今年もいよいよコンテストシーズンに突入する。特に初めて大会に挑戦する人は、初の本格的な減量に戸惑うかもしれない。そこで、日本トップビルダーとして活躍する喜納選手が「食事」「トレーニング」「有酸素運動」などの減量に必要なポイントを分かりやすく解説してくれた。初めて減量に挑戦する人も、すでに経験している人も、一緒に学んでみよう。
取材・文:舟橋位於 大会写真:中原義史 トレーニング写真:岡部みつるコンディショニング写真:AP,inc Web構成:中村聡美

食事編 “絞るためのカロリー”を正確に把握する
減量中の食事に関しては、悪い代表例がいくつかあります。
まず1つ目は極端なカロリーカットです。自分に合ったカロリーが分からないまま減量に入ると、どれだけカロリーを減らせば良いか分かりづらくなります。結果として、カロリーをカットし過ぎることにつながります。これを防ぐためには、減量に入る前の食事内容から、摂取カロリーの目安を求めておくことが有効です。「このくらいの食事量で体重の変化がなかったのだから、少しカロリーを削れば体重も減るだろう」というように理解できると良いです。これが、減量を始めるにあたっての前提条件となります。
その後は見た目や体重の変化を踏まえて、2週間ごとに減量内容を変えていきます。自分の場合は、1日に食べるご飯の量で調節します。最初は1食250gを4回から始めて、最終的には200gを3回と150gを1回まで減らします。急激に変えず、段階を踏むことが大切です。
次にありがちな誤りは、カーボの量が少な過ぎることです。ボディビルダーはタンパク質を重視しがちですが、炭水化物も大事な栄養素です。1日の摂取カロリーのうちの40~50%は炭水化物から摂取するのが一つの考え方です。

炭水化物量と関連して大事なのがPFCバランスです。P(タンパク質)は、体重1㎏あたり2~3gが目安の摂取量です。続いて、F(脂質)は、摂取カロリー全体の15~20%は取りたいところです。僕の場合は40g前後で一番調子が良く、30gを切ると少ないかなといった感じです。タンパク質と脂質を決めたら、最後に残りのカロリーを炭水化物から摂取するというのが一例です。
脂質はタンパク質や炭水化物と比べてカロリーが高いので、カットするようなダイエットもよく見られます。しかし、脂質も身体の中で重要な働きを持っています。
まず、脂質はテストステロンに代表されるようなホルモンの材料になります。脂質が不足した状態では十分にホルモンがつくられず、活力が落ちてしまうことになりかねません。
他にも、脂質が十分に取れることで便通が良くなることが挙げられます。減量中に便秘がちになる場合はこれが原因のこともあるかもしれません。
ここまでは、タンパク質・脂質・炭水化物の三大栄養素について解説しましたが、ここに含まれない食物繊維も意識したいポイントです。PFCを意識するのはもちろん大事ですが、野菜の摂取も忘れないようにしましょう。食物繊維が十分に取れていないと、腸内環境が悪くなりやすいです。
野菜を摂取するにあたって気になるのは、カロリーをどうするかです。これについては、それぞれの好みで決めて良いと思います。カロリー計算の中に全部含めたいならば、アプリ等で管理しましょう。計算外で食べるのであれば、自分のベースを明確に意識して、変化に敏感になることが必要です。いずれにしても、三大栄養素だけが全てではないと理解した食事ができると良いですね。
僕自身も、大会のための減量を始めた頃は野菜について特にこだわらずに進めていました。よくある鶏肉とブロッコリーのような生活だったのですが、便秘が慢性的にあり、時には腹痛もありました。現在はこのときの反省から、納豆を食べたり、味噌汁の中にわかめやキノコを入れたりするような工夫をしています。
減量中のタンパク質摂取量の基準は?
「タンパク質摂取量は人によってさまざまです。筋肥大では、体重1kgあたり1.6gで十分というデータもあるようですが、競技の絞りを考えると、個人的にはこれは少ないと感じます。タンパク質は脂質や炭水化物と比較して、消化される際によりエネルギーを必要としますので、多めに取ることはその点でも意味があると思います。そのため体重1kgあたり2~3gが目安の摂取量と言えるでしょう」(喜納)
便秘解消など食物繊維は減量中に効果大!
「食物繊維には、水溶性食物繊維(わかめ、メカブなど)と不溶性食物繊維(ごぼう、大豆など)があります。水溶性食物繊維は消化管の中で水分を吸収して膨らむため、便を柔らかくするのに役立ちます。一方の不溶性食物繊維は、腸管を刺激することで、直接排便を促します。減量中には水溶性食物繊維が比較的不足しがちなので、意識して摂取できると良いでしょう」(喜納)
トレーニング編 重量もメニューもオフ期と変えない!
減量中でもトレーニングの目的を見失わないことが大事です。トレーニングとは、筋肉量を増やす、もしくは維持するために行うものです。このことを誤解しがちな方もいますので、気をつけておきたいポイントとして挙げます。
筋肉を増やしたり維持したりすることを考えると、オフのトレーニング強度をできるだけ保つことが重要だと言えます。減量だからといってメニューや回数を変えず、オフシーズンと変わらない内容を続けましょう。
しかしそうは言っても、減量で疲れてくると、オフシーズンのようにトレーニングすることは難しくなるものです。そんなときにまずできる対策は、トレーニング前後の食事を増やすことです。これにより、トレーニング中のエネルギー不足を防ぎやすくなります。
理想はメニューや重量を変えないことですが、減量末期になると、今度は怪我のリスクが上がってきます。疲労した状態で無理なトレーニングをすれば、何かの拍子に怪我をしてもおかしくありません。そこで大事になるのは、トレーニングの内容変更をどこまで許容するか決めておくことです。
例えば、オフで5レップできる重量があったとします。できるだけ重量は下げないように頑張りますが、「3回を切ったら重量を下げよう」というように、自分の中で基準をつくっておくと良いです。これなら、無理な重量を続けることを防げますし、逆に、まだ重量を下げなくて良いのに下げてしまうことも防げます。

