1月に兵庫県・明石で開催された、女性限定のパワーリフティングイベント『第4回ストロングガールズ』。中でもとびきりの笑顔をたくさん見せてくれたのは、清水梨江(しみず・りえ/37)さんだった。
“ゆるふわ”な雰囲気を醸し出しながら力強い試技を見せ、スクワット125kg・ ベンチプレス52.5kg・デッドリフト115kgのトータル292.5kgを記録。
「コロナ禍で20kg太ってしまったのがきっかけで筋トレを始めた」と話す清水さんは、パワーリフティングを通して、大きく変化した意識があるという。
【写真】トータル292.5kgを挙げる、ゆるふわリフター・清水梨江さん
「パワーの素質がある」という言葉から
一人で洋菓子店を営む清水さん。コロナ禍で心身ともに疲労が溜まり、気づけば体重は20kg増えてしまっていた。「健康面で問題が生じるかもしれない」とダイエットを決意しジムへ入会。最初はダイエットプログラムとして全身の有酸素運動や、軽い重量で回数を多くこなすマシン種目を行なっていた。
しかし徐々に、ある疑問を抱くようになったという。
「長すぎる停滞期が訪れたんです。さらに当時週5、6日ジムに通っていたのですが、筋肉痛というものがほとんどなかったんですね。これは筋肉に刺激が足りないんじゃないかと思って、重量を上げてみたんです」
すると、自分が想像していた以上に重たいものを挙げられることに気づいた清水さん。ジムの会員さんの中にはパワーリフティングをしていた方がいて、先輩から「パワーに向いていると思う」という言葉も後押ししてくれた。
BIG3のフォームや基礎的な取り組みなどは先輩から教わるように。複数人でグループトレーニングを行い、「4時間ぐらいジムにいましたね」と清水さんは笑う。
「ダイエットプログラムに取り組んでいたとき、痩せたらいいなっていう割とふんわりした気持ちだったんですよ」と清水さん。だがパワーリフティングの練習を始めてから、自分のベスト記録を更新していくという明確な目標に変わったことで、気持ちが引き締まるような感覚になった。すると、それに呼応するように身体も引き締まっていったのだという。
「目標の重量を達成したときの喜びもありますし、ジムの皆さんの向上心につられて、自分もピリッと背筋が伸びるような気持ちになれたんです。これはダイエットプログラムでは得られない感覚でした」
ジム通いを始めて変わったこと
ジムに通う前はマイペースにスケジュールを組んで仕事していたような気がする、と清水さんは当時を振り返った。自営業であるがゆえに時間の使い方は自由だ。そのため「睡眠時間を削れば仕事ができる」という考えがあり、本当は30分でできる作業を1時間ほどかけてやっていた日もあったとか。
「今は19時にはジムに行くと決めているので逆算して仕事ができるようになりました。自分の時間って有限だから、決めた目標をやり続けていく意識になったんです」
繁忙期は全くジムに行けない期間もあるが、それでも「続けることに意味がある」と清水さん。運動とは無縁の人生から一変し、トレーニング歴が1年にも満たない中でトータル292.5kgが記録できたのは「周りの環境と志のおかげ」だと話す。
「パティシエという職業上、腕や肩の筋肉が発達していました。今まではコンプレックスだったのですが、これはお客様に育ててもらった筋肉。周りの支えと自分の意志があれば限られた時間でも、身体や意識が変われることを実感しました。これからも、誰かの背中を押すきっかけになれるよう感謝しながらパワーを続けていきたいです」
次ページ:トータル292.5kgを挙げる、ゆるふわリフター・清水梨江さん
取材・文:小笠拡子 撮影:岡 暁