一般競技者からトップアスリートまで、さまざまな選手や一般の人の“食”を指導する管理栄養士・健康運動指導士のTejin(テジン)が、魚の栄養について解説します。
筋トレをしている方にとって、たんぱく質が豊富なお肉を選ぶことは多いと思います。しかし、魚を習慣的に取り入れることで得られるメリットは非常に大きいのです。
ボディビルダーに人気の3つの理由
1.不飽和脂肪酸が豊富
魚には不飽和脂肪酸(特にn-3系脂肪酸のEPA・DHA)といった筋肉の疲労回復や炎症抑制に役立つ成分が豊富に含まれています。
また不飽和脂肪酸は健康面でも良い影響を与えます。
・血中LDLコレステロール値を下げる
・動脈硬化を防ぐ
・血圧を下げる
日本人の食事摂取基準(2025年版)によれば、12~49歳男性のn-3系脂肪酸の目安量は1日2.2g。実はさばを1切れ食べればこれをほぼ満たすことができます。
2.ビタミンDが豊富
魚は筋肉や骨に欠かせない吸収率の高いビタミンDも豊富です。
ビタミンDは骨の健康だけでなく、男性ホルモン・テストステロンと関係があることが分かっています。テストステロンは筋肉合成を促進し、トレーニング効率を高める可能性があるため、魚を食べることは「筋肉づくり」と「ホルモン環境の最適化」の両面で有効です。
3.ミネラルが豊富
赤身魚には鉄分、小魚にはカルシウムが豊富で、いずれも吸収効率が高い栄養素です。
鉄は酸素運搬や疲労予防に、カルシウムは骨や神経伝達に重要で、ハードなトレーニングを行う人にとって欠かせません。
主要4魚種の栄養比較(100gあたり)
魚種 | たんぱく質 (g) | 脂質 (g) | n-3系脂肪酸 (g) |
---|---|---|---|
さば(まさば) | 20.6 | 16.8 | 2.1 |
まぐろ(きはだ) | 24.3 | 1.0 | 0.2 |
さけ(しろさけ) | 22.3 | 4.1 | 0.9 |
たら(まだら) | 17.6 | 0.2 | 0.1 |
※出典:日本食品標準成分表(八訂・増補2023年)
魚種ごとの特徴とおすすめポイント
さば
・秋~冬が旬でEPA・DHAが豊富。
・1切れ(約100g)で1日のn-3系脂肪酸目安量をほぼ満たす。
・缶詰でも手軽に取れるため、一人暮らしや外食が多い人にもおすすめ。
まぐろ(きはだ)
・低脂質で高たんぱく。
・鉄分が豊富で、女性アスリートや持久系競技者に有効。
・減量中のたんぱく質源として優秀。
さけ(しろさけ)
・白身魚に分類されるが、赤色はアスタキサンチンという強力な抗酸化成分によるもの。
アスタキサンチンはビタミンCの6000倍の抗酸化力を持つとされ、美容や疲労回復に効果的。
・ビタミンDも多く、骨や免疫の強化に有効。
たら(まだら)
・脂質0.2g/100gと超低脂質。
・高たんぱくで消化に優しく、減量期や体調が落ちているときに最適。
・鍋料理などで取り入れやすく、私が働くボクシングジムでもダイエット目的の会員さんにおすすめする機会が多いです。
n-3系脂肪酸と調理法の注意点
EPAやDHAは健康効果が高い一方で、熱に弱く調理で損なわれやすいことが知られています。
さんまを用いた研究によると、加熱調理後の残存率は以下の通りです。
・グリル焼き EPA: 87% DHA:84%
・フライパン EPA: 77% DHA:85%
・揚げ物 EPA: 51% DHA:58%
効率よく取るには刺身や軽いグリルがおすすめです。
食べ方のポイント
・旬の魚を選ぶ→栄養価が高く、美味しい。
・調理法は刺身orグリル→脂肪酸を守りながら摂取。
・毎日1品、魚を取り入れる →お肉とローテーションして栄養バランスを確保。
まとめ
魚は「お肉に並ぶ、あるいはそれ以上に有効なたんぱく質源」です。特にさばは、たった1切れでn-3系脂肪酸を1日分満たせる優秀な魚。
目的に応じて さば=n-3系脂肪酸補給、まぐろ=スタミナUP、さけ=美容・疲労回復、たら=ダイエット期と使い分けることで、パフォーマンスUP・疲労回復・ボディメイク効率を高められます。
魚を「週に数回」ではなく「毎日の食卓に1品」加えることを目標にすると、身体づくりや健康に大きな差が生まれるでしょう。
■参考文献
・健康日本21アクション支援システム Webサイト
・厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
・文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
・Mechanisms of Docosahexaenoic and Eicosapentaenoic Acid Loss from Pacific Saury and Comparison of Their Retention Rates after Various Cooking Methods - PubMed
■著者プロフィール
申泰鎮(シン・テジン)
管理栄養士・健康運動指導士。高校時代のボクシング経験をきっかけにスポーツ栄養士を志す。現在はボクシングジムや大学ラグビー部で、増量・減量・コンディショニングに対応した栄養サポートを実施。競技者から一般層までを対象に、食事・サプリメント・身体づくりに関する実践的な支援を行う。執筆や講演活動も多数。