メンズフィジーク選手の中では、一際発達した腕を持つ西崎選手。太い腕を作り上げた秘密と、メンズフィジークで戦うために考える身体のバランスについて尋ねた。
取材・文:舟橋位於 撮影:naoki nakade 大会写真:中島康介 Web構成:中村聡美

西﨑空良 2022年オールジャパン選手権メンズフィジーク168cm以下級2位
僕の場合ですと、腕のトレーニングはレップ数が少ないのが一つの特徴です。トレーニング歴が7年目となって、トレーニング自体が上手くできるようになってきました。結果として、コンパウンド種目に代表されるような重量を扱う種目であれば、3レップで負荷を筋肉に乗せて効かせられるようになりました。そのため、1回のセットで4レップあれば、十分に筋肉を限界まで追い込むことができます。逆に、これよりも極端に回数を多くこなそうとすると、体幹をはじめとする他の部分に負荷が逃げてしまうような感覚があるので、避けるようにしています。
このように少ないレップ数で効かせる腕のトレーニング法は、2020年ごろから取り入れて継続していますので、もう4年ほど続けていることになります。今のスタイルになるより前は、1セットで15レップから20レップを行うトレーニング法も取り入れていました。しかし今は、3レップから、多くても7レップほどで効かせるテクニックが身についたので、このような少なめのレップ数の設定となっています。こうしたトレーニングとレップ数に対する考え方は、スクワットやショルダープレスなどの重量を扱う種目においても共通です。一方で、サイドレイズやレッグエクステンションのような単関節系の種目は、レップ数が少ないとしんどさが感じられないため、多めの回数で行って区別するようにしています。
過去を振り返って、最も腕の発達に貢献したと感じられる種目は、上腕二頭筋ならば、ストレートバーのバーベルカールとストレートバーのプリーチャーカールです。バーベルカールの良い点は、何よりも重さを持つことができるところです。プリーチャーカールは、二頭筋にだけピンポイントで効かせられる点が気に入っています。また、動作の中でストレッチと収縮の両方を意識できるところも良い部分だと思います。
上腕三頭筋は、ダンベルフレンチプレスとスカルクラッシャーで特に発達したと思います。ダンベルフレンチプレスが好きな理由は、動作に入るのが簡単だからです。EZバーを用いるタイプのバーベルフレンチプレスは、床からスタートポジションに持っていくのがやや大変です。その点、ダンベルのフレンチプレスならば、肩にダンベルを一旦乗せてから頭の後ろにぐるっと回すようにすると、簡単に始められます。スカルクラッシャーも、ダンベルフレンチプレスと同じように簡単に始められる点が好きです。バーベルを脚の上に乗せた状態から、ベンチに倒れるようにして仰向けで寝転がればスタートできます。またそれに加えて、重量を扱える種目であるところも良い点だと思います。
腕が他のメンズフィジーク選手と比べて太い理由としては、他の選手よりもトレーニングの頻度が多いことがあるのではと考えます。よく「メンズフィジーク選手には腕のトレーニングは必要ですか」と聞かれます。このことは、メンズフィジークでは腕はそれほど多くトレーニングする部位ではないと思われていることを表しているのではないでしょうか。自分の場合は、他の選手と比べると頻度の多いトレーニングを行ってきたので、それによって腕がずっと強化され続けているのかもしれません。ただ、自分では頻度やセット数という点で量がとてつもなく多いトレーニングをしているとは思っていないので、特別な意識をした上で腕を強化してきたという感覚はないとも言えます。
一方で腕が太いということは、メンズフィジーク競技としての観点だと、審査基準から外れてマイナス評価になってしまうのではないかとも考えられます。確かに、フロントポーズを取ったときに他の選手と比べて腕が太すぎると、審査員からの印象は良くないかもしれません。それでも自分の場合は、応援してくださっている方や見にきてくださっている観客の方に「何あの腕! 一人だけ全然ちゃうやん!」というように、腕が太いことで大きなインパクトを与えたいと思っています。ただ、競技で勝っていくためには、メンズフィジークが審査競技である点を無視することはできません。そのため、自分が生かしたいと考える太い腕に釣り合うように、肩を大きく発達させる努力をしています。肩を発達させて全体としてのバランスを上手く取ることで、腕が太くても勝負していけるようにすることを考えています。
これから腕を太くしていきたいと考える方には、バーベルカールのような王道の種目を勧めたいです。ただし、バーベルカールは難しさや深さがある種目でもあります。そのため、誰かのトレーニング内容をそのまま真似して取り組むというのは良くないです。まずは、軽いものでも良いので自分で実際に持ってみて、量をこなしていくことが大切だと思います。サッカーの本田圭佑選手が「量をこなさないと質はついてこない」というようなことを言っていたのと同じ意味で、とにかく始めて継続することを意識して、その中で少しずつ重量を増やしていくのが良いのではないでしょうか。最初の段階から質を高めることを考えてトレーニングしないことが、一つのポイントだと思います。