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実は多くの人が陥っている【トレーニングメニューの〝落とし穴〞10個】ボディビル元世界王者鈴木雅に聞く!

トレーニングメニューを適切に決められないと、せっかくの筋トレも効率が下がったり怪我につながったりするかもしれない。そこで今回はボディビル元世界王者の鈴木雅氏に、トレーニングメニューを決める上でよく見られる「落とし穴」とその「回避法」を伺った。初級者はこれを参考に、より効果的なトレーニングライフを送ってほしい。

取材・文:舟橋位於 トレーニング写真:岡部みつる、北岡一浩 Web構成:中村聡美

落とし穴1①

フリーウエイトだけやマシンだけなど種目が偏ってしまう

「トレーニングの習熟度にもよるのですが、初心者でも上級者でも種目に偏りが見られるというのが一つの盲点です」(鈴木)
例えば、フリーウエイト種目が多すぎたり、逆にマシンのトレーニングが多すぎたりということだ。また別の観点では、コンパウンド種目とアイソレーション種目の選び方やボリュームについても同様のことが言えるだろう。
「こういった種目の偏りが起きることによって、疲労が出てしまったり、筋肥大が思うようにいかなかったりということがあるでしょう」(鈴木)

上級者になるほど、強度を求めてコンパウンド種目が多くなることも問題になってくる。
「脚のトレーニングですと、スクワット、ワイドスクワット、ランジ系、ルーマニアンデッドリフト、レッグプレス、ハックスクワットのように、非常にコンパウンド種目が多いのが特徴です。こういった強度の高い種目をたくさん行うと、どうしても中枢性の疲労が出やすくなってきます。結果として、筋肉の回復というよりは中枢の回復が間に合わず、次回のトレーニングで出力が思うように上がらないという結果になりがちです。さらには、良いマシンが増えてきたことも種目の偏りの原因だと思います。全てのマシンを一通りやらないと気が済まない方も多いのではないでしょうか。さらには『筋肉の効き』を求めてアイソレーション種目に偏ってしまうこともあるでしょう。アイソレーション種目は複合的に関節や筋を使わないことからそれをコントロールする安定筋が発達しにくくなります。それにより機能面や連動性に影響が出てしまい、怪我や重量が伸びないということが起こるかもしれません」(鈴木)

トップ選手の中には、当たり前のようにメニューをこなす人もいるが、自分とはスキルや筋肉・関節の感覚が異なることは押さえておかないといけない。

それでは、初心者の種目選択ではどのよう なことに気を付ければ良いのだろうか。
「初心者の場合、種目数が増えすぎると、1種目あたりの量が少なくなりがちです。そうなると、必要なスキルが獲得できなくなる恐れがあります。さらには、疲労の管理や筋肉への刺激の量など、考えるべき要素はいくつもあります。自分だけで種目の判断ができないのであれば、信頼できるトレーナーに相談してみても良いでしょう」(鈴木)

回避法①

信頼できるトレーナーに自分に合った種目構成について相談してみる

主なコンパウンド種目とアイソレーション種目

◆コンパウンド種目(複合関節運動)
複数の関節と筋肉を同時に動かす種目
(スクワット、デッドリフト、ベンチプレス、ショルダープレス、チンニングなど)

◆アイソレーション種目(単関節運動)
単一の関節と筋肉だけを動かす種目
(サイドレイズ、ダンベルカール、ダンベルフライ、レッグエクステンションなど)

→コンパウンド種目に偏ると神経系の疲労が出やすくなる可能性があり、アイソレーション種目に偏ると身体の機能面が発達しにくく怪我につながりやすいため注意です(鈴木)

落とし穴②

何となく種目の順番を決めてしまう

トレーニングメニューを組む際に、種目の順番や配列について悩んだことはないだろうか。コンパウンド種目から始めるのか、もしくは逆にアイソレーション種目から始めるのか。フィニッシュにはどのような種目を配置するべきか。なかなか答えが出しづらそうな問題だが、チャンピオンはどのように考えているのだろうか。

