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「減量末期でも元気に高強度トレができる!」トップボディビルダー藤井貫太朗×コーチ本橋直人━━脅威のコンディショニングを大解明

 

毎年着実に順位を上げ続け、ついに今年は日本選手権ファイナリスト入り。名実ともに日本のトップとなった藤井選手は、ボディビルダーとしては珍しくオンラインコーチングを取り入れている。藤井選手を指導するアスリートボディの本橋さんとの対談から見えてきた成長の鍵は、「客観視」と「疲労管理」の重要性だった。

取材・文:舟橋位於 大会写真:中原義史 写真提供:藤井貫太朗、本橋直人 Web構成:中村聡美

3年で仕上がり
体重が5㎏以上増加

━━他のスポーツのトップアスリートは、栄養・トレーニング・競技動作などで複数のコーチを雇うことも一般的です。しかしながら、ボディビルでコーチングを依頼するというのはまだ主流ではない印象です。そんな中で、藤井選手がアスリートボディのコーチングを受けてみようと思ったきっかけについてお聞きしたいです。

藤井 アスリートボディにコーチングを依頼するようになったのは、2022年からです。それ以前は絞りの甘さがあるものの、自分の中では「もっといけるな」とは思っていました。そんなときに、Twitter(現X)で、アスリートボディがクライアントの写真を公開しているのを見かけたんです。そこで登場していた選手は、本当に脂肪がゼロのような見た目で驚きました。それを機に、アスリートボディに連絡を取り、現在まで指導を受けているという流れになります。

━━そうすると、アスリートボディのコーチングを受けるようになって今年で4年目ということになりますね。

藤井 そうなりますね。指導を受けてから、身体は順調に変化しています。2022年の仕上がり体重が68㎏だったのですが、2025年(今年)の仕上がり体重は73・5㎏まで増えました。絞りの精度が高くなった上での増量なので、相当うまくボディメイクを進められていると思います。

観客を熱狂の渦に巻き込んだ藤井選手のバックポーズ。「藤井選手の場合は、フリーウエイト以外のアイソレーション系種目では、ほとんど重量が落ちていませんでした。そのため、筋肉や部位を単体で見た場合の筋力は、減量前後でほとんど変わっていないのではないかと推察できます」(本橋)

━━競技成績がどんどん上がっていることも、そういった数字を見ると納得がいきます。
アスリートボディの指導内容について深掘りする前に、それ以前の藤井選手のボディメイクについて教えてもらえますか。

藤井 「人に習う」ということをしたことがなかったので、最初は自分の感覚任せでした。情報源としてYouTubeを参照することはありましたが、それでも最後は自己流でしたね。減量の際の食事計算も行ってはいましたが、今考えると、正しく計算できていなかったと思います。全体として、楽な方法でやっていたのかなというのが振り返りです。

コーチングを取り入れたことで必要なことにリソースを割ける

━━今のお話を聞いて、多くの人が、藤井選手と同じような考え方でボディメイクを行っているんじゃないかと思いました。
自己流から脱却し、コーチングを受けるようになって変化したポイントについて知りたいです。

藤井 コーチングを取り入れたことにより、今までの減量から劇的な変化がありました。自己流でやっていた頃は試行錯誤しながらだったので、減量で疲れている中でも頭を働かせる必要がありました。しかしコーチングでは、その時その時でやるべきことを的確に指示してもらえるんです。そのため、やらないといけないことのみに集中するようにリソースが割けるようになりました。

━━一つの確固たる指針が得られたということですね。
本橋さんは、藤井選手には実際にどのようなコーチングをなさっていたのでしょうか。

本橋 藤井選手には、大きく分けて2種類の資料を用意してもらいました。まずは計測データですね。一定期間での平均体重、胸囲に代表されるような各部の周囲径などです。もう一つは全身の写真です。これらを総合して検討して、体脂肪がスムーズに落ちているかを分析しました。

━━意外と必要なデータは少ないというのが個人的な印象です。ここからどのようにコーチングが進むのでしょうか。

本橋 このような情報をもとに、選手ごとにアドバイスをしていきます。例えば重要な項目として「疲労管理」があります。個人差はあるのですが、どうしても減量を長期間続けていくと、身体の回復力は落ちてしまうものです。そこで的確にトレーニング量を調整しないと、身体が極端にむくんでしまったり、制御できないほどの食欲が出てきてしまったりということがあります。回復力が落ちているなと判断される場合は、トレーニング量を思い切って半分に減らすような指導をすることも少なくありません。
食事のアドバイスもしますが、これに関しては何か特別なやり方があるわけではないです。藤井選手の場合は、摂取カロリーについては3000キロカロリーを下回らないように設定しました。そして、タンパク質量はオフシーズンに取っていた200gから変えませんでした。あとは脂質を全体の20%から25%摂取し、残りを炭水化物からという具合です。選ぶ食材についても、基本的には藤井選手に任せるような形です。

