ボディコンテストでも上位入賞経験を持つフィットネストレーナー(BASIマットピラティス資格保有)で、フェムケアサロンも営む倉畑優奈さん。2021年の長男出産でゆるんだ身体を、筋トレにピラティスをプラスして見事に復活させ、大きな話題となりました。相乗効果が期待できるメソッドで、ボディメイクはどこまで進化するのか――。「呼吸」をキーワードに、そのメリットを倉畑さんに解説していただきました。
[初出:Yoga&Fitness vol.15]ボディメイク成功の伴は「呼吸」
━━今回の本誌のテーマは「ボディメイクのためのピラティス」。倉畑さんは長男ご出産後にピラティスを取り入れ、再びボディコンテストで活躍されるまでに体型を戻しました。
倉畑 妊娠や出産で崩れた骨格や姿勢の矯正にとても役立ちました。そうした経験からも、ピラティスを取り入れるのはすごくお勧めです。ピラティスにはいくつもの資格団体があり、それぞれ独自のメソッドやアプローチを持っていますが、すべてに共通しているのは「呼吸を意識しながら身体を動かしていく」という理念だと思います。私自身、呼吸がボディメイクにおいて非常に重要だと感じています。
━━呼吸がボディメイクに与える影響について、改めて教えてください。
倉畑 深層にあるコアマッスル、「インナーユニット」は、腹横筋、多裂筋、横隔膜、そして骨盤底筋の4つが連動し、体幹を安定させています。でも、呼吸が浅くなると横隔膜の可動域が減り、インナーユニット全体の協調性が低下します。その結果、腹圧が保てず、下腹部の膨らみや、くびれの消失、肋骨の開き、反り腰などにつながります。ピラティスでは呼吸を動きと一緒に行うため、横隔膜と骨盤底筋が連動して上下に動くようになり、体幹を使いやすくするコンディショニングメソッドとして非常に有効だと思います。
━━インナーユニットに働きかけ、内側から体型を整えていくというイメージですね。では、インナーユニットが機能不全のまま筋トレを続けると、どのような問題が生じるのでしょうか。
倉畑 アウターマッスルばかりに頼ることになり、トレーニング効果が出にくくなることにつながります。よくあるのが背中のトレーニングでのエラー。背中や胸がガチガチに硬直し、胸を張れないため、肩や腕に負荷が逃げてしまいます。また、誤った呼吸法で重いものを扱うと、腹圧が外側に逃げてしまい、かえって骨盤底筋に負担をかけて尿漏れを招くリスクもあります。実際、出産経験のない20代の方でも、骨盤底筋の機能不全による尿漏れに悩むケースが増えている印象です。
体幹を安定させる! インナーユニットの構造
深層にあるコアマッスル、「インナーユニット」は、腹横筋、多裂筋、横隔膜、そして骨盤底筋の4つが連動し、体幹を安定させています。ピラティスでは呼吸を動きと一緒に行うため、横隔膜と骨盤底筋が連動して上下に動くようになり、体幹を使いやすくするコンディショニングメソッドとして非常に有効だと思います。(倉畑さん)
フェムケアと姿勢を整えるインナーユニットの機能回復
━━フェムケアの観点からも見過ごせない問題ですね。
倉畑 フェムケアやウェルネスの視点でいえば、深い呼吸は自律神経の安定につながり、不眠やイライラの軽減、ホルモン分必のリズムを整えるサポートにもつながります。ただ、現代の生活習慣がインナーユニットを働かせづらい状況を作っているという側面もあります。
━━インナーユニットの機能不全を引き起こす具体的な生活習慣とは?