繰り返しになりますが、筋肉は、重量に耐えないといけない状況をつくることで発達します。そのため、重量を落とす代わりにボリュームを増やしてカバーしようという考え方もあまりおすすめできません。ある程度の重量とレップ数を保つことが理想ですね。
よくある誤りとして、減量中だからたくさん動こうというマインドがあります。いわゆるレップ数を多くした減量用のトレーニングですね。僕自身もそのようなトレーニングの経験はあり、今振り返ってみると、確かに少ししぼんでいたのかなと思います。
重量を落とす代わりに回数を増やすようなトレーニングが生まれた背景には、トレーニング中でも消費カロリーを稼ぎたいという考えがあったのだと思います。他には、回数の多いトレーニングをすることで、質感の改善を狙おうとするような考え方もあったのかもしれません。あくまでも、トレーニングは筋肉を増やすか維持するために行うものだという考え方を忘れないようにしましょう。
減量期はトレーニングメニューを変える?変えない?
「減量中でも、筋肉を増やす・維持するという考え方は変わりません。そのため、オンシーズンだからと言って、トレーニングで扱う重量やメニュー、挙上回数を大きく変更する必要はありません。筋肉は与えられた重さに対抗するようにして発達します。重量を下げれば、それに合わせて筋肉も小さくなる可能性があると知っておくと良いです」(喜納)
休養編 疲労のサインに目を向けよう
減量中はオフシーズンと比べてどうしても疲労がたまりやすいです。疲労がたまると、それに伴って代謝も落ちがちです。そのため、疲労のサインに早めに気づいて対処することが鍵になります。
疲労がたまっているときは、以下のような症状が出やすいです。
・座ると立ち上がるのがしんどい
・トレーニングの重量が落ちる
・気持ちがなかなか入りづらい
・レップ数が落ちる
このような症状が見られたときは、適切な休養を取る必要があります。一つ考えられるのは、トレーニングでの使用重量の調節です。これは、神経系の疲労を抜くことが目的です。また、完全なオフにするのではなく、軽い有酸素運動を行うアクティブレストなんかも良いと思います。
僕自身に当てはまるのは睡眠の問題です。子育ての関係で、夜間にトレーニングすることも増えました。そうするとやはり、十分な睡眠の確保が難しくなり、結果として体調を崩しやすくなりました。そのため、強い疲労を感じた場合は、無理せず思い切って休むことを心がけています。
オフの取り方は、今行っているトレーニング内容を踏まえながら決めていきたいポイントです。例えば、週6日トレーニングして、1日オフを取るようなサイクルを組んでいる方であれば、2日連続でオフを取って身体を休ませる方法があるでしょう。僕自身は、家庭の都合でトレーニングできないこともあるのですが、その場合は勝手にオフができたと考えて休むようにしています。
減量後半になると、焦りも加わってさらに身体はしんどくなります。そこで考えたいのは、1日で落とせる体脂肪の量には限界があることです。このことを正しく理解すると、無理して活動量を上げることを防げます。結果として、余計に疲労することを回避しやすくなると思います。
減量中に眠れない人へのアドバイス
「減量中に眠れない人は以下のようなポイントを意識してみましょう」(喜納)
・夜に追加で炭水化物を摂取してみる
・就寝90分前にお風呂に入る
・寝る前はスマホを触らないようにする
・呼吸のエクササイズで副交感神経を優位にする
有酸素運動編 必要かどうかは活動量を基準に判断
有酸素運動をやるべきなのかやらない方が良いかについては、その人の生活スタイルから判断するのがポイントです。例えば、デスクワーク中心で日頃から活動量が少ないのなら、有酸素運動はやってみても良いと思います。
活動量を考えるための一つの目安として、歩数を採用すると良いでしょう。歩数が1日に1万を超えているなら良いですが、届いていないならば活動量が低い可能性があります。iPhoneならば、「ヘルスケア」のアプリで簡単に歩数が確認できます。