「スクワットを例に挙げると、全ての人が、この種目で大腿部全体を使えるわけではないんですよ。トレーニングフォームもそうなのですが、日常的に筋肉が使える状態になっているかどうかも関係してきます」(鈴木)

こういったポイント以外にも、スクワット中の大腿四頭筋と殿筋・ハムストリングのバランスやスピードコントロールも鍵となる。このような要素は個人ごとに異なるため、筋肉の発達度合いや筋肉の形状、また場合によっては質感などにも違いが出てくるのではないかと考えられる。

「メインのトレーニングにおいて刺激に偏りがあったり、フォームのバランスが悪かったりすれば、メイン種目に入る前に細かなエクササイズを取り入れることが必要になってきます。例えば、インナーサイやアウターサイを行ったり、自重系のトレーニングを行ったりということです。このような種目を通して、筋肉の促通を狙えると良いですね」(鈴木)

種目を決めるコツの一つとして、筋肉が促通しているかどうか。つまりはしっかりと使われている感覚があるかどうかが重要かもしれない。多くの人が脚の日はスクワットから始めがちだが、見直してみると良いポイントと言えるだろう。

では、自分の中の課題が明らかな場合はどのようにアプローチすると良いのだろうか。

「自分の場合は、スクワットのボトムで足部が安定しないという問題がありました。足部が安定しないが故に重心のコントロールがうまくいかず、身体がぶれてしまうんです。こういった問題を解決するために、ヒラメ筋ではなく足底筋への刺激としてあらかじめシーテッドカーフレイズを行ったり、股関節を安定させるために中殿筋や小殿筋を先に刺激したりということをしていました。
このような課題はもちろん人によって変わるので、どうやったらトレーニングの質が上がるのかという観点を持つことが大事だと思います。ベンチプレスがうまくいかないならば、まずはペックフライなどで大胸筋の促通を狙ってみても良いでしょう」(鈴木)

ここまでを振り返ると、筋肉の意識がしづらい種目の前には、その問題を補う種目を行うのが良さそうだが、実はデメリットも存在すると鈴木氏は言う。

「例えば、スクワットの前にレッグエクステンションを行うことを考えてみましょう。この場合、大腿四頭筋への刺激が当然入るのですが、これが多く入りすぎると、逆にトレーニングフォームが崩れてしまいます。スクワットは、大腿四頭筋以外にも、ハムストリングや殿筋群などの多くの筋肉が協調することは理解しておかないといけないでしょう。トップ選手がスクワットの前に別の種目を行うのを見たら、単純に真似をする前に、『なぜそういったことをやっているのかな』と考えられると、より良いトレーニングを行えるようになるのではないでしょうか」(鈴木)

回避法②

意識しづらい筋肉は最初に刺激するなど課題に合わせた順番設定を

種目の順番を考える際のポイント

筋肉への刺激の偏りやフォームの不安がある
→最初に細かなエクササイズを取り入れてみる

(例)胸に効きづらい
→最初にペックフライなどで大胸筋を刺激してみる

※ただしこの考え方にはデメリットも。刺激し過ぎると以降の種目でフォームが崩れてしまう可能性もあるため注意が必要です(鈴木)

落とし穴③

似た種目ばかりを行ってしまう

「マシンの運動方向・マシンの構造・解剖学的に見た際の筋肉の走行・動作に関与する関節の動かし方。こういったことを正しく理解しながら、マシンや種目をチョイスしていかないといけないですね」(鈴木)

例えば背中のロウイングエクササイズだけ見たとしても、バーベルベントオーバーロウ、ワンハンドダンベルロウ、ロープーリーロウ、DYロウ、ハンマーアイソラテラルロウなど、挙げていけばきりがない。こういった種目それぞれの特性について正しく理解して、本当に自分に必要なものを選んでいくことが大切だ。

