無酸素運動を行うと血圧が一時的に上昇することはよく知られているが、ボディビルダーやパワーリフターといった高重量のウエイトを扱う競技や、高強度のトレーニングを高頻度で行うアスリートにとって、ウエイト挙上時の血圧変化は特に重大な関心事である。
安全にパフォーマンスを発揮し、長期的に競技を続けるためにも、高重量負荷が心血管系に与える影響を正しく理解しておくことは極めて重要だ。
そこで本記事では、米国フィットネス誌が報告した検証データをもとに、高重量トレーニングと血圧の因果関係について詳しく解説する。
(IRONMAN2026年6月号「from IRONMAN USA」より転載)
投薬以外の血圧コントロールは可能か
血圧は加齢とともに上昇していく。ただ、「血圧とはそういうものだ」と諦めて放置してしまうのは良くない。
そこで、中高年者の多くは主治医に相談し、血圧を下げるための投薬療法をはじめるが、生活習慣の改善によって、さらに良好な血圧コントロールを目指すことはできないだろうか。また、投薬以外の方法で血圧を健康的なレベルで安定させることはできないのだろうか。
今回はアスリートと血圧の関係について糖や塩分に触れながら解説してみたい。
糖の取りすぎが高血圧を招く

先進国では糖の摂取量が年々増加傾向にあり、それに伴って高血圧が原因の病気にかかる人も増えてきている。これについて、コロラド大学デンバー校健康科学センターのダイアナ・I・ジャラル氏らは、全米健康栄養調査(NHANES)に参加した4,528名のデータを用いて以下の解析を行った。
| 対象者: | 18歳以上(4,528名:高血圧の既往歴や降圧薬の使用がなく、調査時点では血圧が正常範囲内であることが確認された者) |
| 研究方法: | 対象者を果糖の摂取量に基づいて「1日あたり74g以上を摂取する高摂取群」と「1日あたり74g未満の摂取群」に分けて比較する・解析する「横断研究(観察研究)」を行った(※74gという値は生理学的な閾値ではなく、清涼飲料水2.5本程度で得られる現実的な高摂取量として設定)。 |
| 研究結果: | 果糖を74g以上摂取していた群では、血圧が140/90mmHg以上の値を示すリスクが30%高く、160/100mmHg以上になるリスクは77%も高かった。このことから研究者らは「高血圧の既往歴がない米国成人であっても、添加糖由来の果糖の取り過ぎは、血圧の上昇に関与している可能性が示唆される」と考察している。 |
塩分の問題
多くの研究によって塩分摂取と血圧の関係は一律ではなく、塩分に対する反応には個人差(食塩感受性)があると考えられている。遺伝的要因や腎機能などの影響により食塩感受性が低い人では、必ずしも血圧上昇に直結しない場合もあるといった研究事例が報告されている。
こうした研究報告は、塩味を好む人にとっては朗報に思えるかもしれないが、塩分摂取量に関しての健康への配慮は万人に欠かすことのできない項目である。
また、塩分摂取に関する通説として「塩は人工的に精製された食塩ではなく、ナトリウムだけでなくカリウムやマグネシウムなどさまざまなミネラルを含んでいる天然の海塩を選ぶと良い」といった考えもあるが、海塩であっても主成分は塩化ナトリウムであり、ナトリウムの摂取量そのものが大きく減るわけではないということには注意が必要である。

すでに高血圧症と診断されている人にとって、塩分を控える必要がある点は今も昔も変わらないし、高齢者や腎機能に問題のある人、肥満や糖尿病の人でも、塩分摂取を制限することで血圧上昇を予防できる可能性が高い。一方で、運動習慣があり腎機能が良好な若年者は、塩分摂取による健康への悪影響が比較的現れにくい傾向がある。
しかし、若年期からの過剰な塩分摂取は将来的な高血圧や血管への負担につながるリスクがあるため、運動による発汗量に応じた適切な摂取を心がけることが重要だ。
高重量トレーニングは血圧に悪い?
一般的に、高重量のウエイト挙上時に血圧は著しく上昇すると考えられている。例えば、ボディビルダーが高重量のレッグプレスを実施した際に、最大で収縮期血圧 320mmHg/拡張期血圧250mmHgという数値が記録されたという研究報告もある。この値は正常血圧の基準値である収縮期 140mmHg/拡張期 90mmHgと比較しても、非常に高いことが分かる。
別の研究では、血管を収縮させ血圧を上昇させる作用をもつカテコールアミンの一つであるノルアドレナリンの血中濃度が、ウエイトトレーニング後、最大24時間にわたって高値が維持されたという報告もある。
しかし、その後の追跡研究においては、血圧がわずかに上昇したとする報告もあれば、逆に低下したとする報告も存在し、トレーニング後の血圧変化については一貫した結果は得られていない。
ただし、これらの研究は、トレーニング後2時間以上の血圧変化を追跡していないことや、実施されたワークアウト内容が、実際のトレーニング習慣とかけ離れているといった問題が指摘されていた。そうした問題点を踏まえ、筋力トレーニングと血圧の関係を改めて調査しようと、より現実的な条件下で実験が行われたので紹介しておきたい。

| 被験者: | 18~26歳の若年者(事前に測定された安静時血圧はいずれも正常範囲内) |
| 運動内容: | 被験者は生活習慣や運動歴に基づき、 ①長時間座位で過ごしている群 ②ウエイトトレーニング習慣がある群 ③持久系トレーニング習慣がある群 の3群に分けられ、全員が同一のウエイトトレーニングを実施。トレーニング内容は12種類のマシンを用いた全身運動で、各種目2セットずつ実施。 |
| 測定方法: | 血圧測定は、トレーニング前、トレーニング直後、その後、安静にした状態で48時間経過した時点でもう一度測定を実施。 |
先行研究では、ボディビルダーの平均血圧が低いことが報告されており、これは交感神経系の反応が抑制されているためではないかと推測されている。しかし本研究では、いずれのグループにおいても、トレーニング前後および48時間後の血圧に有意な変化は認められなかった。
興味深いのは、トレーニング経験がない長時間座位で過ごす人たちの群においても、ウエイトトレーニング経験者と同様の血圧反応が示されたことだ。また、48時間後の測定値はいずれの群でもトレーニング直後とほぼ同等であった。
この結果から、少なくとも正常血圧の若年者においては、ウエイトトレーニングが安静時血圧に持続的な悪影響を及ぼす可能性は低いと考えることができそうだ。ただし、この結論はあくまで正常血圧の人を対象としたものであり、すでに高血圧症の人が高強度トレーニングを行う場合には、必ず医師に相談し、適切な指導のもとで実施する必要があることは言うまでもない。

降圧薬によって血圧が適切に管理されている人であれば、正常血圧者と同様にウエイトトレーニングを行える場合も多いが、治療を受けていない高血圧症の人は特に注意が必要だ。高血圧でありながらその自覚がない人も少なくないので、ウエイトトレーニングを始めるならまずは医療機関等で健康状態を確認しよう。
また、血圧に問題がなかったとしても、十分なウォームアップを行った上で高重量のセットに入るようにしてほしい。加えて、日常的に有酸素運動を取り入れて心肺機能を高めておくことも、安全にトレーニングを行うためには有用と言えるだろう。










