年齢を重ねるとともに変化する身体……。でも、諦めなくても大丈夫!今回は、フィットネストレーナーの小倉シエカさんが、50代、60代からのボディメイクで知っておきたい身体の変化と、それに合わせた効果的なトレーニングの秘訣を教えてくれます。ムリなく、楽しく、長く続けられるメソッドで、人生最高のグッドコンディションを目指しましょう!
[初出:Woman'sSHAPE vol.30]「身体を動かそう」そのきっかけと向き合い方は?
50代、60代になって「よし、久しぶりに身体を動かそう!」と思うきっかけは、送ってきたライフスタイルによって人それぞれだと思います。
「体型を整えたい」というボディメイクへのモチベーションはもちろん多いと思います。そこにプラスして、年齢を重ねていくと運動不足による身体の痛み、不調、健康診断の数値の悪化など、健康への危機感が大きなきっかけになる方も少なくありません。
ただ、いざ身体を動かしてみると、「あれ、身体が思ったように動かない」「若いころとは違うな」と、がっかりしてしまうこともあるかもしれませんね。でも、そこで諦めてしまう必要は全くありません。20代、30代から運動を続けている方は「以前より身体が硬くなった」「力が入りにくくなった」など、変化を感じやすいものです。
一方で、これまであまり運動してこなかった方や、長い期間、運動から遠ざかっていた方は、比較対象がない分、かえって先入観なくトレーニングに入っていけるというメリットもあります。
中高年期からトレーニングを始める上で大切なのは、安全に、楽しく、長く継続することです。そして、一番のカギは、何よりも「心身の健康を高める」のを最優先の目的にすること。その上で、「怪我をしない」ことと「効果をきちんと出す」ことを意識して取り組んでいきましょう。これら2つは、年齢を問わずトレーニングの基本ですね。
加齢で変わる女性の身体とホルモンの関係
50代、60代の女性は、閉経や更年期といった女性のライフサイクルにおける大きな変化を迎える方が多く、女性ホルモンの影響を受けやすい年代でもあります。こうしたホルモンの変化が身体にどんな影響をもたらすかを知った上でトレーニングに取り組むと、より快適な身体を手に入れることができます。
加齢とともに減少する代表的な女性ホルモンが「エストロゲン」です。このエストロゲンの低下により、さまざまな変化が起こります。そのひとつが「内臓脂肪がつきやすくなる」という現象です。これまでの食事量を変えていないのにお腹周りが急に落ちにくくなったり、ボディラインが変わってしまったりと悩む方もいるでしょう。また、トレーニング経験がある方なら、以前より負荷や回数を増やしても、身体がなかなか反応してくれないと感じることも多いと思います。
エストロゲンの減少は「血管の弾力性の低下」にもつながります。血管が硬くなると、動脈硬化のリスクも高まり、健康寿命を大きく縮める要因になることもあります。内臓脂肪や動脈硬化の予防には、今回ご紹介するコンディショニング系のエクササイズに加え、ある程度の有酸素運動も取り入れると良いでしょう。
もうひとつ、「骨密度の低下」もエストロゲン減少に伴う現象です。骨は常に古い骨が壊され(骨吸収)、新しい骨が作られる(骨形成)という「骨のリモデリング」を繰り返していますが、エストロゲンが減少する中高年期は、骨の破壊に生成が追いつかなくなる時期でもあります。そのため、骨密度の低下を遅らせるためには、骨に適度な負荷をかけるトレーニングや運動が非常に重要です。骨は重力や運動による刺激を受けることで、骨密度を維持・向上させる性質があるため、早い時期からトレーニングを習慣化することが推奨されているのです。
女性ホルモンの低下で関節と筋膜も硬くなる
コンディショニングや機能改善に関連して、エストロゲンの低下による代表的な変化が「関節の硬化」です。関節を取り巻く組織、特に「筋膜」もエストロゲンの影響を受けるため、加齢とともに硬くなる傾向があります。筋膜の硬化は、女性の身体に特に顕著な変化と言えます。というのも、男女のうち女性の筋膜にだけ性ホルモンの受容体が存在しているからです。これは、妊娠や出産の際に筋膜を柔らかく保つためのメカニズムと考えられますが、エストロゲンの低下によって筋膜が硬くなると、それに囲まれた関節も硬くなってしまいます。こうしたメカニズムを理解すると、やはり関節や筋膜が硬くなる前から、可動域を確保するような運動を習慣化していくことが大切だと実感できますよね。
