ピラティス フィットネス

スマホとデスクワークで固まった背骨は一筋縄では動かない!ピラティスで「頭と身体の連携」を整えて背骨本来の動きを取り戻そう

株式会社Aulii代表で、DKPilatesマスタートレーナーの辻茜さんに、「背骨」が私たちの生活にもたらす影響、そしてピラティスが背骨を重視する理由を伺いました。背骨を一つずつ動かすピラティスのアプローチで得られる効果とは?

背骨は生きることの基盤

━━ピラティスでは、背骨のアライメントや動きが重要視されています。改めて、私たちにとって背骨はどれほど大切なものなのでしょうか?

辻 脊柱、つまり背骨と骨盤は私たちの身体の土台となる部分。土台がなければ、もちろん立ち上がることも、動作を行うこともできませんよね。屈曲、伸展、回旋といったあらゆる動きの自由度を持つ背骨を機能的に使うことは、やはり健康維持の最大の伴になると思います。

━━ただ、腹筋など身体の前側に比べて、背面を意識することは少ないかもしれません……。

辻 腹筋のトレーニングやエクササイズは多いですが、背面を意識的に鍛え、重力に抗してまっすぐ立つために背骨を伸展させるといったことは見過ごされがちですよね。でも、ピラティスの創始者、ジョセフ・ピラティス氏は、背面でしっかりと身体を支えて動くことを重要視していました。その理由の一つとして、後頭部や背骨、骨盤、踵など、身体のなかで最も重い部分が、すべて背面に位置しているからだと。

━━重心が後ろにあるからこそ、背面を意識する必要があると。

辻 人間の身体は、正面が開いている構造をしています。頭蓋骨を見ても口が開いていますよね。背面がしっかりと安定し、強い状態であることによって、前面は自然と開き、伸びやかな、正しい姿勢を保つことができます。ピラティスでは、この当たり前の、機能的な姿勢を取り戻すために、後方の意識を高めるワークを数多く行うわけです。

━━ピラティスのワークに背骨を意識したものが多いのも、人間の身体の構造に関するピラティス氏の考え方が強く影響しているのですね。

辻 ピラティス氏はスタンディングのワークを非常に重視し、レッスンも立った状態から始めることが多かったと聞きますが、これも私たち人間が、他の四足歩行の動物たちとは違い、二足歩行で生活していることに基づいているのだと思います。

眠れる椎骨を目覚めさせるアーティキュレーション

━━ピラティスのワークでは、背骨を1個ずつ動かす「アーティキュレーション」という独特なアプローチがありますね。

辻 背骨の構造をおさらいしておくと、私たちの背骨は首に7個の頸椎、背中に12個の胸椎、腰に5個の腰椎、合わせて24個の椎骨が積み重なってできており、その形状は少し平たい玉が積み木のように連なっているイメージなんですね。そして、椎骨一つひとつを取り囲むように無数の筋肉が付着し、それらが協調することで、背骨全体として高い柔軟性を生み出しているんです。

━━椎骨がきちんと動けば、柔軟性の高い身体をキープできるのですね。

辻 ただ、骨の数が多くて全体として長さもある背骨は、ふだんの生活のなかで全ての部分を均等に使い切れていないことが多いんです。たとえば、長時間同じ姿勢でいたり、特定の動作を繰り返したりすることで、一部の椎骨だけが過剰に動き、他の椎骨はほとんど動かないといった状態が生まれてしまいます。そこで、背骨の様々なワークを通して、ふだん使いこなせていない椎骨に意識的にアプローチをかけることで、背骨本来の機能を取り戻し、身体全体の健康を促進するというのが、ピラティスの考え方なんですね。

ピラティスの内観で深める脳と身体の連携

━━ふだん意識できていないだけに、椎骨を一つひとつ意識するのは、とても難しい気がします。

辻 取材を受ける際などにも、「胸椎を1個ずつ動かすなんて、本当にできるんですか?」と、よく質問されます。重要なのは、目に見えない部分への意識。インナーマッスルという言葉は広く知られていますが、見えない筋肉は、実際に縮んでいるかどうかを触って確認することができませんよね。ピラティスで実際に行っているのは内観、つまり自分の内側の感覚に意識を集中させることなんです。