藤井 本橋さんの指導を受けていて感じるのは、身体の変化を予測する能力がとても高いということです。1週間後や1カ月後の姿をイメージできるので、与えられた指示をそのまま素直に受け取ることができるんです。

本橋 これに関しては、実は、私が藤井選手の才能に乗っかっている部分もあるんです。
コンテストに出る場合、目標の仕上がりになるまで減量をしますが、もちろん人によって落ちにくい部位があります。女性なら下半身、男性なら脇腹がその一例です。しかし、藤井選手の場合はそういった部位ごとの停滞がないため、楽に指導ができるんです。普通は減量が進むと代謝が適応してカロリー消費量が低下しやすいのですが、藤井選手の場合はそれが小さく、予測通りに仕上がりが進みやすいです。

━━減量終盤で追い込まれると、「運動量を増やさなきゃ」という発想になりがちですが、必ずしもそれでうまくいくわけではないんですね。

藤井 疲労管理が正しくできるようになったことで、毎回のトレーニングにフルパワーで臨めるようになった感じがあります。
オンシーズンのトレーニングで大事だと思っているのは、重量を維持することです。重量の維持ができれば、オフシーズンに増やした筋肉量が維持されるからです。実際に今回の減量では、5RM(5回挙上できる重量)の記録は、デッドリフトは225㎏から210㎏(マイナス10㎏)、スクワットは180㎏から165㎏(マイナス15㎏)、ベンチプレスは120㎏から110㎏(マイナス10㎏)といった具合でした。

本橋 フリーウエイトに関して言うならば、このくらいの減少幅なら許容範囲です。これに加えて藤井選手の場合は、フリーウエイト以外のアイソレーション系種目では、ほとんど重量が落ちていませんでした。そのため、筋肉や部位を単体で見た場合の筋力は、減量前後でほとんど変わっていないのではないかと推察できます。

━━疲労を正しく管理して、必要な量のトレーニングを行うことが大切なんですね。
ちなみに、コーチングを受ける前の重量の変化については覚えていらっしゃいますか。

藤井 これに関しては、記録の低下以前の問題で、減量が進むにつれてフリーウエイト種目はできなくなるようなことが多々ありました。減量で体幹が細くなったせいでウエイトを支えられなくなったり、体脂肪が減ったせいで可動域が変わったりがその原因ですね。結果として、オンとオフで種目が変わってしまいました。
自分は、ボディビルは積み重ねのスポーツだと思っています。オフシーズンに行っていた種目をオンシーズンにも継続し、きちんと積み重ねていくことが大切な視点ではないでしょうか。

━━積み重ねのスポーツという言葉が響きました。オンシーズンでも同じ種目を続けられるような工夫が大切なんですね。
他に藤井選手がコーチングを受けてみて良かったと感じる部分はあるのでしょうか。

藤井 自分一人で考えるのではなく、客観的な視点から意見が得られるのは良いところだと思います。自分一人で減量を進める場合、エネルギーが日々少なくなっていく中で頭を働かせないといけません。そうすると、どうしても客観的に自分の状況を把握するのは難しくなるんじゃないかと思います。そのような状況では、本来取るべきだった必要なアプローチができなくなる恐れもあります。
そういった意味では、自分がやるべきことを外部から指示してもらい、自分はそれを正確にこなすことだけに集中するというやり方は、非常に自分に合っているように思います。

本橋コーチが語る、藤井選手の強みとは

━━これまでの内容を踏まえて、藤井選手の近年の躍進の原動力になっている部分を解き明かしたいです。本橋さんから見て、藤井選手が優れているのはどのような部分だと感じられますか。

本橋 どんな人でも、完璧に絞り切ればその人のベストの身体にはなります。藤井選手が他の選手と比べて優れているのは、仕上がり切ったときの皮膚の薄さだと思います。この部分に関しては、同じことをできる選手は滅多にいないと思います。
また、オフシーズンにしっかりとバルクアップできることも強みです。通常は、コンテストに出るような減量をしたあとは、身体を元の状態に戻すために数カ月かかることもあります。それが藤井選手の場合は、常に適切な疲労管理ができているため、すぐにトレーニングを再開し、筋肥大のために動き出せるところが優れていると思います。近年の仕上がり体重の増加を見ても、それは確実に言えることではないでしょうか。