以上のように女性ホルモンの低下による私たちの身体の変化を見ていくと、中高年の運動については内臓脂肪や動脈硬化予防に有酸素運動を取り入れること、トレーニングで骨への適度な刺激を入れて強い骨を保つこと、そして筋膜や関節の可動性にアプローチする運動も取り入れることがポイントになります。まとめると、中高年の方の運動は「強度より頻度」がキーワード。筋トレだけにこだわったり、一つひとつの運動強度を高めたりするよりも、運動の頻度を保って様々なバリエーションの運動をしていくことが、「心身の健康を高める」ことにつながるでしょう。
「視覚に頼らない」のが中高年トレーニングのコツ
年齢を重ねると、男女問わず「視覚依存」、つまり目からの情報に頼りがちになります。「見る」機能が年々低下するため、より一生懸命見ようとしてしまうこと、そしてバランス感覚やとっさに身体を動かす瞬発力などが低下して視覚に頼ろうとしてしまうこと、この2つが視覚依存を進行させると言われています。
視覚依存が進むと、危険察知が遅れて転倒や事故のリスクも高まります。中高年期こそ、私たちが本来持っている身体感覚を上げていくことが必要になるのです。皆さんが悩むボディラインの改善には、やはり筋力トレーニングが最も有効ですが、そこにぜひ感覚も鍛える「動きのトレーニング」も入れていきましょう。たとえば、単にスクワットの上下運動だけでなく、椅子から立ち上がるように前方に動きながら立つなど、重心移動を伴う運動を取り入れると生活動作のレベルが上がり、日常生活での「よっこいしょ」を避けられるようになります(笑)。このように、同じ筋肉を使う場合でも、変化を伴う刺激を与えてあげることが、日々の生活の快適さに直結します。
何歳になっても好きな場所へ歩ける身体に!
今回ご紹介するエクササイズには、骨盤周りへのアプローチも取り入れています。ボディライン的にも機能的にも、40歳を超えたあたりから下腹部に力が入らないなど、骨盤周りのゆるみや機能低下を感じる方が多くなるからです。
骨盤周りは、関節の不安定性や筋肉の収縮感の低下が特に顕著なエリアでもあります。女性特有の尿漏れなどのお悩みにもつながる筋肉をしっかり使えるように、骨盤周りの感覚を取り戻していきましょう。次ページで紹介するエクササイズでは、そこから身体の多方向への動きを伴う種目や、反射力、バランス感覚などを養う種目へと段階的に進んでいきます。
年齢を重ねると、私たちの身体はどうしても個人の動きのクセが定着してしまいます。身体を固めがちな人、逆にゆるみがちな人と両極端になりがちですが、本来の私たちの身体は、安定性、可動性や柔軟性から来る自由度、瞬発力、バランスなど、動作のチャート図が五角形、六角形に満遍なく広がるのが理想です。
筋肉は、動けてこそ価値が生まれるものです。せっかくボディラインが整っても颯爽と動かせないと勿体ないですし、自分の足で行きたい場所に行けないのは少し寂しい人生ですよね。「いつまでも、行きたい場所に、元気に行ける身体」づくりを一緒に始めていきましょう。
地味だけど効く!
“動ける身体”を諦めない
全身コンディションエクササイズ
地味だけど変わる!効く! シエカ式エクササイズ7選。
骨盤や背骨のアライメントも整えられるので、ゆがみのない状態で“大人トレ”をスタートできます!
シエカ
1979年生まれ。フィットネストレーナー/運動経験ゼロであったが、体型の崩れをきっかけに2007年、27歳で筋力トレーニングを開始。JBBFボディフィットネスに出場し、東京・関東(初代)・東日本(初代)大会チャンピオンとなる。2010年に全日本大会準優勝、11年東アジア選手権代表に選出。現在はピラティス、ウエイトトレーニング、筋緊張抑制などを組み合わせたコンディショニング&ボディメイクを行うパーソナル指導を中心に活動中。
取材・文:藤村幸代 撮影:中原義史 Web構成:中村聡美
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