「成人式で友人に『冬眠し損ねた熊かと思った』って言われたんです。でも、それがめっちゃうれしかったです」
笑いながらそう語るのは、10月5日(日)大浜海水浴場で行われた『POWER BUILDING CLASSIC(パワービルディング) in AWAJI 2025』(以下PBC)のジュニアの部で優勝し、168cm以下級でも2位を獲得した増谷忠之(ますや・ただゆき/20)さんだ。今大会ではフィットネス競技(メンズフィジーク)とパワーリフティング競技(デッドリフト)の合計順位が競われた。
【写真】235kgのバーベルを引き上げる増谷忠之さんのフィジーク
増谷さんは、大学に通いながら筋肉と真剣に向き合った日々を送っている。
サッカー部の“ベンチプレス勝負”がすべての始まり
「最初はまさか自分がボディメイクの世界に入るなんて思っていませんでした」
増谷さんが筋トレに出会ったのは、高校サッカー部の冬の練習だった。
「そのころ、怪我人が多くて練習が思うようにできなかったんです。そこで顧問の先生がどこからかベンチプレス台を引っ張り出してきて、『春先にするベンチプレスの計測で1位を取ったらレギュラー確定にする!』と言ったんですよ」
サッカーの実力ではレギュラー入りが難しかったという増谷さんにとって、それはまさにチャンスだった。「絶対に1位を取りたい」と、冬の間ひたすらベンチプレスをやり込み、春の計測で100kgを挙げて堂々の1位となった。
「その瞬間、『努力は裏切らない!』って本気で思いました。この成功体験が、今の自分をつくった原点です」
“熊かと思った”──成人式で言われた言葉が最高の褒め言葉に
大学に進学してからもジム通いを続け、フィジーク競技に挑戦。これまで『マッスルゲート』『ゴールドジムジャパンカップ』などに出場し、トレーニング歴は4年になる。地元・北海道に帰省した際には、身体の変化に驚く声もあがった。
「成人式で友人に『冬眠し損ねた熊かと思った』って言われたんです。でも、それがめっちゃうれしかったです。『駆除されなくてよかった』って答えました(笑)」
筋肉がつくだけでなく、見た目も印象も一変。その変化こそが、努力の証だった。ボディコンテストに出ようと思った理由を伺った。
「人前で成果を見せる機会があると成長が早いと思ったんです。締切があるからこそ、本気で追い込める。だからボディコンテストは自分にとって最高のモチベーションですね」
結果的に、今回の『PBC』ではジュニアの部で1位、168cm以下級で2位。その両方でステージに立ち、パワーリフティング競技であるデッドリフトでも235kgの高重量を持ち挙げて会場を沸かせた。
「観客のみなさんが『頑張れ!』って一体になって応援してくれて。あの瞬間、いつも以上の力が出ました。会場の雰囲気が最高で、終わったあとまた出たいって心から思いました」
学業と筋トレの両立。朝トレで“脳のスイッチ”を入れる
大学生活とトレーニングの両立については、明確なルールを持っている。
「朝早く起きて、授業の前にトレーニングをしています。身体を動かすと頭がスッキリするので、その後の授業も集中できます。逆に夕方の授業は眠くなるので、最初から履修しません(笑)」
一日のスタートを筋トレで切る。それが、学業にも良い影響を与えているようだ。
「最初から週に1日は休むと決めるのではなく、基本的に毎日やる前提で、どうしても行けない日をオフにしています。やるのが当たり前にしておくと、継続しやすいんです」
食事管理は『高タンパク・低脂質』と基本に忠実だという。
「平日はクリーンに、週末はご褒美的に好きなものを食べます。減量中のメニューは、米かパスタと鶏胸肉が中心で、食材は業務スーパーでまとめ買いしています。パスタはGI値が低くて味変もしやすいので便利ですね。鶏胸肉とパスタの組み合わせはコスパも最強だと思っています。あと減量中は魚をよく食べます。サバを1尾そのまま焼いて食べるのが定番です」
「熊かと思った」と言われるほどに身体を変化させた増谷さんだが、一番成長を感じたのはトレーニング方法を変えたときだったという。
「横川尚隆さんの動画で『ドロップセット(使用重量を落としていく方法)』について話していたんです。その動画を見てから、一気に身体が変わった気がします。1回のトレーニングで5種目を行い、そのうち4種目はドロップセットです。例えば1セットで100㎏、80kg、60kgみたいに、ウエイトを下げながら限界まで追い込みます。最初の1種目は重めでやって、あとはボリューム重視。このやり方が自分にはすごく合っていました」
増谷さんにとって筋トレは、ただの趣味ではなく探究の対象のようだ。
「どれだけやっても、新しい理論や方法が次々に出てくる。それが筋トレの一番の魅力です。知れば知るほど奥が深い。それに、筋トレを通して出会える人も多い。このコミュニティの一体感が好きなんです。一人ひとり、目指す身体や目標は違うけど、筋線維でつながってる仲間だと思っています。だから一緒に頑張りましょう!」
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取材・文:柳瀬康宏 写真提供:POWER BUILDING CLASSIC運営
執筆者:柳瀬康宏
『IRONMAN』『月刊ボディビルディング』『FITNESS LOVE』などを中心に取材・執筆。保有資格:NSCA-CPT,NSCA-CSCS,NASM-CES,BESJピラティスマット。メディカルフィットネスジムでトレーナーとして活動。2019年よりJBBF、マッスルゲート、サマースタイルアワードなどのボディコンテストに挑戦中。