初心者の諸君、「何をしたらいいか分からない」と困っていないか?
世界最大級の歴史あるフィットネスクラブ・ゴールドジムのメソッドから、成長のためのマインドや意識すべきこと、基礎5種目のフォームを解説。諸君が困ったときのバイブルとして役立ててほしい。
週に1回からでもいい
初心者だからこそ頑張りすぎないように
健康診断に引っかかったから、シェイプアップがしたくてとジムに入会したはいいものの、「何をどうしたらいいのか分からない」、「何日ジムに行ったらいいのか分からない」と、悩みを抱えている初心者は結構いるはずだ。
24時間制のジム、市営のフィットネス施設、マシンもフリーウエイトもフル装備のジム。現代ではフィットネスの普及とともに、多様なジムが展開されている。
どのようなジムに通っていようと、今より自分の身体を良くするために最も重要なことは、「1人で、正しいトレーニングができるようになること」と荒川孝行ゴールドジムアドバンストレーナー。最初は手取り足取り教わりながらトレーニングするのもいいが、「いずれは独り立ちをする」という気持ちが大切だそうだ。
「トレーニングはみなさんに一生やっていただきたいものです。『すべての人々に結果を』。これは、ゴールドジムが提唱する世界共通のコンセプトですが、〝結果〞を出すための大前提として、誰かのサポートなく、正しいフォームと知識を持ってトレーニングできるようになるのが一番大事です」
そう話す荒川トレーナーは、初心者に持ってほしいマインドとして〝頑張りすぎないこと〞を挙げる。「トレーニングはマイペースでいいんです。週に1日しか行けないんだよね……と、引け目に感じなくてもいい。気軽な気持ちでジムに来て、楽しく身体を動かしてほしいです。最初から力みすぎず、気持ちに緩みを持たせるのは、甘えでもなんでもありません」
人間にはホメオスタシス(恒常性)が備わっていて、極端な変化を嫌う生き物。運動習慣のない人が、いきなり毎日ジムに通ってトレーニングするというような極度の変化は、心身ともに大きな負担になってしまうのだ。
荒川トレーナーが「身体に極端な変化を与えないことが、効果を出すためにも一番重要で長続きするという研究データも出ている」と教えてくれたように、身構えることなく、まずは週に1回来ることから始めてもいい。
昨今、SNSでもさまざまなフィットネス関係の動画が閲覧できる。トレーニング動画だけでなく、闘争心に火をつけたり、頑張るモチベーションを上げてくれたりする投稿も多い。それを見てやる気を出すのは悪いことではないが、「感化されすぎないようにすることも大切」だと言う。緩く、気楽にジムへ足を運んでみよう。
イヤホン、自撮りといった昨今のジムマナー問題
ジムは自分だけのものではない。「ジムの利用率が伸びてきている反面、基本的なマナーをご存知ない方も多く見られるようになってきました」と荒川トレーナー。特に最近よく耳にするのは〝イヤホン問題〞だそうだ。
イヤホンをつけながらトレーニングすること自体は問題ない。集中力を高めるためにつけている人もジム内では多く見かける。ただ、その音量には注意が必要だ。
「周りの環境を察知できないほどの音量で音楽を聴いていて、人にぶつかってしまった、という話は聞きますね。こういったことは周囲の迷惑になってしまいますので、配慮をしていただきたいです」
また、自身をSNSに投稿する〝自撮り問題〞もあるという。「他の方が映り込んでしまうと、トラブルが発生する可能性が高いです。ですが、中にはフォームを確認するために自撮りをしたい、と考えている方もいらっしゃるでしょう。その場合は、通われているジムのスタッフや店舗の了承を得て行うのがベストです」
マナーが悪いトレーニーによって、不快な思いや怖さを感じた場合には「まずジムのスタッフに助けを求める」のが最適解だ。
日本で最も有名なジムと言っても過言ではないのがゴールドジム。とんでもないマッチョが行くイメージを持っているかもしれないが、ゴールドジムはガチ勢・ベテラン勢だけのものではない。
ゴールドジムのもう一つのコンセプト『すべての人々に本当のフィットネスを』を軸に、初心者に寄り添った取り組みがある。それが『初心者トレーニング説明会』だ。

初心者トレーニング説明会では、トレーニングの目的をカウンセリングによって深掘り。こうすることで、具体的な理想像を描くことができる
全6回にわたって行われる無料の説明会は、カウンセリングやトレーニング種目指導、栄養指導などで構成されている。6回すべて受け終えたとき、すでにある程度〝1人で、正しいトレーニング〞ができるようになっているのだ。
長い歴史の中で積み上げられた知見は、どのジムに通っていようと通用する、トレーニングにおいて普遍的なもの。荒川トレーナーに伺った説明会の内容から、初心者の読者にこそ知ってほしい極意を凝縮して届けたい。
目的に向け逆算し目標を数字で決めていく
