8月30日、東京・品川インターシティホールで開催された「筋肉医局祭2026」。医師・歯科医師・医学生・歯学生あわせて100名超が身体づくりの成果を競い、600席の観戦チケットも完売した。イベントを仕掛けたのは、筋肉医局代表の阿部央聖(あべ・おうせい/31)さんだ。阿部さんが目指すのは、医療者が病院の外へ飛び出し、自らの身体を通して健康を伝えること。第2回を終えた今、その視線はすでに世界へ向いている。
【写真】100名超の医師らが筋肉を披露!「筋肉医局祭2026」のステージ

「医療を提供する医師が、自分の身体と向き合う」
筋肉医局が掲げるのは、「医師が病院の中で病気を待つ時代から、病院の外で健康を発信する時代へ」という考えだ。
阿部さんは、大会を始めた理由をこう説明する。
「やっぱり健康になるのも、病気になるのも、病院に来る前なんですよね。そこに我々医療者が病院の外に出て、健康を発信していく。これはとても大事だと思っています」
医療は病気を治療する。一方でフィットネスは、健康な身体を維持していくための一つの手段になる。
「医療は病気を治すもの、そしてフィットネスは健康を保つもの。この2つが手を取り合うことで健康寿命が延び、日本全体を支えられると思っています」
だからこそ、健康を伝える医療者自身にも、自らの身体と向き合ってほしいと考えた。
「医療を提供する我々医師が自分の身体と向き合う。そういう経験のある医師だからこそ、社会や患者さんに届く言葉があると思っていて。そういう思いで始めました」
一見するとユニークな「筋肉医局」という名称にも戦略があったという。当初は「Medic Muscle」という案もあったが、あえて親しみやすく、少しクスッと笑える名前を選んだ。
新しい取り組みは、ともすれば「出る杭」として批判の対象にもなる。そのため最初から格好良さを追求するのではなく、少し親しみのあるポジションから入り、活動そのものによって価値を高めていく。それが阿部さん流のブランディングだ。
「娯楽をして健康になるなら、娯楽でいい」
ボディメイクコンテストにはエンターテインメントとしての側面もある。フィットネスや筋トレが「娯楽」と捉えられることについて聞くと、阿部さんはむしろ肯定的だった。
「自分はエンターテインメントがないと注目って得られないと思っています。日本人全員が筋トレをしたら勝ちじゃないですか。入り口は何でもいい。結果として筋トレがその人の健康面でメリットになっているので」
重要なのは、どんなきっかけで始めたかではなく、その先に何が生まれるか。
「我々もこれを娯楽と捉えれば娯楽かもしれない。でも、筋肉医局祭に挑戦するために運動習慣を身につけたお医者さんや、刺激を受けて運動を始めた方が実際に健康になっていれば、結果は健康じゃないですか。エンタメをして、結果として健康になっている、みたいな形にしたいですね」
筋肉医局祭でも、モデルやフィジークだけではなく、ダイエットや身体能力を競うカテゴリーを設定。健康づくりそのものを、観客が楽しめる形で見せている。
大会ではアンチ・ドーピングの理念が重視され、簡易ドーピング検査も実施された。
阿部さんは、日本のスポーツ界が培ってきたアンチ・ドーピングの精神やクリーンな環境にも価値を感じているという。
「日本が世界に対して健康を発信していくためにも、そういうクリーンな環境であることが大切だと思っています」
健康を発信する医療者の大会だからこそ、身体をつくる過程にも健全さを求めている。
台湾からも出場「次は世界へ」
第2回も第1回に引き続き、台湾からの参加者が出場した。それを受け、阿部さんが次に見据えるのは国際展開だ。
「いつか国際展開もやりたいと思っています。日本は世界に誇れる健康長寿の国だと自分は考えています。それを日本の中だけにとどめるのではなく、世界に発信したい」
構想しているのは、従来の「医療ツーリズム」とは少し違ったアプローチだ。
病気を早期発見するためだけに日本を訪れるのではなく、日本の観光や食を楽しみながら、健康的な生活習慣を学んで帰国してもらう。
「日本は食文化や自然環境、禅の精神など、世界に誇れる要素を持つ健康大国だと思う。そんな日本に来て、観光を楽しんで、食を楽しんで、健康になるような生活習慣を身につけて帰る。そんな『健康になれる旅』を提案したいんです」
その根底にあるのは、日本だけでなく、世界中の人を健康にしたいという思いだ。健康長寿の国として培ってきた日本の生活習慣や文化を届けることが、そのまま世界の健康につながる——阿部さんはそう考えている。
そのためには、筋肉医局自体が海外からも認知される存在になる必要がある。
さらに、この活動の根底にあるのは筋肉そのものだけではない。座右の銘は「出会いは宝」。人が新しい世界に足を踏み入れるとき、心を動かすのは「概念」よりも「人」であることが多いという。
「野球という概念に憧れるというより、大谷翔平選手に憧れて野球を始める。フィギュアスケートそのものというより、浅田真央さんに憧れて始める。心が動くタイミングって、人だと思うんですよね」
だからこそ、医師たちが仕事とは別の共通項でつながれる「サードプレイス」を作りたい。そのための一つの「装置」が筋肉医局祭なのだという。
医療とフィットネス、そしてエンターテインメント。一見すると異なる世界をつなぎながら、彼らが目指すゴールはシンプルだ。
病気になってからだけではなく、病気になる前から人を健康にすること。
100名を超える医療者が集った第2回を経て、阿部さんたちの挑戦は、病院の外から、さらに日本の外へと広がろうとしている。
文・撮影:FITNESS LOVE編集部