━━頭のなかで動きをイメージするということでしょうか。

辻 その通りで、脳で考えたことを身体に命令として伝えること。胸椎の1番目、2番目、3番目……というように、意識的にトレーニングしていくことが、ピラティス氏が提唱した「頭と身体の連携」なんですね。目に見えない部分だからこそ、一生懸命にその存在をイメージし、使いこなそうとすることで、背骨のトレーニングだけでなく、脳と身体の連携能力そのものを鍛えることにもつながると考えています。

━━脳と身体の連携を高めることは、日常生活においてどのように影響してくるのでしょうか。

辻 人間は、「右手を前に」と意識するから右手が動きます。でも、この当たり前の連携は加齢とともに徐々に低下し、足を上げたつもりでもつまずいてしまうなど、自分の思い通りに動けなくなってきます。そういった意味でも、ふだん意識しにくい背面のパーツに対して頭で命令を起こし、内観を通して動かすトレーニングは非常に重要だと思います。

━━ピラティスのワークを行う際は、常に一つひとつの椎骨の動きに集中されているのですね。

 できる限り集中するように心がけています。ピラティスは「量より質」を重視していますが、ただ多くの回数をこなすよりも、一つひとつの動きに集中し、正確に行うことの方がはるかに大切なんです。

特に動かしづらい胸椎の改善で動きも見た目も大きく変化

━━背骨のなかで、特に意識しにくい、あるいはふだんあまり使われていない部分はありますか?

辻 最も意識しづらいのは、やはり胸椎ですね。首や腰は比較的動きやすいのですが、胸椎は肋骨に覆われているため可動域が制限され、意識的に動かさない限り、その存在を実感しにくいんです。

━━個人的には、首や腰に痛みを感じやすいのですが。

辻 それも、胸椎の動きと関連している可能性があるかもしれません。胸椎の動きが硬くなると本来安定しているべき首や腰が、その動きを補おうとして過度に働き、負担が増加してしまうんです。たとえば下を向く動作では、胸椎の柔軟性が低いと首だけで頭を下げがちになり、首に大きな負荷がかかります。腰痛に関しても、本来安定している腰椎が、胸椎の可動域制限によって過剰に動き、痛みを誘発することがあります。

━━胸椎の柔軟性が、背面全体の快適さにもつながっていくんですね。

辻 そうですね。胸椎の柔軟性を向上させ、円滑に動かせるようにすることで、全身の動きがより正確かつ機能的になります。ただ、日常の生活習慣、たとえばデスクワークやスマートフォン操作などによる長時間の同一姿勢の継続は、背骨の柔軟性を著しく低下させる原因となります。特に、頭部が前方に傾くような姿勢が続くと、首や背中の筋肉に過度な負担がかかり、筋肉がゆるんで伸びてしまった結果、猫背などの不良姿勢を引き起こしやすくなります。

━━背骨の柔軟性は姿勢などの見た目にもかなり影響しそうですね。

辻 背骨のなかでも、胸椎は回旋の動きを得意としています。回旋は物を拾う、後ろを振り返るなど、日常生活における多様な動作に不可欠です。この動きが円滑になると、効率的に身体を動かすことができますし、颯爽とした動きになる。反対に、硬くてねじれない身体は、どうしても老けた印象を与えがちです。ピラティスを通して眠っていた背骨の動きを呼び覚まし、全身をスムーズに動かすことは、より快適で活動的な生活を送れることはもちろん、若々しいシルエットや動作にもつながっていくと思います。

辻茜さんと始める
背骨一つひとつを動かすワーク6選

背骨の動きを呼び覚ます!背骨の機能改善・向上につながるワークを辻茜さんにレクチャーしていただきます。

❶キャデラックを使った
ドルフィン

ねらい背骨のアーティキュレーション

①ストラップに両足をかけ、キャデラックのフレームを両手で持ち、写真の角度で全身をキープしてスタートポジション。スプリングは強めのものを使う。

②腹圧を使い、反ったり曲げたりしないように背骨をコントロールしながら両膝を曲げていく。

③キャリッジにつま先をつけたら、腹圧をしっかりかけてスプリングのパワーに抗いながら、背骨の椎骨を一つずつ下ろしていく。
④背骨のアーティキュレーションを意識しながら両脚をまっすぐ伸ばしたら、逆の手順でスタートポジションに戻る。

