ボディビル日本王者として頂点を極めてきた相澤隼人選手が、今度はHYROXに挑む。スパルタンレース、そしてHYROX。違う分野に挑む理由とは。
取材・文:IRONMAN編集部 撮影:EISUKEKOMATSUBARA Web構成:中村聡美

相澤隼人選手はそうそうたる顔ぶれと共にHYROX千葉のメンズリレーに出場する。メンバーは、クラシックフィジーク日本王者の五味原領選手(写真左)、ボディビル日本ジュニアチャンピオンで世界選手権の出場経験を持つ佐藤悠介選手(写真右)、そしてパワーリフティング(クラシック部門)日本王者のあゆと選手(撮影日は世界選手権のため不在)という、各界のトップが集結した豪華なチームだ。目標タイムは70分以内
━━ボディビル日本王者として結果を残し、今回、HYROX(ハイロックス)に挑戦しようと思ったきっかけを教えてください。
相澤 昨年、スパルタンレースに出たんです。そのときに現地でHYROXの存在を知って、そこから興味を持ちました。
━━スパルタンレースで感じた、ボディビルダーとしての強み、もしくは課題はありましたか?
相澤 まず、ランで苦戦しました。もともと柔道をやっていたので身体を使うこと自体は慣れていたんですけど、走ることは得意ではありませんでした。特にスパルタンレースではスキー場を走って、しかも登るんですよ。あれは本当にキツかった。今でも鮮明にそのときの景色を覚えています。
逆に得意だったのは、パワープレイできるものです。壁を乗り越えるとか、自分の身体を使って1分以内に終わるような試技は得意でした。物を引くような種目も苦ではなかったです。瞬発系の動きは自分の強みだと感じました。

2種目目はスレッドプッシュ。ボディビル元日本王者が魅せる圧巻の押し姿は、迫力満点だ ※上半身裸での撮影は、休館日にゴールドジムの許可を頂いた上で実施をしております。
━━HYROXはランの比重も大きい競技です。それでも挑戦しようと思った理由は?
相澤 格好つけて言うなら、苦手なものに挑戦したい。ただ本音を言えば、HYROXという挑戦したい競技のルールがラン重視だったから、やらざるを得ないというだけです(笑)。ランが少ない競技があるなら、そっちの方が自分の特性には合うと思います。でも、HYROXは話題性もありますし、ジムで実際に練習できることも含めて、純粋にやってみたいと思えたんです。
━━実際に練習してみて、手応えはいかがですか?
相澤 やはりパワー系は何とかなるなという感覚があります。スレッドプッシュ、スレッドプルはいけると思いますし、バーピーも自分の特性に合っていると思います。もともと跳躍系は得意なので、そこは問題ないかなと。
ただ、同じ強度で動き続けなければいけない種目は練習しないと危ないですね。スキーエルゴ、ローイング、ウォールボールのように、3分、4分と動き続けるもの。特にウォールボールはコントロールが必要なので、ちゃんと練習しないと厳しいと思います。
━━HYROXの中で、ボディビルで鍛えてきた筋肉が生きていると感じる場面は?
相澤 やっぱり押す、引くというパワーの部分ですね。そこはスパルタンレースとも重なります。筋量や筋力があることは強みになります。ただ、走った後に種目が来るので、単体でできるかどうかとはまた違います。例えばランジも、単体で100mやるならクリアできると思います。でも、その前に何㎞も走っている状態でやるとなると怖さがあります。
━━ボディビルダーは「使えない筋肉」と言われることもあります。その点については?
相澤 「使う」の定義によると思います。そもそもボディビルは見せる筋肉を鍛える競技なので、そこに対してどうこう思うことはありません。それにボディビルダーのように筋肉量が多いことでスポーツへ有利に働く面も多い。HYROXでそのあたりを証明したいですね。なのでバテたり、脚がつったりして、恥ずかしい姿を見せたくはないです(笑)。有酸素と持久力、瞬発的なものが組み合わさって、1時間、1時間半と続く競技なので、そこに対してはまだ適性が弱いと感じています。

