ハードスタイル・ケトルベル・トレーニングの無反動種目とバリスティック種目、それぞれの正しい動作やリズム、呼吸法をマスターすることで、より効率的かつ安全に筋力とスキルを向上させることができます。
本記事では、ストロングファースト(SFG)公認インストラクターであり、運動学・解剖学に精通するおの卓弥氏が、各種目のポイントや注意点を詳しく解説し、トレーニングの精度を高めるための実践的なアプローチを紹介します。
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ハードスタイルとして、すべての無反動種目(グラインダー)に通じること
稼動のテンポとリズムについて:リズムは周期的な動き、パターンを指して、テンポはそのパターンの速さを示すとご解釈を。
静止状態=スタートポジションとトップポジションでは1秒以上静止して、挙上は「1」の拍子、下降は「2」の拍子でおこなう。
回数とセット数、セット間休憩について:
- 5回を上限にして、5セットの実施をベースラインとする。
- ドリルは数多くあるが、5回✖5セットを1つの基準として、1~2分の休憩で、よどみなく正しくイーブンペースでおこなうことを達成する。
- カラダが強くなり、スキルが上がったら、上級指導者に相談するべき。
稼動中、極端な加速・減速はせず、イーブンペースでおこなう。リズムが崩れる前に、各セットは終了する。
動作が崩れることも禁止する。効果がない不良動作を身体と脳が記憶し、怪我の原因を作り、悪いクセをつけないようにする。当然、無駄な時間を過ごさないようにするためでもある。
楽にできるようになったと感じたら、このようにする。重量増加は、この後に熟考すれば良い。
楽にできるようになったと感じたら
◎より正確に行う。動作が浅くなったり重心がズレていないかチェックする。
◎各セットの実施回数(レップス)を同じ回数だけでなく、段階的に増やす、減らす、ランダムに変化させる。
◎セット間休憩を同じ時間だけでなく、段階的に増やす、減らす、ランダムに変化させる。
◎挙上、静止、下降の速度のメリハリをさらに強調する。挙上より下降スピードが速ければ怪我をする。
◎特に「静止」をハッキリさせる。無反動であることは英語で「DEAD」:勢いを殺しているということ。
無反動種目(グラインダー)の呼吸について
ストロングファースト=ハードスタイルとして、以下の方法がある。
- ロングブレス=稼動中、スタートし~フィニッシュまで継続して行う。
- 出力の瞬間に強い呼気を単発で行う。
- 動作の終末で、武道やパンチの「キメ:極め」を作るように強い呼気を単発で行う。
- 意図的に呼吸をしない=バルサルバ呼吸という技法(怒責運動で失神しない配慮が必要)。
- 上記1~3を自由に組み合わせて呼吸する。
どの呼吸法でも、鎖骨や僧帽筋、胸部が過度に動いたり、関与しないように行う。
吸気は鼻のみで腹部に入れ、呼気は上の前歯:切歯の隙間からコントロールして行う。
当初は、スタートポジションで稼動前に息を吸い、稼動中はコントロールしつつ長く息を吐き=ロングブレスし(上の前歯:切歯の隙間からコントロールして行う)、トップポジションでは一拍おいてから余裕をもって息を吸い、下降中は呼吸活動をせず、スタートポジションに戻ったら、あわてずに息を吸って、反復、または一旦終了とするのが、技術習得と安全性優先、強化のために望ましいと考える。
このやり方に慣れてきたら、他の2~5の方法を採用して、呼吸のスキルを上げていくと良い。
ハードスタイルとして、すべての有意的反動使用種目(バリスティック)に通じること
バリスティックとは弾道という意味であり、そこから転じて有意に反動テクニックを使って加速を得る種目という意味。バックスィングを必ずおこなう種目ということ。
バリスティック種目は、スィング、スナッチ、クリーン、ハイプルを指す。
バックスィングに不備があれば、すべてのバリスティック種目は成功しない。
バックスィングをするためのスタートポジションは、このようにおこなう。
- ポスチュアーをしっかり作り、その後にスタートポジションを決める。
- デッドリフトでは自分の重心の真下:内くるぶしの間にケトルベルを置くが、バックスィングでは、自分のつま先から20~30㎝前方にケトルベルを置き、ケトルベルを「見ずに」手でハンドルを探し、掴む。
- その後、ケトルベルを自分側に静かに30度以上傾ける。最初の動作=「後方に」振る=バックスィングをするために、必ずケトルベルは自分側に静かに30度以上傾ける。
- スタートポジションでケトルベルを垂直・直立に置いたままにするのは、脊椎にせんだん力(剪断力:ハサミで断ち切るような力)を発生させ、危険。しっかりした正しい反動が生まれず、効果は出ない。
指でつかむというより、深く包み込み、手首はパンチする時のようなイメージで、絶対に反らせずやや曲げる=グースネック:ガチョウの首の形にする。グースネックは、動作中、絶対にキープする絶対的な手首の形である。
グリップは、ケトルベルのハンドルを、カタカナの「ハ」の字に折るようにやや強めに前腕を回外する。
