パワーリフティングの記録向上において、効率的なフォームの習得と神経系の適応を促す「高頻度トレーニング」。本記事では、BIG3の種目特性に合わせた頻度の決め方や、メイン日・サブ日を使い分ける週5日の具体的なプログラム例、RPEを活用した疲労管理のコツまで詳しく解説。「高頻度=毎回限界まで追い込む」のではなく、質の高い反復を重ねて重量更新を目指すための実践ノウハウをお届けする。
取材・文:池田光咲 写真提供:牛山恭太 Web構成:中村聡美

記録向上には高頻度練習反復が動作の習熟に⁉
皆さんは『高頻度トレーニング』と聞くと、週何回ほどの練習をイメージするでしょうか。明確な基準があるわけではありませんが、私は同じ種目を週3回以上行えば、高頻度トレーニングの部類に入ると考えています。ただし、BIG3全てを同じ頻度で行う必要はありません。例えば私はスクワットを週2回、ベンチプレスを週4回、デッドリフトを週2回の頻度で行っています。BIG3の中でも頻度を高めやすいのがベンチプレスです。『エブリベンチ』という言葉があるように、人によっては週5~6回取り組むこともあるのがベンチプレスです。一方、スクワットやデッドリフトは、背骨に対して圧のかかる種目です。背骨を安定させる腰周りの筋肉などにも疲労が蓄積しやすいため、ベンチプレスほど頻度は高めにくい種目となっています。つまり、高頻度トレーニングを実践する上では、全ての種目の回数を一律に増やすのではなく、それぞれの種目特性に合わせて頻度を考えることが大切なのです。
では、なぜパワーリフターやBIG3の重量を求めるトレーニーに高頻度トレーニングをおすすめするのか。大きな理由は、筋肉を成長させることだけがパワーリフティングの目的ではないからです。筋肉を大きくするだけであれば、1回のトレーニングで十分な刺激を与え、しっかりと休養を取る方法でも成長は狙えます。しかし、重量を伸ばすには筋肉の適応だけでなく、神経系の適応や技術の習得も欠かせません。同じ動作を何度も繰り返せば、脳から筋肉への指令がよりスムーズになり、少ない力で大きな力を発揮するための効率的なフォームも身に付きやすくなります。考えなくても自然と最適な動きができる状態をつくる。そのためには、反復する機会が多い方が有利となるのです。
現在はトップ選手や専門家の情報にも触れやすく、ある程度正解に近い方針を知った上での練習が可能です。その状態で反復練習を重ねることができれば、フォーム習得の上で高頻度トレーニングには大きなメリットとなり得ます。もちろん、低頻度が悪いわけではありません。1回の刺激を強くし、休養を十分に取る方法は、筋肉をしっかり成長させたい場合には有効だと感じています。実際に週1回の胸トレーニングで強烈な刺激を与えている方が、胸全体が発達している感覚がありました。高頻度ではBIG3に時間を取られ、肩や腕など細かな部位まで手が回りにくいこともあります。また、すでにフォームが成熟しており、セッションの質を高くできる選手であれば、スクワットやデッドリフトを週1回にしても伸ばすことは可能でしょう。骨格やフォームによって疲労の出方も違います。「高頻度が絶対的な正解」と決めつけるのではなく、自分の目的や身体に合わせて使い分ける意識を忘れないでください。
ココがポイント

メインとサブを明確に週5日の高頻度プログラム
ここからは、BIG3を伸ばしたい方に向けて、具体的な高頻度プログラムを考えてみましょう。今回は週5日。月・火・水・金・土に練習をすると仮定します。まず月曜日はスクワットがメイン日。火曜日はベンチプレスのメインとデッドリフトのサブ。水曜日はベンチプレスとスクワットのサブ。金曜日はデッドリフトのメイン。土曜日はベンチプレスのサブという配置です。これでスクワット週2回、ベンチプレス週3回、デッドリフトが週2回となります。
高頻度トレーニングで大切なのは、毎回同じ種目を同じ強度で行わないことです。各種目、メインの日を設定し、他の日はバリエーション種目を使って動作学習や弱点にアプローチをします。
例えばスクワットのメイン日には、余力を残した重めの1回を挙げ、その後は5回×3セットの練習につなげます。最初から限界まで追い込むのではなく、4週間程度のスパンで徐々に重量を伸ばし、4週目にギリギリ挙げられる重量設定をするイメージで組み立てると良いでしょう。サブの日はテンポスクワットを5回×3セット。重量は1RM60~70%程度の強度で十分です。ゆっくりとしゃがむことで軌道や姿勢を確認しながら、メインとは異なる刺激を入れられます。ただし、ボトムが安定しない方はポーズスクワット、前傾が強くなりやすい方はハイバースクワットなど、バリエーションは自分の弱点に合わせて変えてください。
ベンチプレスも火曜日をメインとし、余力を残した重めの1回を挙げた後に5回×4~5セット。サブの日はナローベンチを8レップ×3セットとして上腕三頭筋の関与を増やしつつ、別の日にはテンポベンチプレスを3回×5セット行ってみましょう。週3回全て同じベンチプレスを繰り返すのではなく、動作に変化を加えながらベンチプレスそのものの習熟度を高めていくのが狙いです。
デッドリフトのメイン日は、重めの1回から3回×5セット。サブの日は1RM50~60%の強度でテンポデッドリフトを3回×4セット行います。デッドリフトは特に疲労がたまりやすいので、2日とも重くする必要はありません。浮かし始めが苦手ならテンポデッドリフトやハルティングデッドリフト(※)を取り入れるなど、課題に合わせた種目選択をしましょう。
※バーベルを床から膝の上(トップポジション)まで引き上げて一時停止し、そこからコントロールしながら床に戻すデッドリフトのバリエーション種目