倉畑 たとえば長時間のデスクワークは猫背、ヒールの履きすぎは反り腰の要因になりますし、ストレスは呼吸を浅くし、インナーユニット全体の機能低下につながります。ご自身の生活習慣が気になる方は、いきなり筋トレをするよりも、まずピラティスで呼吸と身体の関節、筋肉の位置を整えるコンディショニングを行うことでエラーを防ぐことができ、より効率的なボディメイクが可能になります。インナーユニットが回復すれば、「天然のコルセット」が働き、自ずとくびれもできてきますしね。
━━倉畑さんは長男ご出産後に肋骨の開きが気になり、ピラティスを始めたそうですね。
倉畑 肋骨もウエストラインの引き締めにも関わってきますよね。私自身もそうでしたが、肋骨が開いてしまう方は背面の筋肉が硬いケースが多いようです。背中に空気が入らなくなるぶん、肋骨が前に開いてしまうんですね。ピラティスでは、脊柱のアーティキュレーション(分節的な運動)を通して、背骨一つずつの動きを丁寧に引き出していきます。特に、動きが出にくい下部胸椎を意識的に屈曲させることで、腰椎や頸椎の過剰な代償を防ぎ、脊柱全体の柔軟性と協調性を高め、さらに肋骨の後方・側方呼吸を合わせることで背面の緊張を取り、胸郭を正しい位置に戻すアプローチができます。これはくびれや反り腰の改善にも効果的です。
━━呼吸で背面に空気を入れるのは難しそうですね。
倉畑 具体的な方法の一つとして、土下座のような姿勢で両肘を床につき、身体を丸めて呼吸をする方法があります(実践編で紹介)。以前、私と同じように肋骨の開きに悩んでいた女性がいたんですね。ドレス着用のボディコンテストに出場されていましたが、「生まれつきだから直らない」と諦めていらっしゃいました。そこでこのワークをご紹介したところ、1カ月ほど毎朝続けた結果、体重は変わらないのに「ドレスのウエスト周りがゆるくなりました」と。
━━まさに呼吸がもたらしたボディメイク効果ですね。
倉畑 これは、硬くなっていた背中がゆるんで胸郭が元の位置に戻り、さらに深い呼吸が可能となり横隔膜や腹横筋の動きが活性化されたために起きた効果だと思います。ただ、ふだんの姿勢や仕事中の姿勢固定で背中は日々硬くなっていくので、やはり継続が何より大切です。筋トレはもちろんですが、日常生活をより健康に、生き生きと過ごすためにも、ピラティスや深い呼吸を長く続けていくことをお勧めしたいです。

筋トレ効果を最大化するピラティス的コンディショニング
━━倉畑さんご自身も、トレーニング前にピラティス的な準備運動を取り入れているのでしょうか。
倉畑 昨年9月に次男を出産してからまた反り腰になり、肋骨も開きやすくなっているので、時間のないときでもトレーニング前には必ず背面の筋肉をほぐしています。筋膜ローラーを使うほか、背中全体を丸めて背中に空気を入れる呼吸は欠かさず行っていますね。時間の余裕があるときは、腹圧を保ったまま胸椎の伸展を引き出すワークなどを取り入れ、反り腰を防ぎながら上半身の動きを整えています。
━━ピラティスを取り入れたことで、筋トレ効果がアップしたという実感はありますか。
倉畑 もちろんありますし、私が指導するお客様からも「ピラティスを続けることで筋トレが上手くなった」という声がほとんどですね。これは、インナーユニットが整うことで代償動作が減り、効かせたい部位に確実に負荷をかけられるようになったからだと思います。たとえば、ピラティスで前鋸筋を使う感覚や腹圧が抜けないまま胸郭を上げる感覚をつかむと、ラットプルダウンでも腕や肩に力が逃げず、背中にしっかり効かせられるようになります。また、スクワットでは骨盤の前傾・後傾をコントロールできるようになり、フォームの安定にもつながります。
━━トレーニーがピラティスを取り入れる場合、マシンとマット、どちらをお勧めしますか。
倉畑 私個人としては、マシンでのパーソナルレッスンをお勧めします。マシンは補助機能があり、自分の左右差や苦手な動き、効かせている感覚が非常に分かりやすいからです。分からないままマットで自己流で行うと、アウターマッスルに頼ってしまい効果が出にくい場合があります。ただ継続性を考えると、自宅でもできるようにマットのメソッドも知っておきたいですよね。マットでも、ピラティスボールを補助代わりにすることもできますので。私もマシンで感覚をつかんでからマットに移行しました。
━━トレーニーにピラティスが必要なように、ピラティスやヨガだけをされている方にも筋トレは必要でしょうか。
倉畑 ぜひお勧めしたいです。メリハリボディをつくるという目的以外にも、筋肉をつけるメリットは数多くあります。特に女性は、加齢によるエストロゲンの減少に伴い何もしなければ筋肉量は低下しやすくなり、代謝が落ちたり、糖尿病のリスクも高まります。閉経後に備えて筋肉を〝貯筋〞することが必要ですし、妊娠や出産後の筋力や体力の低下からくる不調、また、体型のくずれを防ぐためにも筋トレは大切だと思います。
━━これも実体験からのアドバイスですね。
倉畑 はい。自分では鍛えていたつもりでしたが、出産後にお尻が真っ平になってしまいショックでした(苦笑)。ヨガやピラティスで身体のコンディションが整っている状態であれば、筋トレを行うことで非常に効率よく筋肉をつけられます。ぜひ両方を取り入れ、健康的で美しい身体を目指していきましょう。
>>>実践編【倉畑優奈厳選!ピラティス・コンディショニングワーク】はこちら!
くらはた・ゆうな
1994年3月9日、東京出身。理学療法士、ポージングコーチ、フィットネストレーナー。2016年、22歳の時にボディビルダーでパーソナルトレーナーのご主人の勧めでトレーニングを開始。2018年JBBFオールジャパン・ビキニフィットネス35歳未満163 ㎝以 下 級で準 優 勝、2019年アジア選手権6位と躍進。2021年に長男を出産後、23年に復帰しJBBF東京選手権で優勝、オールジャパン3位。第2子出産後の2024年12月にフェムケアサロン『NAVI』をオープン。女性の美と健康を支えている。
取材・文:藤村幸代 撮影:田中郁衣 Web構成:中村聡美