4種目目のバーピーブロードジャンプでは、リレーでの種目別上位進出を狙う
━━実際に練習してみて、身体への負担については。
相澤 脚が特に大きいですね。スキーエルゴも腕だけではなく、ヒンジ動作や体幹を使って、末端をいかに脱力できるかが大事だと思います。スレッド系も手は持っているだけで、実際に力を出すのは脚です。今はHYROXの練習を週1回くらいやっていますが、それだけでも脚がかなり筋肉痛になります。下半身の対策は必須だと感じています。
━━現在はどのような練習をしているのですか?
相澤 5月中旬くらいに、まず全種目を体験してみました。そこからはランとワークアウトを組み合わせています。トレッドミルで1㎞走って、種目を入れて、また走るという形です。設備がない種目は代用しています。スキーエルゴはチンニングで身体をつなげる感覚をつくったり、ハーフスクワットでテンポよく下半身を動かす練習をしたりです。重量50㎏くらいで150レップやることもあります。ウォールボールは10㎏プレートを持って、しゃがんでバンザイを150回くらいやっています。本当は実際の機材にも触れた方がいいので、これからは2週に1度くらいはゴールドジム浜松町東京のような専門施設にも行けたらと思っています。
━━ボディメイクをしている読者は、HYROXをやると筋肉が落ちるのではないかと心配する人もいると思います。
相澤 ボディメイクをメインでやっていて、その中にHYROXのトレーニングを入れるくらいなら、筋肉は落ちないと思います。筋肉を使うことには変わりないので。ただ、ボディメイクをやめてHYROXだけにするなら、使わない部位は落ちると思います。腕回りなどはそうかもしれません。でも、ボディメイクと並行してやるなら全然両立できると思います。
むしろHYROXは絞れると思います。エネルギー消費量がすごいですし、汗のかき方も違います。心拍数が高い状態が続くので、ボディメイクをしている人にとってもプラスになる部分は大きいと思っています。
━━トレーニングで重量を伸ばす楽しさに近いものもありますか?
相澤 ありますね。今は「前より楽にできた」という感覚が楽しいです。スパルタンレースの練習でランを始めたときは1㎞走るだけでもすごくしんどかったんですけど、今は1㎞に対する抵抗がなくなってきました。「1㎞を走ることが苦ではなくなってきた」ということは身体の能力値が上がっていると感じる瞬間です。
HYROXにはエリア別にタイムがありますよね。トレーニングでいう重量や回数のように、前回を超えようという指標がある。そこが面白いところだと思います。
━━HYROXには、他にどのような印象を持っていますか?
相澤 新しいですよね。一過性の流行ではなく、今後も続いていきそうな予感があります。ランニングをしている人、ワークアウトをしている人、ボディメイクをしている人、いろいろな層に接点がある競技だと思います。ボディビルはかなり特化した競技ですが、HYROXは身体を動かすことを知っている人なら、誰でもエントリーしやすい。格闘家でも、野球選手でも、ランをやっていてウエイトを少しやっていれば「楽しそう」と思える内容だと思います。
あと、室内でできるのも大きいです。天候に左右されないですし、日焼けの心配もない。美容意識の高い人にとって、室内でできるのは魅力だと思います。あとは観客との距離が近いのも面白いですね。HYROXはワークアウトを近くで応援できる。そこは競技として強いと思います。

5種目目のローイング。自慢の脚力を活かし、軽快なピッチで引いていく
━━ボディビルダーが他競技に出場することについては、どのように考えていますか?
相澤 業界って、どうしてもその中にとどまりがちだと思います。だから選手が外の世界に出ていくことは大事だと思います。自分の場合は、異なる世界を見たい、新しいことを経験したいという気持ちが強いです。好奇心が強いので、やってみたいと思ったことは基本的にやります。それが結果的にボディビルの人口を増やすことにつながればうれしいです。
自分にとってボディビルは、人生やアイデンティティをつくってきたものです。だから、業界が大きくなっていくことは自分自身の自信にもつながります。関わる人たちにとってプラスになるなら、それが一番良いと思っています。
━━近年は俳優業にも挑戦されています。近況はいかがですか?
相澤 俳優業は、チャンスをもらえるか、打席に立てるかがすごく大事だと感じています。「やっています」と言うだけで仕事がもらえるような甘い世界ではないです。
今も制作中の作品はありますし、来年公開予定のものもあります。ただ、もっと良い報告をしたいという悔しさはあります。ボディビルやトレーニングは、数字で見える部分があります。何㎏上げた、何㎝ある、そういう結果が見えやすい。でも俳優業は、フィーリングや「こいつ面白いな」と思ってもらえるかどうかが大きい。そこが難しくもあり、面白いところだと思います。
━━最後に、身体づくりをしている読者へメッセージをお願いします。
相澤 きっかけは何でも良いと思います。ボディビルでも、HYROXでも、SNSで見た格好いい人への憧れでも構いません。大切なのは、本人がしっかりとモチベーションを持って競技に取り組むこと、そして身体を動かすことで人生がより豊かになることだと思います。
トレーニングを通して身体が変わったり、扱える重量が伸びたりすることは、大きな自信につながります。それは本当に素晴らしいことです。私自身、筋肉によって自分の人生をつくってきました。トレーニングやワークアウトが、多くの人にとって自己肯定感を高めるための一つのツールになればうれしく思います。
あいざわ・はやと
1999年10月21日生まれ、神奈川県相模原市出身。身長164㎝。アイデンティティの筋肉を携えて唯一無二の俳優道を歩み出す。ゴールドジムアドバンストレーナー&パーソナルトレーナー。JBBF(公益財団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)の審査員としても活動中。JBBF日本男子ボディビル選手権2021~2023年優勝










