じつは我が国には80歳以上のボディビルダーが10人以上も存在する。この「10人以上」というのは、ジム通いを日課にしてトレーニングに励んでいる人の数ではない。選手として、ボディビルの選手権試合に出場している人の数である。
【写真】金澤利翼選手の「88歳とは思えない」鍛え上げられた筋肉
去る9月15日、ボディビルの年齢別のナンバーワンを決める「日本マスターズ選手権大会」が福岡県・北九州市北で開催された。40歳以上の選手たちが各階級に分かれて日本一を争うこの大会。世界選手権大会では60歳以上級が最年長クラスとなるが、日本には「長寿大国ニッポン」を象徴するかのごとく70歳以上級、75歳以上級、80歳以上級、さらには85歳以上級といった階級も存在する。今年の80歳以上級には8名、85歳以上級には3名の選手がエントリー。数年後には75歳以上級の選手が80歳以上級に、80歳以上級の選手が85歳以上級に階級を上げてくる。このままいけば、もしかしたら近い将来「90歳以上級」が新設されることになるのかもしれない。
「これで通算17回目の優勝です」
試合直後のバックステージでそう顔をほころばせたのは85歳以上級を制した金澤利翼(かなざわ・としすけ/88)選手だ。玄米に納豆、味噌汁というシンプルな食事と日々のトレーニングで筋肉を磨き続けるボディビル界の鉄人は、これで同階級2連覇を達成。しかし、直後にはその口から意外な言葉が飛び出した。
「20回まで優勝するのが目標です。しかし、それ以上(ボディビル競技を)続けると、絶対に身体にシワができてくると思います。90歳になったら、引退します」
なんと、突然の引退宣言! 鉄人にもいよいよ限界が訪れたのか……と思いきや、金澤選手の視線は「90歳」のさらにその先にある、壮大な目標に向けられていた。
「質素な食事と運動を続けて、『130歳』を目指します。130歳まで生きるのは、不可能なことだとは思います。ですが、ボディビルの経験を生かして努力をすれば、それは可能かもしれません。実現したら、それはボディビルの発展にもつながります。ボディビル界の鉄人から、世界一の長寿者へ。それを成し遂げたいんです」
生きるとは絶えず挑戦すること、と語ったのは作家の故・瀬戸内寂聴である。「人生100年時代」という言葉が聞かれるようになって久しいが、その挑戦は「100年」では収まり切らない。90歳での現役引退後も、金澤選手のチャレンジは続く。
「人生は一度切りです。(英語で)Nobody has done before. 誰もやったことがないことをやり遂げる。これが私の使命です。あと40年、頑張ります!」
【JBBFアンチドーピング活動】JBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)はJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)と連携してドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト団体で、JBBFに選手登録をする人はアンチドーピンク講習会を受講する義務があり、指名された場合にドーピング検査を受けなければならない。また、2023年からは、より多くの選手を検査するため連盟主導で簡易ドーピング検査を実施している。
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取材:藤本かずまさ 撮影:中島康介