2019年、コンディション好調ながらも思いもよらぬ挑戦者に敗れた澤田めぐみ選手。あれから2年、前回女王不在の中待ちに待った日本選手権で、プレッシャーの中3度目の女王に返り咲いた今の心境を語ってくれた。(月刊ボディビルディング2021年12月号から修正引用)
取材・文:月刊ボディビルディング編集部 撮影:中島康介
「私の中だけのことですが…、負ける気はしませんでした」
――3度目の優勝おめでとうございます。今の気持ちはいかがでしょうか。
澤田 嬉しいという気持ちと、ホッとしたという感じです。
――ホッとしたのはなぜでしょう。
澤田 昨年は前回のチャンピオンが出場されませんでしたが、いずれにしても「私がチャンピオンになる」と決めていましたし、オール1位票が私の中で決めていたチャンピオンの絶対条件だからです。周りの方に「大丈夫です。任せてください(笑)」と…。実際、今大会に向けての私の気持ちはすごく上がっていて、私の中だけのことですが…、負ける気はしませんでした(笑)。そして、有言実行を果たせて、また、圧勝できて、安心したというか、安堵の気持ちと言うことですね。
――周りの方には強気に見せていたのですね。
澤田 一言で「強気」と言うと語弊があって、私の調子が良いときは、いつも自然に、「大丈夫です(笑)」と言えるのですが…、少しでも不安があるときはどこか一歩引いてる自分がいるんです。それが今回は全くありませんでした。また、あえて自分へ良い意味でプレッシャーを作ります(笑)。
――世界選手権のときも、そのような気持ちは無かったのでしょうか。
澤田 全く無かったです。日本選手権でもそうですが、勝つために必要な気持ちだと思います。私にとっての「勝つ」は「自分に勝つ」ということで、また、「負ける気がしない」とは「全く不安がない」ということで…、私がメダルを獲ると決めたら、それを達成(勝つ)、ベストを尽くす、ということです。2013年、私はベストボディ・ジャパンの大会に出たことがあります。その当時にトレーナーの本野(卓士)さんと出会いました。本野さんには、「誰かを蹴落とす(相手を負かす)ということは考えちゃいけない。それを考えたらその時点で負けだからね」と言われ、その言葉はずっと胸に強く残っていて、今日までも、これからも、そうあり続けていきます。
――本当のライバルは自分自身だと。
澤田 ライバルは誰ですかと聞かれることが多々ありますが、「え、逆に私のライバルは誰なの?」と思ってしまいます。強いて言えば、皆さんが挙げる優勝候補になるような方…? でも、皆さん持ち合わせているものは違います。ライバルと言われる方以上の身体を作るのではなく、自分が一番ベストの身体を作りベストの状態でステージに上がれば必ず結果は付いてくると思っています。なので、自分に負けないことですよね。
――話が少し戻りますが、最初はベストボディ・ジャパンに出場されていたのですね。
澤田 13年は、ベストボディ・ジャパンの女性のカテゴリーができた年でした。そこで出ることになって、数人の中で優勝できました。ですが、その後一人でトレーニングを続けることに限界を感じて、縁があり本野さんのパーソナルトレーニングを受けるようになりました。その後、次のベストボディ・ジャパンの大会に出たとき、私は優勝するつもりでしっかり絞り準備万端で出たにも関わらず、順位も付かない結果で終わってしまいました。審査員の方にコメントをいただき、「筋肉付け過ぎかな…」とのフィードバックでした。そのときに本野さんはもちろん、周りの方からも「自分の目指す身体作りを評価してくれる大会を選んだ方が良い」と声をかけていただき、14年からJBBF女子ボディビル(現女子フィジーク)選手として指導が始まりました。
――最初は東京オープンでしたね。
澤田 13年の7月、本野さんに「来年は東京オープンに出よう」と決めていただき、それまでボディビルの知識はゼロだったので一から育てていただき、いろんな教えもいただきました。そして翌年デビューしました。そのとき言われたことは今でもしっかり覚えています。「チャンピオンになりたいなら、アスリートになりなさい」「遊んでる時間があるなら、トレーニングをしなさい」、私を変えた大きな一言です。