ジムに通う目的は十人十色、といえども多くの人が「今より良い状態になりたい」と思っているだろう。初心者説明会でも行われるカウンセリングだが、1回目はトレーニングをする目的をどんどん深掘りしていくそうだ。そして2回目に具体的な数字を決める。
「一言で痩せたいといっても、その背景はさまざまです。どんな身体が理想なのか、どんなことがしたいのかといった〝欲〞を紐解きます。そして次は、お客様自身で数字を決めていただきます。ここで背伸びしなくても構いません。先ほども伝えたように、まずは週に1回から、でもいいんです」
いつものメニューにプラス1で新しい刺激を
初心者説明会では1回目から6回目まで、基礎5種目の指導が繰り返し行われる。いわゆる反復練習をしているわけだが、荒川トレーナーは「これじゃつまらないんですよ」と笑う。
「何回もやっているとお客様も慣れてきますから、簡単だと感じるようになってきます。そのため2回目以降は、基礎種目にプラス1種目を設けているんです」
毎回のトレーニングで身体の動かし方を身につけるだけでなく、新しい刺激を入れることも大切。トレーニングの醍醐味は、グッと頑張ることにあるのだ。ゆえに、プラス1種目では「追い込んでも怪我をしづらい種目」を採用しているそうで、具体的に挙げるとレッグカールやレッグエクステンション、サイドレイズといった単関節種目がメインとなる。
普段のトレーニングに1種目だけ、追い込む要素を加えると筋肉が張る感覚を味わえる。これを荒川トレーナーは「プチボディビルダー体験」と呼んでいて、追い込んだ達成感が身体をめぐる。
見た目は良いフォーム
でも本当に効いている?
一見するときれいなフォームでも実は対象筋を使えていない、ということは初心者でありがちだ。例えば胸を鍛えたくてチェストプレスをしても、胸ではなく腕に効いてしまっているフォームは「よく見かける」と荒川トレーナー。なぜなら、普段から胸を使ってドアを開閉する人などほぼいないからだ。日常では腕を使って物を押すことの方が多いため、チェストプレスでも腕で押してしまう、ということが起こる。
正しいフォームで正しい筋肉を使う感覚を養うために、初心者説明会で導入されているのがアイソテンショントレーニングだ。「何も持っていないエアーの状態でお客様にチェストプレスの動きを何度か行ってもらいます。胸が張り、収縮する感覚を掴んでから、本番のチェストプレスマシンで動作をすると、正しいフォームがすでにできているわけです」
人間の神経はあまり時間をおかずに似たような動きをすると、その動きをトレースする、と言われている。普段あまり意識して使うことのない胸や背中に対して行い、対象筋を目覚めさせるのだ。
一気に知識を入れないこと
一歩ずつステップアップ
あれもこれも、と一気に知識を溜め込んでしまうのも良くない。実際に荒川トレーナーも「まずはトレーニングの基礎知識や身体の動かし方を覚えてから、次の段階である栄養カウンセリングに進みます」と話す。トレーニングと同じくらい大切な食事。ただ、すべてを同時進行でしてしまうと、心身に負担がかかることを忘れてはいけない。常に意識すべきは、スモールステップだ。
これはトレーニングにおいても同様で、いきなり難易度の高い種目に挑戦する必要はない。初心者説明会のラスト6回目には、7回目に行うトレーニングメニューを作成する時間がある。
「ここで重要視していることの1つは、〝お客様自身が、すぐにできる種目か〞です。例えば、チェストプレスは習得済みなので、インクラインチェストプレスをメニューに組み込みます。」
一気に手を広げすぎず、基礎から少しずつ派生して種目を覚えていく方法で、トレーニングのバリエーションを増やしていこう。

基礎種目を手取り足取り教えるのは1回目だけ。 以降は少しずつ独り立ちのサポートをしていく
フリーウエイトとマシン
どちらを先にするべきか
「初心者さんでフリーウエイトに憧れる方も多いです。しかし、すべての人がいきなりフリーをできるわけではない、ということを念頭に入れておいてください。トレーニングのセオリーとしては、フリーからやった方がいいでしょう。体幹を安定させること、それに加えて身体の使い方も覚えられますし。ですが、高齢の方や既往歴がある方が、いきなり挑戦すると危ないこともあるのです」
フリーウエイトに挑戦したくなったら、まずは知識のあるトレーナーに見てもらった方がいい。これは正しいフォームを獲得するための必要条件でもある。
心得てほしいのは「トレーニングは怪我なく、楽しく、継続が大事」だということ。軌道が安定しているマシン種目で、身体や筋肉を動かす感覚を掴み、まずは大きな部位から、全身の筋肉をまんべんなく動かしていく。
次は、初心者説明会で反復する基礎5種目について、解説を交えてお伝えしよう!
あらかわ・たかゆき
1978年生まれ、東京都出身。パワーリフティング競技を主軸に国内外で活躍してきた。ゴールドジムアドバンストレーナーとして数多の初心者を指導。現在はトレーナーの育成にも注力している
取材・文・構成:小笠拡子 撮影:中原義史 Web構成:中村聡美