「種目を選ぶ際に気を付けないといけないのは、『身体は連動して動く』ことの理解です。例えば、ロウイング動作で広背筋上部を狙いたいとします。そういった意識で動作したとしても、自然と、広背筋だけでなく僧帽筋下部も働いてくるはずです。
これを深く理解することなく、『この筋肉にはこのマシン』というように種目を選ぶと、どんどん種目数が多くなってしまいます」(鈴木)

身体は連動して動くことが正しく分かっていれば、異なる状況に対しても応用が利くようになる。

「ロウイングエクササイズをもう一度例に挙げます。ウエイトを引いてくる段階で肩関節の伸展が起こりますが、同時に肩甲骨の内転も入ってくるはずです。ここで、大円筋を狙いたいからという理由で、あえて肩甲骨を動かさないようなフォームで行うとします。そうすると、今度、肩甲骨の内側を狙いたいとなったときに、うまく身体を連動できず、肩甲骨を動かせなくなる可能性が生じます。身体があるべき自然な動きができなくなってしまうとも言えるでしょう」(鈴木)

上半身のエクササイズでは肩甲骨の動きが一つの鍵になりそうだが、そのあたりはどうだろうか。

「上腕を側面上に挙げていく肩関節外転動作では、少なからず肩甲骨も動いています。これを肩甲上腕リズムと言うのですが、これが正しく機能するためには、肩関節のインナーマッスル(ローテーターカフ)と肩甲骨を挟むように付いている前鋸筋・僧帽筋下部が大事です。ローテーターカフや肩甲骨に関連する筋肉が正しく働かない場合は、ラットプルダウンの際に肩甲骨が求める動きをしなかったり、ショルダープレスで三角筋前部の収縮がうまくできなかったりという症状が出ることがあります」(鈴木)

多くのマシンに目移りせず、必要な種目を見つけるポイントはあるのだろうか。
「マシンを含むトレーニング種目選びのベースには、解剖学的な見地が必要となります。しかしだからと言って、種目を細かく選び過ぎてしまうのも決して良いとは言えません。
そもそも身体の動きは連動して起こるものだという前提条件を理解して、大まかに『この種目はここ』、『別の種目はここ』というような決め方ができると良いと思います。種目を決めていく際には、プッシュ・プル・ロウというような大まかなくくりをつくり、それらをいろいろな方向で行うくらいのイメージを持つことをお勧めします」(鈴木)

回避法③

「プッシュ・ プル・ロウ 」のような大まかなイメージを持つ

落とし穴④

初心者のうちから分割が細かすぎる

多くのトップ選手は、一つの部位を週に1回程度トレーニングする分割を採用している。果たして、このような分割法は初心者を含む一般トレーニーに有効な戦略なのだろうか。

「初心者の段階で細かすぎる分割を選んでしまうのは一つの落とし穴だと思います。フォームや関節の動き、筋肉の感覚を身に付けるという意味では、やはり種目を行う頻度や回数が重要です。では、いつから分割を細かくするべきかですが、これは個人差が出てきます。トレーニング頻度や習熟度でも変わる部分なので、やはり、信頼できるトレーナー等に意見をもらえると良いかもしれません」(鈴木)

ここでポイントとなるのは、上級者の真似をすることが全て誤りというわけではない点だ。

「上級者が現在の地点に到達するまでの歩みや歴史についても考えることが重要です。メジャーリーグの大谷選手はその一例と言えますね。彼の現在のバッティングやウエイトトレーニングを真似する人は多いと思いますが、彼が今の状況に至るまでにたどった道筋全てを真似する人はいないということです」(鈴木)

トップ選手のトレーニングを見て、「何をやるか」を最初に考えるのではなく、自分の状態をよく見て「どんな状態なのか」、「自分には何が必要なのか」を考えてみると良いだろう。結局は、自分のトレーニング習熟度を正しく理解して分割を組むことが大事になる。