補助種目は弱点だけでなく身体を整える視点で選ぼう
BIG3以外の補助種目には、大きく2つの役割があると考えています。1つ目は弱点となる筋肉を強化すること。2つ目は、身体の機能やバランスを良い状態に保つことです。例えば今回のプログラムであれば、月曜日はスクワットに加えてハックスクワットとチンニング。火曜日はオーバーヘッドプレスを加えます。水曜日はロウイング系種目、金曜日はブルガリアンスクワットとレッグカール、土曜日はアブローラーとダンベルプルオーバーを組み合わせるイメージです。補助種目は基本的に8~10回×3セット程度で考えると良いでしょう。
パワーリフティングでは両脚で踏ん張る動作が中心ですが、ブルガリアンスクワットのような片脚種目を入れることで左右差や片脚での安定性を確認できます。ベンチプレスでは押す動作が多くなるため、チンニングなど引く動作を入れれば、拮抗する筋群にも刺激を与えられます。肩甲骨をさまざまな方向へ動かす種目を取り入れることも、ベンチプレスを良い状態で続けるためには大切です。つまり、補助種目は単に筋肉を大きくするためだけのものではありません。「どこが弱いのか」、「どんな動きが苦手なのか」、「良いコンディションを保つためには何が必要なのか」を考え、その答えになる種目を選択してください。
高頻度=毎回追い込むはNG
軽い日も立派な練習に
高頻度トレーニングを成功させる上で、最後に絶対に押さえてほしいのが疲労管理です。特に重要なのがRPE(自覚的運動強度)を適切に使い、強度をコントロールすること。毎回RPE9~10のような限界に近い重量を扱っていれば、スクワットやデッドリフトでは特に疲労が蓄積してしまいます。高頻度だからこそ、計画的に余力を残すことは疲労管理につながる大切なアクション。重量を上げるときも、回数やセット数をずっと同じにする必要はありません。重量が上がるにつれてセット数を減らすだけでも、翌日や翌週に残る疲労は大きく変わります。ボリュームを微調整し、目標とする大会や記録挑戦の日から逆算してピークをつくっていきましょう。睡眠時間の確保、食事、湯船に浸かるといった基本的な生活習慣も重要です。また、普段より安静時心拍数が明らかに高い、日中の倦怠感が強い、いつもはあるはずのトレーニングへのモチベーションが上がらないといった変化も、疲労がたまっているサインになります。普段の自分の状態を把握しておくことも疲労管理の一部です。
これから高頻度トレーニングを始める方には、いきなり現在のメニューを週3回、4回と繰り返すことはおすすめしません。まずは『軽い日』を1日増やしてみてください。例えばベンチプレスを週1回から、普段の半分程度の重量で動作を練習する日をもう1日つくる。それだけでも十分に高頻度化への第一歩となります。
まずは無理なく反復を増やしてみましょう。軽い重量を扱う日は、重量を伸ばすためのトレーニングではないと感じるかもしれませんが、その動作を繰り返し、身体に覚え込ませること自体が立派なトレーニングです。慣れてきたら少しずつ重量アップやバリエーション種目の追加を目指す。そうして週2~3回触ることが当たり前になれば、BIG3を練習する機会は大きく増えます。高頻度とは、毎回重い重量を持つことでも、毎回限界まで追い込むことでもありません。メインとサブを使い分け、疲労をコントロールしながら質の高い反復を積み重ねる。その先に、BIG3を伸ばすための技術と身体がつくられていくのです。
ココがポイント


※補助種目は原則として10レップ×3セット。
※「%」は1RMに対する割合として表記。
うしやま・きょうた
1997年8月10日生まれ。北海道音更町出身。身長168㎝。パワーリフティングノーギア66㎏級日本記録保持者。パワーリフティングを広めるべくYouTubeチャンネル「パワーチューブ」を開設。公式記録(ノーギア):スクワット247.5㎏、ベンチプレス177.5㎏、デッドリフト300㎏、トータル725㎏。
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