真夏の太陽が東京の街を翻弄し、そして空気に沈殿した焦燥感を洗い流すかのように強い夕立が降り注いだ8月1日。だが、会場に一歩足を踏み入れると、そこには外気の現実を忘れさせる別世界が広がっていた。
ボディビルをはじめとするボディコンテスト競技にも、おおよそ春から秋にかけて「シーズン」と呼ばれるものが存在する。しかし、それらは屋内競技であり、近年は大会数も増加し、年間を通してコンテストが開かれるようになった。もしかしたら、そこは季節の枠組みにとらわれない世界なのかもしれない。
この日、東京ビッグサイトで開催された「Wellni SPORTEC CUP 2025」は、日本ボディビル・フィットネス連盟(以下、JBBF)が主催する試合で唯一、名称に「選手権/Championships」が付いていない大会である。一般的に「選手権/Championships」は特定分野の最高位を決定する大会に用いられ、「CUP」は特定の大会名、または優勝者に授与される優勝杯を指す。ただ、そこに厳密な区別があるわけではなく、サッカーで世界一のナショナルチームを決める大会は「ワールドカップ」である一方、世界陸上は「ワールドチャンピオンシップス」であるように、その競技の文化や伝統によって呼び方が決まっている場合も多い。
2016年に始まったSPORTEC CUPは、「選手権/Championships」とは異なる発想に基づいた大会だ。今回実施された競技はメンズフィジーク、ビキニフィットネス、マスキュラーフィジーク、ボディフィットネス、ウェルネスフィットネス、クラシックフィジークの6つ。ボディビルの「日本選手権」などを除けば、JBBFの選手権大会のほとんどは体重別や身長別、マスターズ選手権大会の場合は年齢別で争われるが、このSPORTEC CUPはそうした枠を取り払ったオーバーオール(無差別)で争われる。
といっても、誰もが参加可能なオープン大会ではない。メンズフィジーク、ボディフィットネス、ビキニフィットネスは前年度の世界選手権大会入賞、前年度オールジャパン選手権入賞など、その出場資格には高いハードルが設けられている。会場はスポーツ・健康産業総合展示会「SPORTEC」の特設ステージに設けられ、普段こうした競技を目にしない層へのアピールの場にもなる。つまり、SPORTEC CUPはチャンピオンクラスの選手たちがオーバーオールで競い合う、競技性とイベント性を兼ね備えた大会といえる。
上位入賞者には国際・国内大会への出場権などが付与されるが、SPORTEC CUPの「権威」をどう捉えるかは、出場する選手たちの価値観に委ねられている。昨年度は2位。上半身のサイズ感と殿部、ハムストリングを強化して今大会に臨み、ウェルネスフィットネスで優勝を飾った「ブラマジ田中」こと田中美緒は語る。
「1位を獲るために、全力でここに合わせてきました。まだ絞りにも筋量にも課題はありますが、ここで一旦休んで、またオールジャパン選手権に向けてやるかどうか考えたいと思います」
そのステージをさらなるステップアップのための当面の目標地点と捉える選手もいれば、挑戦と経験の場として位置付ける選手もいる。2022年に東京選手権メンズフィジーク176cm超級で優勝。翌23年にオールジャパン選手権に挑戦するも8位に終わり、全国大会の壁の高さを知った上原良介は、昨年よりSPORTEC CUPに参戦。前回の3位から順位を上げ、今年は1位を勝ち取った。
「オールジャパン選手権は階級別ですが、SPORTEC CUPはオーバーオールで闘えるので、私がまだ並んだことのない選手と競えるいい機会にもなります。競技歴はまだ4年目で新米選手なので、一つひとつの大会を全力でやり切ることを目標にしています」
舞台に立つ者の数だけ、SPORTEC CUPの存在理由がある。それは「権威」という言葉だけでは測れない、選手一人ひとりの挑戦のかたちを映し出す鏡でもある。
【JBBFアンチドーピング活動】JBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)はJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)と連携してドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト団体で、JBBFに選手登録をする人はアンチドーピンク講習会を受講する義務があり、指名された場合にドーピング検査を受けなければならない。また、2023年からは、より多くの選手を検査するため連盟主導で簡易ドーピング検査を実施している。
取材・文:藤本かずまさ 撮影:中原義史