10月18日(日)、東京・武蔵村山市民会館で開催されたボディコンテスト『APF ALL OUT CHAMPIONSHIPS 2026』。約1年ぶりにステージへ戻った小澤綾子(おざわ・あやこ/51)さんは、レジーナクラスと同エリートで優勝した。仕事と競技の両立に深く悩み、「勝たなきゃ意味がない」と涙を流した母に、当時大学生だった息子が伝えたのは、日々の努力そのものの価値だった。
「お前のお母さん、すごいな」同級生の言葉で気付いた母の姿
小澤さんは、接客の現場で働き、2つの仕事を掛け持ちしながら、競技を続けている。コンテストに本格的に取り組んで7~8年ほど。息子は普段から、母がトレーニングやコンテストに取り組む様子を見守ってくれているという。
小澤さんによると、息子は、コンテストやフィットネスに関心のある同級生から「お前のお母さん、すごいな」と声をかけられたことがあった。そこで「あ、母さんってすごいのね」と、母の挑戦のすごさを認識したそうだ。
涙を流す母に、息子が伝えた努力の価値
一方、小澤さんは生活のために働く中で、トレーニングの時間を十分に確保できずにいた。ステージに復帰できないのではないか、もう勝てないのではないか。焦りを感じ、苦しい日々だったという。
そんな頃、地方の大学に進学した息子が帰省し、東京の品川駅で半年ぶりに顔を合わせた。「勝たなきゃ意味がない」と泣きながら話した小澤さんは、当時、就職活動をしていた息子から、こんな言葉をかけられた。
「あのね、この駅は1日の乗降客数は世界でもトップ20に入るくらいのビッグターミナルなの。その中で、毎朝早く起きて、2つも仕事して、それでもトレーニングを続けて、コンテストに出ている人が、一体どれくらいいると思う?それってすごいことだと思わない?」
「母さん、毎回、全て勝てるわけじゃないんだよ」とも温かく伝えてくれた息子。ただひたすらトレーニングを続ける従来のやり方では、勝つ前に自分がもたなくなる。小澤さんは息子の言葉を、挑戦を続けるために頑張り方を見直すよう促すものと受け止めている。
それでも勝ちたい。高い理想も持ち続けている
「それでも私は勝ちたいとは思っています」と小澤さんは言う。その一方で、「これから先は少しずつ、違う見方もするようになるのかもしれません」とも話す。
日々の取り組みも、最低限のことができたら良しとしようと思っている。ただ、60点ではなかなか満足できず、できるうちは80点くらいを目指したいという。高い理想は今も持ち続けている。
初めてのAPF出場となった今回は、トレーナーと「とにかくノンストレスでいこう」と準備を進めた。大会選びから支えてもらい、久しぶりの舞台を「のびのびできました」と振り返る。
スポーツに打ち込む多くの人にとって、勝敗や順位はつきものだ。勝てばうれしい。だが、常に勝者になれるとは限らない。息子が認めていたのは、2つの仕事を掛け持ちしながら挑戦を続ける母の努力だった。勝てなかったからといって、その積み重ねの価値までなくなるわけではない。勝利を目指しながらも、勝敗だけで自分の努力の価値を決めなくていい。
■ワンポイント大会用語
APF(エーピーエフ):Asia Physique Federationの略。フィジークやモデル系の部門などを設けたボディコンテストを開催する団体。
レジーナクラス:フィットネスウェアとヒールを着用し、身体の引き締まりや全身のバランス、ステージでの見せ方などを総合的に評価する女性向け部門。
エリート:APFの一部の部門に設けられた年齢別クラス。対象年齢は部門によって異なり、本記事のレジーナクラスでは40歳以上が対象。
APFのアンチ・ドーピングについて
APFは、競技の公正性と選手の健康保護を目的とするアンチ・ドーピング方針を公表している。公式案内では、競技会での検査や、違反者への出場停止等の措置について説明している。
取材・文:久米大郎 撮影:高坂裕希
数学書の編集者、フィットネスライター。都内の出版社に勤務する傍ら、自らもボディビル競技に取り組む。2024年マッスルゲート埼玉大会ボディビル65kg以下級3位、2025年東京ノービスボディビル選手権大会男子ボディビル55kg以下級2位。筋トレ情報サイト「FITNESS LOVE」では、競技者としての経験と編集者の視点を生かし、選手の挑戦や身体づくりの工夫を伝えている。徳島県徳島市出身、神奈川県大和市在住。