「トレーニングの習熟度は複数の要素で決まってきます。トレーニング年数、トレーニング頻度、トレーニングの感覚、フォーム、挙上重量、そしてトレーニング中に何を感じながら行ったかなど……主観および客観の両方の視点から分析することが大切です。このような情報を元に、自分は初級者なのか、中級者なのか、ということを考えていけると良いですね」(鈴木)

このようにしてトレーニングの習熟度を知ることに加え、自分のトレーニングの目的を正しく理解しておくことも必要だという。
「大会に出るのかどうか。全体的に身体を大きくしたいのか、それとも部分的に強化したいのか。アスリートの場合はスポーツの補強のためなのか。こういったことが目的の例ですね」(鈴木)

回避法④

初級者、中級者、上級は…自分のレベルを理解した上で適切な判断を

落とし穴⑤

重量や回数へのこだわりが強すぎる

「より重いもの」を「よりたくさん」挙げる。日々ボディメイクを行う者なら、誰でもこういった思考になったことはあるはずだ。しかし、あまりにも重量や回数へのこだわりが強すぎることが、逆に筋肥大の可能性を消してしまうとしたらどうだろうか。

「実は、『強度が大事だ』と分かっている人ほど、この落とし穴にはまりやすいです。BIG3のようなコンパウンド種目が分かりやすいのですが、その日の中枢疲労・調子・トレーニングフォームなどによって、扱える重量はかなり変わってきます。一定の期間伸び悩みが起こった場合はいったん重量を落とす期間を設けることも大切なのですが、何がなんでも強度が一番という考えだと、その決断がなかなかできないものです」(鈴木)

多くのトレーニーは、重量や回数の伸びを目安に自分の成長を感じ取っているだろう。順調に伸びている間は問題ないが、何かうまくいかないことが続いた場合は、一度立ち止まってみることが大事かもしれない。

「ミクロ(※1)な観点から、ピリオダイゼーション(※2)的な要素を取り入れてみると良いでしょう。ピリオダイゼーションの期間をつくってあげることで、これまでの自身のトレーニングフォームを改めて見直すきっかけになるかもしれません。また、中枢疲労の蓄積が問題だったのであれば、トレーニングボリュームを減らすことでそれが軽減されることもあるでしょう」(鈴木)

では、具体的にはどの程度の期間でピリオダイゼーションが必要かどうかを判断するべきなのだろうか。

「2週間から3週間といった比較的短い期間で身体の調子を分析すると良いです。感覚、挙上スピード、回数の変化などを考慮して、全く伸びていないならば、重量を下げるなど、アプローチを変える選択肢も出てきます」(鈴木)
(※1)1〜4週間程度のスパンで強度やボリュームを調整すること
(※2)特定の目標に合わせて、一定の期間でメニューやボリュームを変動させること

回避法⑤

2〜3週間記録が伸びなければ重量を下げるなどのアプローチを

重量や回数を決めるときによくある誤り

重量や回数へのこだわりが強すぎてトレーニング強度を落とせない
→2~3週間ほど重量や回数が伸びていなければ、一度勇気を持ってボリュームを減らしてみることで改善される可能性もあるでしょう(鈴木)

落とし穴⑥

コンパウンド種目の重要性に気付いていない

複数の関節が動作に関与し、比較的重量が扱えるコンパウンド種目と、単関節のみで行うアイソレーション種目の違いについて正しく理解できているだろうか。

「筋肉を大きくすることを考えるならば、やはりメカニカルストレス(※1)は不可欠だと思います。コンパウンド種目でしっかりと重量を扱い、その刺激を筋肉に与えるということですね。
アイソレーション種目のような効きを求める種目ばかり行うのではなく、バランス良くトレーニングすることで、サイズ感が出てくるのかもしれません」(鈴木)

ここで一つ難しい問題がある。適切な種目のバランスとはどういったものかということだ。

「非常に難解な問いです が、一つ言えるのは、オーソドックスな種目は欠かさないということですね。プッシュ・プレス・プル・ロウに代表されるようなコンパウンド種目で強度が高いフリーウエイトを1種目はメニューに入れたいところです。こういった種目の中には、日常生活にも通じる身体の動きの要素が多分に含まれています。フォームを習得しながら、身体の動きを獲得していくという意味で、大切なのではないかと思います」(鈴木)

