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アルギニンって効くの?成長ホルモンと筋トレ効果の意外な真実

日本でもフィットネスが盛んになってきたが、どの情報を信用すればよいのか迷っている人も多いのではないだろうか。そこでIRONMANのネットワークを生かし、フィットネスの本場・アメリカの耳寄り情報をお届けする。これを読んで、諸君のボディメイクに生かしていただきたい。

※IRONMAN 2024年8月号に掲載された「PICK UP from IRONMAN USA」をWEB用に編集したものです。

光を浴びながら深呼吸する男性

アルギニンの真価はいかに

アルギニン再ブームのきっかけ

消化や摂取量の問題から、アルギニンのサプリメントを利用する人は減少していた。しかし、何年か前に一酸化窒素系のサプリメントが登場したことで、再びアルギニンのブームが起きた。

一酸化窒素系のサプリメントには、血管を拡張して血流を活発にし、強烈なパンプをもたらす作用があるとされている。そして、一酸化窒素の前駆体がアルギニンである。

アルギニンの働きと、その扱いの難しさ

アミノ酸の中には、条件付きで必須アミノ酸になるものがいくつかある。アルギニンもそのひとつだ。

アルギニンは必須アミノ酸ではないが、ボディビルダーを含む多くのアスリートから支持されている。なぜなら、アルギニンには成長ホルモンの分泌を促す作用があると言われているからだ。また、アスリートの間で重宝されているクレアチンは、体内で生成される際には3つのアミノ酸が必要とされている。そして、そのうちのひとつがアルギニンである。

ただし、アルギニンで成長ホルモンの分泌を促すには、平均して30gもの量が必要であり、しかも点滴で体内に取り込まなければならない。

さらに、大量のアルギニンを摂ったとしても、それを分解するために肝臓内のアルギナーゼ酵素が活性化される。

つまり、大量に摂取したアルギニンは、嘔吐によって吐き出されるか、あるいは肝臓内のアルギナーゼによって素早く分解されて無駄になる可能性が高いのである。

体内で物質が生成される

アルギニンが成長ホルモンを高めるメカニズム

アルギニンの成長ホルモンへの影響についてもう少し詳しく知るために、まずは成長ホルモンが身体の中でどのようにコントロールされているのかを確認しておこう。

成長ホルモンの放出は、2つの相反する物質によってコントロールされている。ひとつは視床下部から分泌される成長ホルモン放出ホルモンだ。その名の通り、脳下垂体前葉からの成長ホルモンの放出を促す役割がある。これとは反対の働きを持っているのがソマトスタチンだ。この物質は成長ホルモンの放出にブレーキをかける役割がある。

ヒトは40歳を超えたあたりから、成長ホルモン放出ホルモンが減少してソマトスタチンが優位になる。そのため、加齢によって成長ホルモンのレベルが低下するのが一般的だ。

この問題を緩和してくれるのがアルギニンだ。アルギニンはソマトスタチンの作用を遮断するのだ。ただし、その作用を得るにはアルギニンを点滴で体内に送り込む必要がある。実際、アルギニンのサプリメントを経口摂取しても、大半の実験では成長ホルモンの分泌に影響を及ぼさない、もしくは明確ではないという結果に終わっているのだ。

アルギニンとテストステロン

2004年に行われたラットを使った実験によると、ラットのエサからアルギニンを抜くとテストステロンの働きが著しく低下したという。また、アルギニンが不足すると、腎機能を正常に保つ酵素のレベルを停滞させることがわかっている。

この実験では、アルギニンとテストステロンとの直接的な関係を明らかにすることはできなかったが、アルギニンが不足すると、まずはIGF-1(インスリン様成長因子1)の減少が確認できたそうだ。

これまでの実験から、IGF-1の生成量とテストステロンの量は比例することがわかっている。つまり、体内のアルギニンレベルが高まればIGF-1の生成量が増え、それがテストステロンレベルの増加につながることが推測できるのである。

タンパク質と一緒に摂取できない

アルギニンを摂取する際、他のアミノ酸やタンパク質を組み合わせることができない。というのも、アルギニンは遊離アミノ酸と競合してしまうためだ。

そもそも、アミノ酸が血液中に取り込まれたとしても、血中に他のアミノ酸が溶け込んでいる状態で成長ホルモンが放出されることはほとんどない。

経口摂取に効果がない理由

点滴なら効果があるのに、経口では効果がない理由は何なのか。それは、どんな食材であっても、口から入ったものは血中に溶け込む前に肝臓で代謝されるからだ。特にアルギニンの場合は、アルギナーゼというアルギニンを分解する酵素が肝臓に非常に多く存在している。そのため、肝臓を通過すればアルギニンの多くは分解されてしまうのだ。

ならば大量にアルギニンを摂取したらどうだろうか。つまり、大量に摂取すればアルギナーゼによる分解が追いつかず、アルギニンのまま血中に溶け込むことができるのではないか。しかし、アルギニンを大量に経口摂取すると吐き気、嘔吐、膨満感など胃腸に問題が起きてしまうケースが多いのである。

