「僕は、ボディビルダーとしては完璧には程遠いです。優勝の寺山(諒)選手はボディビルダーとしての完成度が高く、身体も大きかった。来シーズンに向けて僕が勝つためにできることは、もっともっと大きくなること。(寺山選手の)完璧さをブチ抜くレベルで大きくなりたいです。今後も死ぬ気でトレーニングに打ち込みます」
扇谷開登(おおぎたに・かいと/28)選手は、2位のメダルを首にかけ、バックステージでとめどない涙を流しながら、来シーズンへの熱意を語った。
10月19日(日)埼玉県・ウェスタ川越にて開催された『第3回ジュラシックカップ』(※1)にて、優勝候補筆頭とされていた扇谷選手を寺山諒選手が破った。
扇谷選手は、今年の『ミスター日本』(日本男子ボディビル選手権の優勝者に送られる称号)であり、ボディビル歴2年目という競技歴の浅さで頂点に君臨。破った寺山選手は、日本選手権では4位であった。
審査員票は予選審査(選手を並べての規定ポーズでの比較)まで、扇谷選手が寺山選手をリード。決勝審査(選手が単独で行うフリーポーズ)での逆転劇となった。奇しくも、今年の日本選手権で刈川啓志郎選手(2位)を逆転したときと同じく決勝審査での敗退であった。
「日本選手権のときより、身体のコンディションはいいように感じたから(ジュラシックカップでも)1位を絶対に獲れると思ったけど、難しいですね。ボディビルダーとして負けたんだろうなと思いました」
一般的にボディビルは「デカい人が勝つ」と認識されているが、実は多角的な審査基準がある。筋肉量の多さは大前提とした上で、弱点となる部位の少なさ、脂肪を極限まで薄くすることで現れる筋肉の張りや鮮明さ、筋肉を最も強く美しく見せるポージングの完成度など、多くの要素が求められる。そのため上位戦になればなるほど、わずかな「隙」で順位が変動する。
ジュラシックカップでは、『ザ・ボディビルダー』と呼ばれトータルパッケージに定評のある寺山選手がさらにコンディションを上げたことにより、明暗が逆転した形となったようだ。
「ボディビルダーとして求められる完成度を上げることも取り組んではいくけど、俺はやっぱり『デカくて強い漢』としてボディビルダーに勝ちたいんですよね」
『デカくて強い漢になる』という目標は、扇谷選手がトレーニングを始めた当初から持ち続けている信念だ。競技を始めてからも、ひたすらに己の信念に従って鍛え続けた肉体をさらに鍛え上げて勝つ。『並ぶ選手が絶望するほどデカくなること』が、やはり扇谷選手のボディビルであるようだ。
扇谷選手は、大会後に自身のYouTubeチャンネルの動画で、寺山選手に向けて「待っとれ、寺山」(※2)と宣戦布告を行った。
今回の敗退は、さらなる大きな漢になるために必要な試練だったのかもしれない。
(※1)ジュラシックカップはレジェンドボディビルダーの木澤大祐氏と合戸孝二氏が主催し、アンチドーピングの啓蒙、賞金による競技と生活の両立、ボディビルの一般認知推進を掲げる。
(※2)この台詞は、2001年から日本選手権を4連覇した田代誠選手に向けて、廣田俊彦選手が「待っとれ、田代」と言いながらトレーニングに励む様子のオマージュ。ボディビル競技者の間でミームとして定着している。
取材・文:にしかわ花 撮影:中原義史
執筆者:にしかわ花
『IRONMAN』『FITNESS LOVE』『月刊ボディビルディング』『Womans'SHAPE』寄稿。広告・コピーライティング・SNS運用。ジュラシックアカデミーとエクサイズでボディメイクに奮闘している。