日常生活に即した動きが習得できるということは、自然な形での筋肉のバランスも取れてくるということだ。

「コンパウンド種目とアイソレーション種目のセット数やボリュームについても触れましょう。筋肉・関節の感覚や各人のスキルによっても変わる部分はあるのです が、ここではケミカルストレス(※2)を例に考えます。セット数が少なすぎると、種目変更のたびにレストが長くなります。そうすると、代謝産物の蓄積等によるケミカルストレスは少なくなってしまいます。ある程度のセット数を確保して、メカニカルとケミカルの両方のストレスを狙うのが良い方針だと思います」(鈴木)

(※1)細胞や組織が体内で受ける物理的な力、刺激
(※2)乳酸等の化学物質が筋肉に疲労・刺激を与え、筋肥大を促進するメカニズム

回避法⑥

各部位最低1種目は強度の高いフリーウエイトを入れてみる

各部位の代表的コンパウンド種目

胸 ベンチプレス、インクラインベンチプレス、ダンベルプレス、スミスマシンプレス、ディップスなど
背中 チンニング、デッドリフト、ベントオーバーロウ、ワンハンドダンベルロウ、ラットプルダウンなど
肩 ダンベルショルダープレス、バーベルショルダープレス、アップライトロウ、マシンショルダープレスなど
腕 ナロープレス、ディップスなど
脚 スクワット、ブルガリアンスクワット、ハックスクワット、スミスマシンスクワットなど

落とし穴⑦

部位が回ってくる順番とオフの取り方を軽視してしまう

「疲労を管理することの重要性とも大きく関係するポイントなのですが、立て続けに同じ部位が使われてしまうという状況は避けたいです。部位が新鮮な状態でトレーニングできなければ重量は当然扱えず、漸進性の原則からも外れてしまいます」(鈴木)

トップ選手が採用することの多い5つ以上の分割においても、同じ部位が重複することは避けられている。具体的には、胸、背中、肩、腕、脚の順番がよく見られる。この分割の中にさらに適度にオフを入れ込めば、特定の筋肉が使い過ぎになることを防ぎやすいだろう。

一方で、必ずしもこの分割だけが正解というわけでもない。

「例えば、胸の後に肩や腕を行っていて、挙上重量が伸びないというケースがあるかもしれません。この場合は、上腕三頭筋の使い過ぎが原因の一つだと考えられるので、部位を離すことが有効だと考えられます。逆に、その順番でトレーニングしても、順調に発達する人もいるでしょう。
理屈としては、部位が重ならないことが基本です。しかし、特に問題がないのであれば、無理に順番に縛られなくても良いと思います。結局のところ、重視すべきなのは自分自身の感覚や状態ということになります。一般的な胸、背中、肩、腕、脚という分割と順番も、背中と脚の間隔などを考えると、理にかなっている部分もあるのではと思います。あくまでも一つの例として考えておくと良いのではないでしょうか」(鈴木)

一般的な考え方を理解しつつも、そこに自分の感覚を織り交ぜながら構築していくことが重要だと言えそうだ。それでは、鈴木氏の場合はどうだったのだろうか。

「私自身の現役時代は、肩、腕、脚、胸、背中の順番でした。肩と腕が連続する際の上腕三頭筋や、背中と肩が連続する際の後部三角筋が気になるところではありますが、実際にやっているときには、それほど干渉を感じませんでした。意外とつらかったのは、脚の後の胸です。脚のトレーニングの疲労で、脊柱をうまく動かすことができなくなるのですが、そのままだと、ベンチプレスのアーチを組むのが難しかったです。そこで重要になるのが、コンディショニングやリカバリーに目を向けて、アップをしっかりやることになります」(鈴木)

