5月31日、神奈川・カルッツかわさきにて開催された、ゴールドジム主催のスペシャルフィットネスイベント『還暦スター誕生』。名だたるスターを輩出した伝説のオーディション番組『スター誕生!』(日本テレビ)の還暦版を目指すこのイベントには、60歳から96歳までの参加者たちが集結。鍛え抜かれた肉体のほかダンスや歌など、華やかでエネルギッシュなパフォーマンスを披露した。
ゴールドジム主催とあり、ボディコンテスト部門は男女ともに盛況。男子唯一のカテゴリーである「メンズタンクトップ60歳以上の部」には19名がエントリーし激戦となった。そのなかで、見事優勝を果たしたのが倉本富司(くらもと・とみじ/60)さんだ。
倉本さんは、生まれつき右胸の筋肉と指の一部が形成されない「ポーランド症候群」を持つが、鍛え上げた身体と堂々たるポージングで観る者を魅了。自分の可能性を信じ、挑戦を続ける姿が、まさに“還暦スター”にふさわしい存在感を放っていた。
「人前に右胸筋と指の欠損、身体をさらすことはとても勇気がいりましたが、今回はタンクトップなのでポージングでカバーでき、しかも同じ60代で競い合えるということで楽しみにしていました」
倉本さんは神奈川県横浜市で三代続く塗装店を営む職人。現在は長男とともに、外壁塗装の仕事に励む日々を送っている。フィットネスとの出会いは49歳のとき。「当時は体重が80kgほどと今より10㎏も重く、痩せるためにゴールドジムに通い始めました」。
過去には柔道やラグビーにも打ち込み、熱意ある指導者のもと柔道では高校2年で黒帯も取得した。だが、トレーニングにおいては胸の筋肉の左右非対称や、握力の弱さが大きな壁となった。
「最初はバーベルやダンベルをつかむのに苦労しましたし、懸垂やラットプルダウンのときも、どうしても右手が滑ってしまう。パワーグリップにおおいに活躍してもらい、またジムのトレーナー、会員さんたちの励ましもあり、今は楽しみながらトレーニングを続けることができています」
ボディビルの大会に出場し始めたのは57歳の年だ。「この身体なので審査員を目指そうと思っていましたが、周りから『大会に出てこそ審査できる』と言われて」出場を決めた。その後、タンクトップのカテゴリーが誕生したことで、「これなら自分もストレスなく出場できる」と思い、精力的な大会出場を続けている。
2024年には神奈川オープン・パラボディビル選手権にも出場。「皆さんそれぞれにハンデを抱えながら、懸命にステージに立っていて心を打たれました」。自らもまた、作り上げた肉体やステージングで周囲に勇気を与える存在となっている。
「なりたい自分は、まだまだ遠い。だから、これからも挑戦を続けたい」。そんな言葉の裏にあるのは、「一生懸命」「一塗専心」と掲げる職人としての生き方。そして、フィットネスを通じて築いた新しい自分への自信と絆だ。
「ハンディを持つ人がこういう大会に出るのは、本当に勇気がいりますよね。自分も勇気が必要だったので、もし出てみたいという方がいたら、サポートできればと思っています。一歩踏み出せば、きっと新しい世界が広がると思うので」
年齢も身体の制約も、「できない理由」ではなく「やる理由」に変えられる。倉本さんの挑戦は、自分を更新し続ける生き方がこそが何よりの“フィットネス”だと教えてくれる。
【マッスルゲートアンチドーピング活動】
マッスルゲートはJBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)とアンチドーピング活動について連携を図って協力団体となり、独自にドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト大会である。
取材・文:藤村幸代 撮影:中島康介