代表的なミス:スィングのトップポジションで、手首がストレート~反っているのは、どういう理由であろうと失敗である。反動でケトルベルだけが跳ねるのはOK。が、当初はテクニック向上のためにも、ケトルベルと上肢、身体全体が調和するようにスィングすると良い。
ニーインを禁ずる。足裏は傾かせず、つま先よりやや膝を外に広げる(オープン・ニー)の感覚を持つと良い。
でん部にある外旋6筋群が強く作用し、出力の強さ、快適性、脊椎の保護を同時に達成する。
下の左の写真は最初の動作=「後方に」振る=バックスィングであり、これが絶対的正解!前方や上への動作が、最初の動作ではない。ケトルベルのボトム=底面は、完全に後方を向いている。
トレーニングとしての基礎回数は、無反動種目より多くても良い。10回を超えても良いが、フォームと呼吸、各種のファンダメンタルが乱れないうちに、そのセットは終える。表情が崩れることも推奨しない。
正しくファンダメンタルを身につけ、活用できることをファーストとする。それには3~5回、体力がついても10回を超えずにおこない、加速と呼吸の強さを重視する。さらに楽になったらインターバルを短くし、またさらに楽になったら、バックスィングを速度アップし、トップポジションの浮遊時間、ストップ時間を延長する。
ドリルとテクニックはあなたの想像を遥かに超えて多く存在する。その都度解説する。重量をやたら焦って増やさずとも良い。
軽量のケトルベルは、重いものをあつかうように。重いケトルベルは、軽いものをあつかうように。これは心構えのみではなく、具体的にテクニックと戦略が存在する。ここを達成する者が上級者である。
10回という回数に縛られ、呪縛にかかっている方を多く見かける。パワフルに正しく安全におこなう。
これを達成することが最重要。回数は少なくても良い。持久力アップしたいなら、短インターバルで多セットおこなえば良い。瞬発系能力も向上する。
スィング、スナッチ、ハイプルは、その都度の体調や目的、フォームの正しさを観察しながら1~10回の回数を事前に決めるが、実施中、フォームの乱れを察知して安全に着陸し、回数が減ることは正義である。重いものが充分にコントロールできずに負傷することは、想定があまく、未熟であると言える。
何かのアクシデントがあっても、途中で自分で動作を止めず、着陸まで遂行する。途中で迷ってスィング動作を空中で止めたりすることは極めて危険。脊椎を中心としてカラダが壊れる。
安全に落下させることも事前に想定する。だからゴム付ではないケトルベルを推奨する=跳ねないので。
有意的反動使用種目(バリスティック)の呼吸について
ストロングファースト=ハードスタイルとして、以下の方法がある。
- スィングを行う場合、スタートポジションでは軽く息を吐いた状態にし、バックスィングでケトルベルが股下を通過する瞬間に、鼻からのみ自然な形で息を吸い、ケトルベルがスィングして前方移動し、股下を通過する瞬間に上の前歯:切歯の隙間から強くコントロールして息を吐く。これを絶対的基本とする。
- クリーンをおこなう場合、クリーンの後に、何の種目をどの様な重量で行うかで、吸気と呼気の使用法に違いがある。「息を止める」というと、危険性を連想しがちだが、安全におこなう技術があり、種目ごとの解説の際に、呼吸について細やかな指導を行う。
- スナッチをおこなう場合、スピード、回数、セットの前半~後半、意図的にスタミナ養成のために、などで、呼吸テクニックが変化する。目的、その日の達成事項などで、細やかな指導を行う。
- スナッチについては、さらに、トレーニングとしてのスナッチと、指導者になる際のテストとしてのスナッチの呼吸に、若干の違いがある。ここは機会をみてお話したい。
- ケトルベル・トレーニングをする時の基本的足幅とスタンス方向。お尻の位置=ヒップジョイントよりやや広め~種目や個体差に合わせて調整。つま先はフラットから外旋20度程度までを、種目や個体差に合わせて調整。つま先と日の向きは常に同じであり、ニーインは絶対に禁止。
どのような種目であっても、足部の外旋はこの程度までとして、過剰な外旋は避ける。殿部の外旋が達成できない。足幅についても、広過ぎると同様に効果を消すことになる。デッドリフト、スィングでよくあるエラー姿勢。殿部のテンション、肩のパッキングがなく、重心が不安定でベクトルの行方が明確でない。
第4回はおすすめのハードスタイル・ケトルベル・トレーニング2選をお伝えします!
SFG公認インストラクターおの卓弥氏が厳選した「絶対的におすすめなケトルベル・トレーニング」2選【ハードスタイル・ケトルベル・トレーニング❹】
おの卓弥(おの・たくや)
ストロングファースト(SFG:世界最大のケトルベル関連団体)認定インストラクター。外傷専門柔道整復師。内閣総理大臣認定スポーツ・サプリメントアドバイザー。解剖、生理、運動学的に正しいケトルベル・トレーニング=ハードスタイルを啓蒙するために、ブログ、インスタグラム、フェイスブック、X、YouTubeを展開。「ハードスタイル・ケトルベルSTUDYグループ」を運営し、500名近い会員を指導。正統指導者、チャンピオン、ダイエット成功者を生み出している。