疲れているから仕方ないと諦めるのではなく、何かしらの対策をすることで、うまく部位を回せるようになるのだろう。続いて、オフについても教えていただいた。

「オフの取り方が大事になってきます。私の場合は、決まった順番でオフを取ることを前提としつつ、『これはもう無理だな』という疲れがあるときには、すっぱり休むようにしていました。
トレーニングボリュームの目安として、大筋群は1週間あたり10セットから20セットが良いというエビデンスはあります。もちろんレップによってボリュームは多少変わるのですが、このくらいのトレーニング量を基準にしながら、自分の調子を見てオフを取るのが良いのではないでしょうか。
こういったトレーニングの要素に加えて、仕事が忙しかったり、食事が十分に取れなかったりということも考慮したいです。トレーニングだけを判断の材料にするのではなく、広い範囲を見ながら決めていくということですね。『身体的にきつい』、『精神的にきつい』という症状を見逃すことのないように気を付けましょう。オフの日とトレーニング日をガチガチに固定するのではなく、今日は挙がらないなと思ったら休んでしまう勇気も持てると良いと思います」(鈴木)

回避法⑦

無理に順番に縛られないようにオフは「きつい」という信号を見逃さずに取る

鈴木氏の現役時代の部位の回し方

肩、腕、脚、胸、背中
→肩でも使う腕や背中でも刺激される肩の後部が連続していたが、それほど干渉を感じることはありませんでした。自分自身の感覚や状態を重視し、特に問題がなければ無理に順番に縛られなくても良いです(鈴木)

オフを取る基準

大筋群(胸、背中、脚、殿筋など)は1週間あたり10セット~20セットという考え方もある
→あくまで一つの目安であり、20セット以上にしてみて問題がなければ無理にオフを取らなくても良いです。ただし『身体的にきつい』、『精神的にきつい』という症状を見逃さないようにしましょう(鈴木)

落とし穴⑧

リカバリーの重要性を理解していない

「筋肉を成長させる際の大原則として、『漸進性の原則』があります。前回よりも重量や回数を伸ばしていこうとすることですね。しかし、この気持ちが強すぎるが故に、トレーニングをやることに駆られ過ぎてしまう場合もあります。ここで、トレーニング以外で大事になるのが、『疲労管理=フィットネス』です」(鈴木)

筋肉を継続的に発達させたいと考えるならば、このポイントは必ず主軸としたい。疲労管理やフィットネスについて正しく理解して実践した上で、初めて「追い込む」・「追い込まない」といった議論が有効になるのだ。

「トレーニングをやることが目的なのか。それとも筋成長させることが目的なのか。この部分を間違えないようにすると良いのではないかと思います」(鈴木)

では、大会前の追い込み等でメニューが膨大になり、疲労が慢性化するとどうなるのだろうか。

「『疲労』と一言で言っても、筋肉が疲労していることを指す『疲労』もあれば、中枢すなわち脳の『疲労』もあるわけです。中枢疲労が蓄積してくると、筋肉の感覚が悪くなったり、筋を協調して使うことがうまくできなくなったりします。さらにその結果として、痛みや怪我につながる可能性もあります。実際に、私自身もこういった経験をしています。日本選手権で初優勝したときはダブルスプリットでトレーニングしていたのですが、ダンベルを握るだけで前腕が痛いということがありました。これは、今思えば明らかに中枢性の疲労の症状でしたね」(鈴木)

当時29歳。後に世界を制す鈴木氏ですら、無理やりのトレーニングは危険だった。一般レベルなら、なおさら注意が必要だとよく分かるエピソードだ。
それでは、疲労をうまく処理するには何が大切なのだろうか。

「疲労を取るために大切なのは、栄養と休養です。あとはストレス管理なんかも含めて、うまく身体の回復を図る必要があります。
もちろん、人によって生活スタイルは違います。当然、仕事の量であったりストレスだったりも変わってくるでしょう。あとは、脳に入ってくる情報量が平均的な人よりも多く、それだけで疲れてしまうという人もいると思います。
疲労対策をするならば、その人の疲労の状態や原因に適した方法を考えるのが大切だと言えるでしょう」(鈴木)