最適条件でも吸収されるのはわずか

血中の栄養素濃度が低い状態のほうが、成長ホルモンの分泌には理想的だ。だとすれば、空腹時こそアルギニンを摂るベストタイミングではないかと思うかもしれないが、実際は違う。

空腹時のタイミングに経口摂取しても、肝臓にまで届くアルギニンは全体の60%で、そのうちの10%は肝臓内のアルギナーゼで分解されてしまうので、血中に溶け込むのは50%だ。残念ながら、この程度の量が血中に溶け込んでも、成長ホルモンの分泌を刺激するのに必要なアルギニン量の7分の1に過ぎないと言われている。

炭水化物と脂質との相性が悪い

成長ホルモンは、血中グルコースや血中脂肪が低いときに最もよく分泌される。つまり、脂肪食や炭水化物食を摂取するときにアルギニンを組み合わせても、アルギニンによる成長ホルモンへの作用は期待できないということになる。

また、成長ホルモンは睡眠中に多く分泌される。そのため、寝る前のタイミングで成長ホルモンの分泌を活性化するサプリメントを摂取している人もいるだろう。しかし、例えば夕食や夜食を食べてからまだ十分な時間が経っておらず、血中の糖濃度や脂質濃度がまだ高い状態であれば、寝る前のタイミングでそのようなサプリメントを摂って効果があるかどうかは疑問が残る。

筋トレに励む女性

間接的な効果に期待?

アルギニンとαケトグルタル酸が、筋発達にどんな影響をもたらすのかを調べた実験があるので紹介したい。

私たちの身体を構成している細胞にはたくさんのミトコンドリアがあり、そのミトコンドリアの内膜の中はマトリックスと呼ばれている。有名なTCA回路(クレブス回路、あるいはクエン酸回路)はミトコンドリアの中のマトリックスに存在し、αケトグルタル酸はその回路の代謝過程で副産物として作られる。

過去に行われてきた多くの実験で、オルニチンのようなアミノ酸とαケトグルタル酸を組み合わせると、筋中でアンチカタボリック作用を発揮することが示されてきた。

アルギニンとαケトグルタル酸を組み合わせた実験がどのように行われたのかを確認してみたい。

実験のイメージ

実験①

8時間の絶食を行った後、4gのタイムリリース型のアルギニン+αケトグルタル酸、もしくは通常のアルギニン+αケトグルタル酸を経口摂取

対象:健康な男性10人(30~50歳)

結果:アルギニンの血中濃度がピークに達した。また、タイムリリース型よりも通常型のほうがピーク度は高かった。

実験②

被験者を2つのグループに分け、グループ1はプラシーボ群、グループ2はアルギニン+αケトグルタル酸を摂取(摂取量は1日3回、1回あたり4gずつ、合計12g)。実験期間は8週間で、被験者たちは週4回の頻度で指定のプログラムのトレーニングを実施。

対象:トレーニング歴のある男性35人

結果:アルギニン+αケトグルタル酸の組み合わせは安全であり、肝臓の酵素や腎機能、血液の組成に何ら影響を与えなかった。また、アルギニン+αケトグルタル酸を摂取したグループは、比較対象のプラシーボ群に比べて、ベンチプレスの1RMや無酸素性パワーテストにおいて有意な増加を示した。

考察

アルギニン+αケトグルタル酸のグループにおいて、なぜ筋力の増加が見られたのかは不明である。しかし、この組み合わせが筋中クレアチンのレベルを高め、クレアチンの影響を最大限に得ることができたのではないかと推測されている。

アルギニンのサプリメント単体で、私たちの筋肉や身体にプラスの効果をもたらすとは考えにくい。それでも、間接的な作用が様々あることは否定できず、筋力の向上、一酸化窒素の増加によるパンプアップの効率向上など、ボディビルダーをはじめとするアスリートにとってプラスになる要素が数多くあると考えてもいいのではないだろうか。

 

記事はIMUSA に掲載されていた以下の記事から一部を活用してまとめたものです。
https://www.ironmanmagazine.com/kelp-anti-estrogen-help/
https://www.ironmanmagazine.com/arginine-growth-hormone-and-no-supplements/
https://www.ironmanmagazine.com/arginine-growth-hormone-and-no-supplements/

参考文献
Cremades, A., et al. (2004). Influence of dietary arginine on the anabolic effects of androgens. J Endocrino. 183:343-351. IM
Barbosa, T., et al. (2006). Chronic oral administration of arginine induces GH gene expression and insulin. Life Sci. 79(15):1444-9.
Collier, S., et al. (2006). Oral arginine attenuates the growth hormone response to resistance exercise. J Appl Physiol. 101(3):848-52.
Lucotti, P.C., et al. (2006). Beneficial effects of oral L-arginine treatment added to a hypocaloric diet and exercise training program in obese, insulin resistant type-2 diabetic patients. Am J Physiol Endocrin Metab. In press.
Westphal, S., et al. (2006). Adiponectin and treatment with niacin. Metabolism. 55:1283-1285.
Campbell, B., et al. (2006). Pharmacokinetic, safety, and effects on exercise performance of L-arginine a-ketoglutarate in trained adult men. Nutrition. 22:872-81.

文:IRONMAN編集部

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