活動量を踏まえて、有酸素運動をやると決めた場合は、生活の中にうまく組み込めると良いです。1駅分歩くなどで、結果として有酸素運動が行えるのが理想です。
ジムで有酸素運動を行う場合は、トレッドミルで傾斜をつけて歩くと消費カロリーが稼げます。ただし、このやり方はハムやカーフの疲労感が出やすいので、そういった場合はエアロバイクに切り替えても良いと思います。
全体として気をつけたいのは、あくまでもトレーニングが最優先だということです。有酸素運動でヘロヘロになり、動けなくなってしまうのでは本末転倒です。「このくらいで良い」という程度に抑え、必要以上に有酸素運動を行うことは避けましょう。
ケア・コンディショニング編 特に怪我をしやすい減量期は1年中のコンディショニングで予防
僕自身の身体のケアは、施術者にやってもらう筋膜リリースがメインです。オンシーズンは1カ月に1回か2回で、オフはもう少し頻度が下がります。ここでは完全に施術者に身体を任せて、リラックスすることが目的です。徒手の施術がメインですが、場合によっては金属の棒も使います。
このようなケアを行ってもらった結果として、身体が軽くなるような感覚があります。また、気持ちの面も込みで、身体が回復した気がするのも気に入っています。

自分自身でケアを行う場合は、疲労を抜くという目的を明確に持つと良いでしょう。例えば、寝る前に静的ストレッチを行ったり、フォームローラーで胸椎を伸展させたりというのが挙げられます。その他では、マッサージガンを使ってリラックス効果を狙うのも良いと思います。
コンディショニングを行うことのメリットとしては、怪我の防止があります。身体の動きが悪かったり、特定の部位に過剰なストレスがかかったりすることが、怪我の主な原因になります。ところが、オフは脂肪がクッションになるため、この点がごまかされがちです。そういった意味では、オン・オフ問わず、苦手な動きを改善するコンディショニングを継続することが大事だと言えます。
メンタル編 減量は「自分が選んだ道」だと強く理解する
減量中にメンタルを維持することは大切です。そのためには、まずは自分がどのような状態にあるかを理解することから始めましょう。自分がストレスを感じやすい体質なのかどうかを知ることは大事です。また、ストレスを感じたときに、それが自分で変えられるものなのか変えられないものなのかを判断することも重要です。
減量中の悩みとして「キレ食い」をよく聞きます。これについても、一つのメンタルの問題として捉えると良いです。キレ食いしたい状態を身体からのサインと見て、食事を過剰に落としすぎたりしていないかチェックしてみましょう。減量末期で大会が近くなると、メンタルはさらに不安になりがちですが、そんなときこそ「大会で勝ちたい気持ち」を原動力に頑張れると良いですね。
減量中に不機嫌になったことのある方も多いと思います。もちろん、普段よりもイライラしやすくなるのは分かります。ただし、その気持ちを他者にぶつけてしまうのは良くないです。そもそも、大会に出るための減量というのは、自分が望んで行っているはずです。好きでやっているという気持ちを常に持つようにしましょう。
それでもイライラした場合は、その理由を考えると、冷静に抑えられることがあると思います。
最後に喜納穂高からのアドバイス
「キツいやり方から始める」
「ここまでで、減量のポイントを複数のトピックごとに解説してきました。しかし、今回が初めての減量で、何からやれば良いかも分からない方もいるはずです。
そんな方におすすめしたいのは、きついやり方から始めることです。まずは『絞れるだけ絞ってみる』というようにきついやり方を経験して、そこから徐々に自分に合った楽なやり方に緩めていきます。これによって限界値を知り、自分の中の正しい判断基準をつくることができます。
楽なやり方から始めて徐々にきついやり方を探るのではなく、きつい方から始めてみるのが一つのポイントです。最初はとにかく頑張ってみると良いでしょう」(喜納)
きな・ほだか
1995年11月20日生まれの30歳。沖縄県出身。身長173㎝、体重78(オン)86㎏(オフ)、フリーパーソナルトレーナー。クラシックフィジークでは2021年・2022年ジャパンオープン選手権175㎝以下級優勝、2022年はオーバーオールでも優勝。ボディビルでは2023年日本選手権5位、2024年日本選手権7位、2025年日本選手権6位。











