ボディビル大会出場は、社会人にとって簡単なことではない。大きな筋肉を築くための十分なトレーニング時間の確保、スケジュール調整など、数多くの壁がある。
「トレーニング自体が難しい時期も長かったですが、『いつかはまた大会へ』という思いだけは消しませんでした。この歳になってようやく夢が叶いました」
8月24日(日)に開催された、『愛知県ボディビル選手権大会』マスターズ部門(50歳以上)で優勝を収めた、後藤英仁(ごとう・ひでひと/60)選手。後藤選手も長いブランクを経て、再び夢を追い始めた一人だ。大会出場に復帰したのは2023年から。学生時代以来の出場で、初優勝を果たした。後藤選手は、カテゴリー参加者17名中2番目の年長者ながら、審査員に「長年の鍛錬を感じさせる胸筋を中心に、上半身のバルクと絞りが圧倒的」と評された。その成果は環境の変化に順応し、夢を追い続けた結晶だ。
【写真】60歳でこの筋肉!?後藤英仁選手の血管走るモリモリの肉体

青春をボディビルに捧げ、社会人生活で中断
「小さいころからプロレスラーに憧れて、高校生のときにダンベルセットを買ってもらったことが(トレーニングを始めた)きっかけです」
筋トレに魅せられた後藤さんは、名門ジム『中野ヘルスクラブ』に入会。小沼敏雄氏、鶴田和一氏、臼井オサム氏、後藤裕巳氏、渡辺実氏などのボディビルダーたちに、トレーニングを基礎から徹底的に指導を受けた。そして『東京ジュニアボディビル選手権』、『全日本実業団大会(現:日本社会人ボディビル選手権大会)』に出場。青春をボディビルに注いだ。だが、社会人になると――。
「残業、出張、転勤、単身赴任と、計画的にトレーニングができなくなりました。ジムに入会しても、週に2日程度しか行けませんでした」
それでもトレーニングを諦めなかった。自宅にパワーブロックとラットマシンを揃え、来たる日に向けて鍛え続けた。
年齢に合わせたトレーニングと食事管理で復帰
環境が安定し、2人の息子たちも就職。再び安定してジムに通えるようになった50歳から、本格的なトレーニングを再開した。現在は生コンクリート製造工場での勤務後、週に4〜5日をゴールドジムに通う。
「コンクリートは建物、橋など社会インフラの建設に欠かせない資材で、建設工事は日中の明るい時間にしかできません。その都合上、私の仕事は朝は早いですが、夕方以降は十分なトレーニング時間が作れます」
トレーニングへの取り組み方は、年齢に伴い変化を見せた。
「若いころは高重量を重視していましたが、今は怪我防止と疲労回復を重視し、正確なフォームで効かせることを意識しています。効かない種目はしません。最近はYouTubeを観てフォームが綺麗な方のトレーニングも参考にしています」
ジム滞在は1時間と決め、帰宅後はアイシングとマッサージガンでケア。特にマッサージガンは手放せないアイテムだと語る。食事は日頃から肉体造形のための食材で統一する。オフと大会シーズンでの違いは、「白米と間食の量を調整する程度」だという。
「この年齢で体脂肪を多く付けてしまうと、減量時に皮膚がたるむような気がするので」
朝食はご飯、納豆、卵、チーズ、ナッツ、プロテイン。昼は会社の宅配弁当、夕食は鶏胸肉と野菜中心。間食にあんパンとプロテイン。 ストイックな“ボディビル食”を貫き続ける後藤さんに対する家族の反応を聞いたところ、「奥さんは元ジムトレーナーということもあり、理解してくれているのかな?」と、結婚もまたトレーニングがつないだ縁である微笑ましいエピソードが聞かれた。
「来年はさらに大きな大会へ」夢の続きへ歩み続ける
「今後の目標は、脚を太くすることです。そして、来年は東海マスターズ。できれば西日本マスターズにも出場したい。小沼さんを始め昔お世話になった方々に、今も頑張っている姿を見てほしいです」
人生、どんなときもコツコツと。60歳で夢を叶え、さらに大きな夢に向かう後藤選手の姿は、今、困難な環境にあるトレーニーを励ます存在となりそうだ。
【JBBFアンチドーピング活動】JBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)はJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)と連携してドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト団体で、JBBFに選手登録をする人はアンチドーピンク講習会を受講する義務があり、指名された場合にドーピング検査を受けなければならない。また、2023年からは、より多くの選手を検査するため連盟主導で簡易ドーピング検査を実施している。
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取材:にしかわ花 撮影:上村倫代
『IRONMAN』『FITNESS LOVE』『月刊ボディビルディング』『Womans'SHAPE』寄稿。広告・コピーライティング・SNS運用。ジュラシックアカデミーとエクサイズでボディメイクに奮闘している。










