクショナルトレーニング(機能的全身運動)を交互に繰り返すことで、筋力や持久力だけではなく、さまざまなフィットネスに関する能力が問われる。
【写真】ゴールを手繰り寄せるかのように力強くスレッドを引き寄せる尚さん

仲間に背中を押された挑戦
「やってみたい!」――その気持ちは、ふとしたきっかけから生まれた。
松本さんがHYROXへの挑戦を決めたのは、通っていたジムがHYROX公式ジムであり、仲間たちが次々と大会に出場していたことがきっかけだった。
「ジムの友人たちが楽しそうにHYROXをやっていて、コーチもいたので自然と自分も挑戦してみたいと思いました。楽しみしかなくて、不安はまったくなかったですね」
最初は“未知のレース”という印象だったHYROX。しかし、仲間が挑む姿を間近で見るうちに、その世界が自分にもぐっと近づいた。
筋トレでもマラソンでもない、走りと機能的なトレーニングが融合した競技。自分の力をどこまで出せるのか……そんな純粋な興味が、尚さんの挑戦心に火をつけた。
トレーニングで得た自信
普段からCrossFitを続けていた尚さんだが、出場を決めてからはより競技に特化したトレーニングへとシフトした。
「コーチ指導のもと、トレーニングとランを中心に取り組みました。もともと暑い中でのランに慣れていたので、屋内のランは気持ちよく走れました」
ファーマーズキャリーやランジといった重りを持って安定したフォームで進む動作には自信があった一方、スレッドプルやバーピーブロードジャンプには苦戦したという。
「苦手な種目でも、苦しさの先に確実にゴールがあると思うと、自分の力を信じて乗り越えられました。最後のウォールボールで残り20回ほどになったとき、ゴールが目の前に見えた気がして、苦しさが一気にワクワクに変わりました」
HYROXは肉体の限界だけでなく、心の在り方も試される競技。松本さんはレースを振り返り、「まさに自分との戦いでした」と語る。
仲間がいたから走り抜けられたゴール
レース当日。尚さんの周りには、いつも共に練習してきた仲間たちの声援があった。
「練習中もお互いに声を掛け合いながら頑張ってきて、当日も応援してくれたんです。エイジカテゴリー1位でゴールしたとき、みんなが一緒に喜んでくれたのが本当にうれしかったです」
HYROXは個人競技のように見えて、実は“仲間の力”が大きな支えになるスポーツでもある。
共に練習し、励まし合い、限界を超える。
そうして迎えたゴールの瞬間は、単なる結果以上の意味を持つ。
「表彰台を目指して頑張ってきたからこそ、達成できたときの気持ちは最高でした。身体も以前より走れるようになって、心も前向きになれた気がします」
自分を信じて進めば、結果は必ずついてくる
HYROXを終えた今、尚さんの中で競技への魅力はさらに深まった。
「タイムキャップ(時間制限)がないからこそ、自分が頑張った分だけ結果が出る。それがHYROXの魅力だと思います。これから挑戦したい人には、“自分を信じて”と言いたいです。HYROXは自分との戦い。完璧じゃなくていいし、失敗してもいい。頑張った分だけ、自分の中に何かが残ります」
誰かと比べるのではなく、昨日の自分に挑む。それがこの競技の本質であり、尚さんが伝えたいメッセージでもある。
挑戦する楽しさ、仲間と分かち合う喜び、限界を超えたその先にある達成感。それらすべてが、尚さんにとってHYROXの“本当の魅力”なのだ。
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文:林健太 写真提供:尚幸子
パーソナルトレーナー、専門学校講師、ライティングなど幅広く活動するマルチフィットネストレーナー。HYROX横浜はシングルプロで出場。
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