ボディメイクに熱中していると、どうしても筋肉の疲労ばかりに目が行きがちだ。だからこそいったん立ち止まり、筋肉以外の部分にも目を向けてみることが重要なのかもしれない。例えば、ボディメイクで重要な要素である栄養補給はどうだろうか。

「トレーニング前後の食事と間食を意識することが、リカバリーにおいては重要です。食事をしない時間は2時間ほど空けたいのです が、それが5〜6時間になると、脂肪と同時に筋肉の分解も進みます。血糖値の低下によるコルチゾールの分泌で、自律神経の乱れが引き起こされることも考えられるでしょう。トレーニングが終わったら、できるだけ早く炭水化物を入れて、下がった血糖値を戻してあげると良いですね」(鈴木)

中枢疲労に関して、トップ層にはまた別の考え方もあると鈴木氏は言う。

「トップになる人たちの特徴として、中枢疲労にものすごく強いというのはあると思うんです。なので、少し疲労があったら即休むという考え方だけではなく、『もう少しチャレンジしてみよう』という気持ちも持っていてほしいです。負荷が適度であるならば、ストレスへの耐性も時間とともにきっと強くなっていくと思うんです。
最近は、『追い込まないことが大事』という意見もよく聞きますが、個人的には、『やり切った先にこそ成功があるかもしれない』と頭に入れておくことが大切かなとも思いますね」(鈴木)

回避法⑧

トレーニング前後の栄養摂取がリカバリーの鍵の一つ

リカバリーで特に重視したいポイント

○中枢疲労
→筋肉の疲労ではない、いわば脳の疲労。中枢疲労が蓄積してくると、筋肉の感覚が悪くなったり、筋を協調して使うことがうまくできなくなったりします。さらにその結果として、痛みや怪我につながってしまう可能性もあります。各々の生活スタイルから無理のない疲労管理をしましょう(鈴木)

○栄養補給
→トレーニング前の食事は2時間ほど空けたいですが、5~6時間も空けてしまうと筋肉の分解も進んでしまうので注意です。またトレーニング後もできるだけ早く炭水化物を入れて、トレーニングで下がった血糖値を戻してあげると良いです(鈴木)

落とし穴⑨

〝スタンダード〞な考え方を見失ってしまう

トレーニング強度を高めるためのテクニックがある。レストポーズ・ドロップセット・フォーストレップなどだ。これらはうまく使えば有効だが、何も考えずに取り入れるのは危険だ。

「効果が全くないとまでは言わないですが、やはり、ある程度はフォームに習熟した上で取り入れるべきテクニックなのかなと思います。これらのテクニックを乱用したせいですごく疲れたり、関節が痛かったりする場合は、怪我につながるデメリットももちろんあるわけです。この場合、疲労管理は欠かせない考えになります。
あとは、こういったトレーニンテクニックにはある種の中毒性があり、毎回のトレーニングで行わないと気が済まない気持ちにもなることが考えられます。その一方で、何週も続ければ身体は刺激に慣れて、期待するほどの効果が出なくなる可能性もあります」(鈴木)

あくまでも高強度テクニックはバリエーションの一つとして持っておくようにして、そればかりにならない方が良いだろう。

「少しつまらない話にはなってしまうのですが、ごく普通のストレートセットで、ある程度の回数を安定させながら重量を伸ばしていくことが必要なのではないでしょうか。つまらないベーシックな作業にこそ効果があるのは、筋トレの世界以外にも通じるところはあると思います」(鈴木)