アーティキュレーションを意識せず、背骨がフラットなままお尻の上げ下げだけになってしまうのはNG。椎骨一つひとつの動きに集中しましょう。

❷キャデラックを使った
キャット&カウ

ねらい胸椎の伸展・屈曲/肩関節の安定

①ベッド上で両膝を立て、プッシュスルーバーに両手を軽く乗せてスタートポジション。
②肩関節の安定を意識しながら両手でバーを押し下げ、腹圧をしっかり使って背骨を丸め込んでいく。
③両手でバーを軽く押しながら、背骨を伸展させる。カウ姿勢が取れたら、前鋸筋や背筋群を動員してスタートポジションに戻る。

背骨を伸展させるカウ姿勢ではどうしても腰椎に負担がかかりやすいので、しっかり腹圧をかけて腰部を安定させ、胸椎伸展を意識する。

❸リフォーマーを使った
コブラ

ねらい背骨のアーティキュレーション

①キャリッジに乗せたボックスに両手両脚を伸ばしてうつ伏せになり、プッシュスルーバーに両手を軽く置く。
②骨盤で押すイメージでキャリッジを前方にスライドさせながら、背骨全体を均等に伸展させていく。
③背骨を伸展させたら、腕の力に頼らず前鋸筋などで肩周りを安定させながらキャリッジをスライドさせ、スタートポジションに戻る。

2番目の手順を飛ばして、いきなり腰椎だけを反らしがち。椎骨一つずつを伸展させるように意識すること。

❹チェアを使った
サイドストレッチ

ねらい背骨の側屈

①チェアの座面に片方の座骨を乗せて座り、フットペダルに片手を軽く乗せる。反対側の手足を一直線に伸ばしてスタートポジション。
②下側の腹圧をしっかりかけ、手足を伸ばした側の体側を気持ちよく伸ばしていく。反対側も同様に。

ペダルに体重をかけてしまうと背骨が均等に側屈しないので、ペダルに抵抗して腹圧で身体を押し上げるイメージで行うと、胸椎まで側屈できる。

❺マットで行う
ロールアップ

ねらい背骨のアーティキュレーション

①両手両脚を伸ばしてマットにあお向けになる。背中は軽くS字カーブを描くニュートラルポジションに。
②骨盤中央の仙骨が浮かないように気をつけながら、椎骨1つずつをマットから剥がしていくようなイメージで起き上がる。
③上体が起き上がったら、椎骨を1つずつマットにつけていくイメージでスタートポジションに戻る。

腰部が硬いと腹直筋や前腿の筋肉で力任せに起き上がりがち。腰の後ろにバスタオルを置くなどして高さを出し、動きを誘導すると上がりやすくなります。

❻マットで行う
ニーロッキング

ねらい背骨の回旋

①マットにあお向けになって両手を伸ばし、両脚は揃えて上げ、両膝を90度に曲げる。
②胸椎12番(一番下の肋骨付近)くらいからひねっていき、下半身を骨盤ごと横に倒す。脚は床につけず、腹斜筋を使って写真の高さにホールドする。
③腹筋部の力で下半身をスタートポジションまで戻したら、反対側にも同様にひねる。

両方の肩や肩甲骨は浮かせず、しっかりマットを押すようにして実施すると、より正確に回旋の動きができる。

辻茜(つじ・あかね)
株式会社Aulii代表取締役。幼少よりクラシックバレエを始め、松山バレエ学校、同バレエ団を経て、パリに留学。その後渡英。ViennaFestivalBalletにてソリストとして活躍中の怪我を機にピラティスに出合う。渡米し、ピラティスをDollyKelepeczに従事。ネバダ州立大学公認DKBodyBalancingPilatesを取得。2016年乳がん学術学会にて、乳がん術後ケアのためのピラティスについて発表。医療と連携し、マタニティーピラティスや乳がん術後ケアピラティスも手がけ、女性のためのヘルスケアプログラムを制作、院内の講座を行なっている。整形外科医との医療連携も行い、術前術後のメンテナンスとしてのメディカルピラティスの導入や、アスリートのためのメディカルピラティスも行う。2020年から、国内最大ピラティスイベントPilatesFesta主催。

取材・文:藤村幸代 撮影:中原義史 Web構成:中村聡美

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