トレーニングと並行して「腸活」に取り組むトレーニーが急増している。プロテインを取り、筋トレに励み、睡眠を確保する……といった「見える努力」に加え、今や多くの人が腸内環境を整えるという「見えない努力」に価値を見出しているのだ。
しかし、そもそもなぜ「腸」が筋肉づくりに不可欠なのか?その関係を正しく理解している人は意外と少ないかもしれない。そこで、長年にわたり消化と栄養について研究・開発を続けてきた企業の専門家たちに話を聞くと、そこには驚くべき科学的根拠があった。
腸は「第二の脳」であり、免疫の司令塔
「腸内環境」と聞くと、多くの人は漠然と「お腹の調子」という程度にイメージしがちだ。しかし実際の腸は、はるかに複雑で重要な役割を担っている。
腸内には、実に40兆から100兆個もの微生物が共生している。この膨大な微生物群は「腸内フローラ」と呼ばれ、一つの生態系を形成している。「腸内環境とは、これらの微生物だけでなく、腸の粘膜や免疫細胞も含めた腸全体の環境を指しています」と説明してくれたのは、『わかもと製薬』ヘルスケア開発部の鈴木信之部長だ。つまり、腸は単なる消化器官ではなく、全身の健康を司る司令塔なのだ。

『わかもと製薬』ヘルスケア開発部 鈴木信之部長
なぜ筋肉づくりに腸が関わるのか
では、この腸内環境が筋肉づくりにどう関わってくるのだろうか。鈴木氏の解説によれば、答えは意外にもシンプルだ。
「筋肉の素はタンパク質ですが、腸の状態が悪ければ、どれだけ良質なタンパク質を摂取しても十分に吸収されません。腸内の悪玉菌は、実はタンパク質が大好物。消化が不十分なまま腸に届いたタンパク質は、悪玉菌の絶好のエサとなってしまうのです」
その結果、悪玉菌が増殖し、腸内環境のバランスが崩れてしまうという。
「一生懸命トレーニングして、プロテインも大量に取っているのにお腹を壊してしまうとか、思ったような成果が出ないという人は、これが要因であることも多いのです」
どんなに高品質なプロテインを使っても、どんなに綿密に栄養計算をしても、腸が正常に機能していなければ意味がない。「筋肉づくりの出発点は腸にあり」と言えるのは、こうしたメカニズムによるのだ。
メンタルヘルスにも影響する脳と腸のつながり
さらに興味深いのは、腸と脳の関係だ。「脳腸相関」と呼ばれるこの現象は、近年の研究で注目を集めている分野だという。
「ストレスを感じると胃が痛くなったり、緊張するとお腹を壊したりする経験はどなたにもありますよね。これは脳から腸への影響ですが、実は逆方向の影響もあることが分かってきています。実際、腸の状態が良いとストレスの緩和やメンタルヘルスの改善にもつながるという研究結果も出てきているのです」(鈴木氏)
ハードなトレーニングが身体だけでなく精神的にもストレスを与えるのは、トレーニーなら自明のこと。少しでも早い疲労回復や精神的な安定のためにも、腸内環境を整えることは重要な意味を持つ。
理想の腸内環境をチェックする方法と日常のコツ
自分の腸内環境が良好かどうかを判断するには、やはり便の状態をよく観察することが基本中の基本だ。観察のポイントについて、鈴木氏が以下のように解説してくれた。
「理想的な便はバナナのような形をしており、スルッと排出されます。その一方、コロコロとしたウサギの糞のような便や、べちゃっとした軟便は、腸内環境の悪化を示すサインであることが多いと思います。また、おならの臭いは悪玉菌がタンパク質を分解してできたガス由来のもの。臭いがきつい場合は、腸内環境が悪化している可能性が高いと言われています」
日々のセルフモニタリングを習慣づけることで、腸内環境のコンディションを正確に把握することが可能となる。
では、実際に腸内環境を改善するには何をすればよいのだろうか。基本となるのは、食事、運動、睡眠、ストレス管理といった生活習慣の改善だ。特に食事においては、発酵食品の摂取が効果的だとされる。
「発酵食品には乳酸菌などの善玉菌が多く含まれています。また、善玉菌のエサとなる食物繊維の摂取も重要です」とは鈴木氏のアドバイス。ヨーグルトや納豆、味噌などの発酵食品を日常的に摂取し、野菜や海藻類から食物繊維を補うことで、腸内環境の改善が期待できる。
また、忙しい日常で手軽に効率的な腸活を取り入れたい場合は、市販のサプリメントや医薬品を活用するのも一つの手だ。腸活ブームもあって数多くの商品が出回っているため、どのような成分が配合されているかを確認することが大切だと鈴木氏は言う。
「市販の製品には『消化』と『整腸』という2つの働きに着目したタイプもあります。自社製品の『強力わかもと』を例にあげれば、麹菌と乳酸菌、酵母という天然由来成分を配合し、消化酵素によって栄養素の吸収を助け、乳酸菌で腸内環境を整えることで、プロテインなど高タンパクな食事を効率的に取れるものも。このように、それぞれの成分の働きを知ることが、ご自身の目的や症状に合ったアイテムを選ぶ上での一番の近道ではないでしょうか」

強力わかもと(1000錠)
筋肉づくりを支えるのはやっぱり「見えない努力」
腸内環境を整えることは単なるお腹の調子を良くすることにとどまらず、トレーニング効果の最大化や、日々の健康維持に欠かせない重要な要素だ。冒頭でも触れたように、「見える努力」に加えて、理想の身体づくりには腸内環境を整えるという「見えない努力」も欠かすことはできない。
「消化と吸収をもとに筋肉を作るという活動は、筋トレに関係なく、人間が生命活動を続けるための根幹をなす営みです。ただ、特にトレーニングやスポーツと真剣に向き合うアスリートの皆さんが、多くのタンパク質を必要以上に一気に取ってしまうと、どうしても消化しきれないものが出てきます」と語るのは、『わかもと製薬』の佐藤公彦常務取締役だ。そうであれば、市販のアイテムなども活用しながら、この「消化しきれない問題」を解決することが、効率的な筋肉づくりの重要な鍵となることは間違いない。

『わかもと製薬』佐藤公彦常務取締役
後編では、なぜ現代において腸活がこれほどまでに注目されるようになったのか、その社会的背景を探るとともに、日本の健康食品・医薬品業界の歴史を通じて、理想的な腸活サポートがどのように生まれたのかを紐解いていく。
取材・文:藤村幸代 写真提供:わかもと製薬