━━今回のお二人のお話を聞いていて、疲労管理の重要性を強く感じました。トレーニングはやればやっただけ良いと考えがちな部分に、一石を投じるような内容になるかもしれません。
最後に、ボディビルでのコーチングの魅力について、藤井選手から改めてお聞きしたいです。

藤井 コーチングでは、自分に合った的確なアドバイスを受けることができます。そのため、減量中でエネルギーがないのに、考えないといけないことはたくさん出てくるというストレスをなくすことができます。言われたことを正しくこなすだけで良いので、本当にストレスが少ないです。
繰り返しにはなりますが、視野が狭くなることも防げます。全部自分で行おうとすると見えなくなる部分についても、客観的な視点からコーチングを受けることができます。そうすると、今の自分に必要なことが何かを明らかにして、それに対して的確にアプローチできるようになります。こういった点が、コーチングの素晴らしい部分ではないでしょうか。見誤りがちな客観視と疲労管理のサポートは大きいと思います。

コーチングの一部を公開!

コーチングでは、1~2週間の間隔でクライアント(藤井選手)から経過の報告を受け、そのデータに基づいて適宜アドバイスを行う。チェックシートには身体計測、トレーニング記録、ストレスや疲労などの自己評価といった定量・定性データの両方を記録する。さらに写真(正面、横、必要に応じてポージングの一部)や口頭での報告も実施することで、選手の現状をより多角的に把握できる体制をとっている。

藤井選手による経過報告シート+写真+口頭報告

実際の内容(一部抜粋)

パーソナルコーチング 藤井さま
2025/7/22

【食事について】
ほんの少しだけカロリーを減らしたいと思います。

【本来は実際のカロリー・三大栄養素の変更内容を記載】
1週間あたりのペースとしては妥当な範囲を保てていますが、初戦までの残り期間を考えると、今よりもう少しだけペースアップしておけると安心だと思います。

今回の調整によって、初戦までに平均体重が74kg台前半に収まるイメージで進めていければと考えています。こうなると、コンテスト時の体脂肪レベルとしては十分なラインに到達できるはずです。

いったん体脂肪を十分に落とせたら、そこからは食事を増やして完成度を高めるフェーズに移行できます。初戦を終えたら、9月・10月のコンテストに向けては、もう少し余裕を持って進められるはずです。

初戦までの短い期間だけは食事量が減って少し苦しくなるかもかもしれませんが、この期間を乗り越えられれば仕上がりが見えてくるはずです。一緒に頑張っていきましょう。

【トレーニングについて】
トレーニングについては、今はプログラム通りに続けてください。

現状、疲労による大きな悪影響は出ていないようには感じていますが、念のために局所的に疲れが溜まりやすい部位(肩や腰など)だけには注意しましょう。

今回の食事調整によって、回復力に支障が出る恐れもあります。もし肩や腰の疲労感やハリが増してきた場合は、背中&デッドリフトのセット数を1つずつ減らして調整してみてください。
疲労を溜め込みすぎないように進めていきましょう。

引き続き、次週も同じタイミングで経過チェックのご連絡をいただけますと助かります。
1週ごとにしっかり確認しながら、確実に進めていきましょう。

以上、ここまでの内容についてご確認ください。気になることや不安なことがありましたら、遠慮なくご相談ください。

ふじい・かんたろう
1995年生まれ、大阪府出身。身長168㎝ 、体重は73㎏ (オン)、83~85㎏ (オフ)。大阪の完全会員制ジム『ReXeR』にてパーソナルトレーナーとして活動中。YouTubeチャンネル『貫太朗 / Kantaro Fujii 』を運営。2024年大阪府ボディビル選手権優勝、2025年ジャパンオープン選手権優勝、日本クラス別ボディビル選手権75㎏ 以下級優勝、日本男子ボディビル選手権8位。

もとはし・なおと
1982年11月1日生まれ。埼玉 県出身。AthleteBody.jpで活動中のパーソナルトレーナー。トレーナー歴17年であり、ここ10年は体組成改善に専門で取り組む。特にここ5年はボディビルやフィジークといった競技者のクライアントを多く指導している。久野圭一選手や藤井貫太朗選手も指導を受け、指導前後の変貌振りがSNSで話題となっている。

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