それでは、ベーシック・スタンダードな考えを自分のものにするためには、どういった意識でトレーニングに向き合っていくことが大切なのだろうか。

「よく私が受ける質問として、『トレーニング歴は◯◯くらいですが、どのような分割が良いでしょうか』というのがあります。これに関しては、その人の体性感覚やフォームなどの状況を全て見ないと分からないというのが答えになります。そこで何か回答してしまうのは、非常に無責任だと思っています。
アドバイスできるのは、『まずは自分を知る』ということです。自分のフォームはどうなのか。それに対する感覚は効率的なのか。何をすると回復が早くなったのか。このようなことを毎回考えながら、基本種目の重量を伸ばしていくのが大事な考え方です。自分をもっと知るということを進めていかないと、なかなか改善は難しいと思います」(鈴木)

それでは、自分を知るために大事なのは、なんなのだろうか。

「最初に大事になるのは、繰り返しになってしまいますが、簡単な知識をつけることです。例えば、『関節には感覚があるんだ』ということや『足で踏んだときにかかと寄りになっているな』ということも知識です。
『自分を知るための方法は誰に習えば良いですか』という質問もよく受けます。まずは日々のトレーニングで自分の感覚と向き合い、感覚があるのかないのか把握するのがスタートだと思います。そうしなければ誰かに指導を仰いでも本当に良いのか悪いのか判断できないまま進んでしまうでしょう。
また客観的に見る必要もあると思います。自分の身体やフォームの状態を客観的に知るために、トレーニング中に動画を撮って内容を細かく分析してみるのは良いかもしれませんね」(鈴木)

回避法⑨

まずは〝自分を知る〞その上で基本種目の重量を伸ばしていく

基本的な種目を重視すべき理由

レストポーズ・ドロップセット・フォーストレップなどある種の中毒性のある方法は刺激のマンネリ化や怪我につながる可能性ある
→あくまでバリエーションの一つにとどめ、ごく普通のストレートセットで、ある程度の回数を安定させながら重量を伸ばしていくことが必要なのではないでしょうか(鈴木)

落とし穴⑩

SNSなどでよく見る奇抜な種目に惑わされてしまう

トレーニング種目には、ベーシックなものから最近になって流行り出したものまでいろいろな種類がある。しかし、もしSNSで見た変わった種目を盲目的に行っているならば注意が必要だ。

「種目を選ぶ際には、『誰が言ったか』ということは重要ではないと私は思います。その種目がどのような目的なのか。解剖学・バイオメカニクス的観点ではどうなのか。こういったことが全てきちんと説明されているのならば、取り入れてみても良いでしょう。単に競技成績があるという理由や、インフルエンサーで影響力があるからというだけの理由で選ぶのはやめた方が良さそうです」(鈴木)

それでは、このパターンとは逆で、知識だけ豊富な発信者の意見というのはどうだろうか。

「知識がたくさんあったとしても、トレーニング経験が少ない場合は要注意です。実際に自分で体験していないため、『理論的には正しいけど、やってみると実際は違うよ』という状況を知らないことがあるからです。本来、身体は協調して動くべきものです。しかし知識だけの人の場合は、ある特定の要素だけに分解して議論しがちです。大局的な視点を持たないと、トレーニングを考えるのは難しいと思います。また別の見方として、その種目は長い間行われてきたのかも判断材料になります。昔から長く残っているということは、それなりの取り入れるべき理由がある可能性が高いと考えて良いでしょう。映える種目は長くは続きません」(鈴木)

回避法⑩

“映える”だけの種目は消えていく
昔から長く残っている種目にこそ目を向ける

ポイント

SNSで流行った種目などではなく基本的な種目を突き詰めることが重要
→「その種目は昔から長く残っているか」を考えてみましょう。「映える」種目は長くは続きません。種目の発信側が説明する目的や解剖学的視点がしっかりしていれば取り入れてみるのもありでしょう(鈴木)

すずき・まさし
1980年12月4日生まれ。福島県出身。株式会社THINKフィットネス外部顧問。2010年~2018年日本男子ボディビル選手権9連覇。2016年IFBB世界選手権ボディビル80kg以下級優勝。現在はトレーナーとして主にアスリートやボディビル競技者のトレーニング、栄養指導にあたる

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