「心身一如(しんしんいちにょ)」(あるいは「身心一如」)という言葉がある。仏教哲学や東洋医学などで広く用いられる表現で、「心と身体は切り離すことができない」「精神と肉体はつながっている」といった考え方だ。心を整え、身体を整える。その概念はスポーツの現場でも活用されることがあり、肉体美を競うボディビル競技も例外ではない。
昨年、それまで4度の優勝を飾っていた澤田めぐみ選手を抑えて日本女子フィジーク選手権初制覇。荻島順子(おぎしま・じゅんこ/56)選手は、デビュー3年目にして女子フィジークの頂点に立った。さらに今年7月にはアジア選手権でも優勝。競技歴4年目となる今シーズン、荻島選手に期待されたのは、もちろん日本選手権の2連覇である。
しかし、その前哨戦ともいうべき日本クラス別選手権試合。9月に開催されたこの階級別日本一決定戦では、優勝こそ果たしたものの、日本選手権に向けての確かな手応えは掴めずにいた。
「自分の中にすごく迷いがありました。日本クラス別選手権では、その迷いが身体やポージングに出てしまっていたような気がします」
その迷いの正体とは何なのか。チャンピオンベルトは獲るよりも守るほうが難しい、とよく言われる。これが王者の重圧というやつなのか。
「私の中では2連覇にはこだわっていませんでした。だから、プレッシャーは感じていないと思っていたのですが、大会が近づくにつれて、得体の知れない何かが襲ってくるような……。自分が自分でいられないような感覚に陥ってしまったんです」
このままではいけない。危機を察知した荻島選手は疲弊した心を解きほぐすため、4年前の心境に立ち返った。
「去年と同じ身体ではいけない、身体を進化させなくてはいけないと、自分で勝手にプレッシャーをかけていた部分があったと思います。そうではなく、そもそも私はなぜこの競技をやっているのか。その答えは、楽しいからやっているんです。日本選手権の舞台には、この楽しい気持ちを表現するために上がろうと。そう思ったら、すごく気持ちが吹っ切れました」
10月6日に大阪で開催された日本選手権大会。そこには「不思議なほどリラックスでき、楽しむことができました」という荻島選手の姿があった。心を整え、身体を整えると、2連覇という結果が自然とついてきた。次なるステージは、12月に東京で開催のIFBB世界女子選手権大会。日本の絶対女王として世界戦に挑む。
「この世界選手権は、(女子フィジークという)素晴らしい競技をより多くの方々に知っていただくチャンスだと思います。日本の女子フィジークを盛り上げるためにも、いい色のメダルを目指してがんばります」
【JBBFアンチドーピング活動】JBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)はJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)と連携してドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト団体で、JBBFに選手登録をする人はアンチドーピンク講習会を受講する義務があり、指名された場合にドーピング検査を受けなければならない。また、2023年からは、より多くの選手を検査するため連盟主導で簡易ドーピング検査を実施している。
取材:藤本かずまさ 撮影:中島康介