――昨年から今年の初戦となった日本クラス別選手権までに、何か今までと違う取り組みはあったのでしょうか。
澤田 特には無くて、自分のマイナスなところを良くするということを、今まで通り本野さんとやってきました。日本クラス別選手権に出るにあたって、初戦を日本選手権にするのが怖いと感じ、調整の意味と、自分の状態を知るという意味で出ました。なので、ブランクだった1年間も特に今までと同じでした。ただ、本野さんから「何月までオフね」と言われたのですが、オンまでの期間私は何をすれば良いんだろうと考えてしまいました。結果、筋肉に疲労が残らないように休めながらトレーニング強度を上げて身体を大きくすることに。「休めながら…」と言われて素直に休んじゃう気分でした(笑)。寝坊したから今日はトレーニングは休もうという日は何度かありました(内緒です)。
――2020年は大会が無く、モチベーションを保つのは難しかったと思われます。
澤田 それはすごくありました。20年のコロナ禍になる前まで大会があるか分からない状態で夏までは頑張っていましたが、完全に大会が無いと分かってからはモチベーションが下がってしまい、1年間のオフは初めての経験なので先の見えないトレーニングに不安を感じたのが正直な気持ちです。
――それからの立て直しはどうでしたか。
澤田 昨年に入って東京オープンが行われましたよね。それからは日本選手権に向けて徐々に動き始めました。
――5月くらいにスイッチが入ったのですね。
澤田 ちょっとずつ入っていった感じです。入れなきゃ入れなきゃと焦りを感じ、自分に言い聞かせていましたから。
――日本クラス別選手権、日本選手権までの短期間で身体の変化はどうでしたか。
澤田 日本選手権のときに自分では納得した身体だと思いました。自分の中では、筋肉に対して細かいアプローチを続けてきたので、細かいところでは変わったと思いますが、筋密度の面ではまだ足りませんでした。日本クラス別選手権が終わってから1カ月はそれを高めることに集中して取り組みましたが、日本選手権のステージで、私自身完成度はどこまでだったのか…。まだまだ、課題はたくさんあります。また、筋肉量も増やす必要があると思います。密度感とともに、その2つが課題ですね。全体の完成度をどんどん高めたいと思います。
――日本クラス別選手権から日本選手権までの間、具体的に何をやってきたのでしょうか。
澤田 日本クラス別選手権は99%の完成度で出ようという話は(本野さんと)していて、日本選手権当日に100%のドンピシャで出ようと決めていました。ですが、2年ぶりの大会で実際はそうもいかず、どこまで調整していいか分かりませんでした。私の中では納得できないまま…、日本クラス別選手権のときの写真はあまり見たくないですね。そこから本野さんには、日本選手権までの間に密度感を上げるためのトレーニングを取り入れていただき、日本選手権に向けて取り組みました。さらに絞りに関してはよりハードにしました。体重では52㎏くらいから50㎏台まで落として、トレーニングの質は下がらないように最低限の食事を取ったり、初めてプロテインを止めてEAAやBCAAなどのサプリメントだけを摂るようにしました。
――今年もやはり日本選手権連覇が目標ですね。
澤田 もちろんです。今年もその次も連覇を狙います。世界選手権は3年間のブランクがありますので、まずはベストを尽くして3位を落とさずに、次はそれ以上に行きたいですね。
――今年の活躍も楽しみにしております。ここからは余談となりますが、澤田選手と言えば高重量デッドリフトをやっている印象があります。重量は伸び続けていますでしょうか。
澤田 伸びています! それとスクワットも伸びています! 大した重量ではないので恥ずかしいのですが(苦笑)。私はスクワットで100㎏挙げられないと世界大会では優勝できないと思っているので、100㎏超えて世界チャンピオンになることが目標です。昨年は頑張って10㎏以上重量を伸ばしたのですが、脚やお尻が変わってきました。次の日本選手権までには100㎏を挙げていると思います(笑)!