読者アンケートでは、多くのトレーニーが正しく行えていないと自覚する種目が明らかになった。一方で、得票数が少ない種目もあった。しかし、本当にそれらの種目を正しく行えているのだろうか。ゴールドジムアドバンストレーナーである相澤隼人選手(※)と加藤直之選手が、トレーニーが見落としがちな種目の盲点を鋭く指摘。身体の使い方や動作の前提から見直すことで、効果が劇的に変わる。
※現在はゴールドジムアドバンストレーナーとしての活動を休止している。
取材・文:舟橋位於 撮影:岡部みつる、舟橋 賢 Web構成:中村聡美
- 相澤隼人 2021〜2023年日本男子ボディビル選手権優勝
- 加藤直之 2024年ワールドカップ70㎏級優勝
チンニング&ラットプルダウン
一般レベルではできると思っていても、プロの視点ではできてないということは何事でもよくある。そして、それはトレーニングについても言えることだろう。ゴールドジムアドバンストレーナーである相澤選手と加藤選手に、読者アンケートの結果を伏せた状態で、誤りが見られがちな種目を挙げてもらった。
ベントオーバーロウイングは、アンケートで19・4%の人が分からないと答えており、プロと感覚が一致していた。しかしながら、チンニング(8・7%)、フロント・ラットプルダウン(5・1%)、ビハインドネック・ラットプルダウン(10・2%)と、上から引く種目に関しては相違が見られた。

「王道なのですが、腕で引いてしまっている方が非常に多いのかなという印象ですね」(加藤)

“ラットプルダウンは腕で引いてしまっている方が非常に多いのかなという印象です”──加藤直之
腕メインの動作でも確かに背中に刺激は入る。そのため、正しくできていると感じるトレーニーは多いかもしれない。しかし、背中の動かし方を改めて考えることで、効果をもっと高める余地があるとも言えるのではなかろうか。

「広背筋で受けている状態で、いかに伸び縮みさせるかが大事になってきます」(加藤)

「腕の骨の動きと合わせて、肩甲骨がうまくスライドしないことも自分は目にします」(相澤)
ありがちなのは、とにかくウエイトを挙げよう(引こう)としてしまうことだ。ラットプルダウンならば、バーを胸まで引くことしか考えないのが一例である。しかしこれでは、肩甲骨が動かずに肩の位置が高いまま動作することになり、広背筋よりも大円筋や後部三角筋を刺激してしまう。

「トレーニングの前段階として、肩甲骨が正しく動くかどうかや、背骨の柔らかさがあるかどうかは確認したいです」(加藤)

「処方する人にもよりますが、まずは身体を動かせる状態を作っていくことが大切です」(相澤)
いきなりウエイトを持って動作するのではなく、自分は正しい動作ができるのかどうかを確認するようにしたい。そして、必要ならば動きの練習をしていくという流れが大事だと言えそうだ。
バーベルカール
続いて相澤選手からは、バーベルカールができていないとの声が挙がった。アンケートではEZバーが8・7%、ストレートバーが8・2%であり、苦手と答えるトレーニーは少なかった種目である。肘を曲げ伸ばしする単純な動きの種目であるが、プロはどのあたりを難しいと捉えているのだろうか。

「バーベルカールのみならず、広く上腕二頭筋の種目に言えるのは、肩甲骨を固定端にできていないことです」(相澤)

“広く上腕二頭筋の種目に言えるのは、肩甲骨を固定端にできていないことです”──相澤隼人

「私の場合は、バーベルの握り方や肘が適度に動く状態であるかにも注目しています」(加藤)
上腕二頭筋は、肩甲骨に起始部があり、前腕に停止部がある筋肉だ。筋肉は一般的に、起始部か停止部のどちらかが固定されていないと、うまく収縮することができない。上腕二頭筋の場合ならば、肩甲骨が安定せずにガタガタの状態だと、肘を曲げても適切な収縮が得られないことになる。

「伸ばしていく際も同様で、肩甲骨を安定できずに一緒に動いてしまうと、当然うまく伸長させることはできないです」(相澤)
筋肉の固定端について正しく理解して実践できていないと、見かけ上は動作できていても、トレーニング効果は不十分ということになりかねないようだ。
アップライトロウ

「上腕骨が上がってくるという動きの性質上、肩のインピンジメントが怖い種目です。特に、ナローグリップで肘が高く上がる場合は気をつけたいです」(加藤)
相澤選手から難しい種目との声が挙がったアップライトロウに関しては、加藤選手も同様に難しいと感じているようである。
ある程度の重量が使えて、三角筋側部への刺激も強い種目だが、負荷が分散しやすい側面もある。怪我のないように動作し、的確に刺激を得るためにはどのような点に注意すれば良いのだろうか。

「まずは手幅です。手幅が狭すぎると手首への負担が増えますし、挙上の際に肩甲骨も窮屈になりやすいです」(相澤)
三角筋の側部に効かせるためには、サイドレイズのフィニッシュポジションから手幅を考えると良い。これについてはHowTo記事でも詳しく解説しているので参考にしてもらいたい。

「指導の際には、肘からウエイトを吊り下げた状態で、身体の近くを通って真っすぐ挙げるように解説します」(相澤)
スクワット
ここまでは上半身の種目だったが、ここで下半身にも目を向けてみよう。アドバンストレーナー2人からは、王道種目であるスクワットについて言及があった。

「スクワットのみならずBIG3に言えるのは、自分の骨格に適した動きができているのかどうかということです」(加藤)
まず基本として押さえたいのは、バーベルの軌道を垂直にすることだ。実際に加藤選手が指導する際も、バーベルの動きを意識しつつ、骨格が自然に動くかどうかを見ているとのことである。また、下半身の筋肉の柔軟性も大事なポイントだ。

「ハムストリングの柔軟性が足りず、アライメントが崩れてしまうケースも見られます。40代くらいの男性に特に多く、そういった場合はストレッチから行っていく必要があります」(加藤)
チンニング・ラットプルダウンのところでも指摘があったように、まずはトレーニングができる身体の状態を作っていくことが大事だと言えそうだ。
骨格については、相澤選手からも別の視点で意見があった。

「確かにスクワットにおいて骨格の影響は大きいです。ただ、それを理由にして片付けてしまいたくないと思っています」(相澤)
相澤選手が指摘する1つ目のポイントは、足関節の背屈である。足裏が地面にしっかりと着いた状態で、膝を前に出せるかどうかを確認したい。続いて2つ目に重要なのは股関節の屈曲だ。膝が前に出た分だけお尻を後ろに引かないといけないので、股関節が正しく折れるかどうかも大切になる。このような下半身のポイントに加え、体幹部に力が入れられるかや、肩周りが安定してバーベルを担げるかどうかといった上半身のポイントもある。

「スクワットのイメージがいくら頭にあっても、ここで挙げたようなポイントをクリアできないと、イメージ通りに身体を動かすのは難しいです」(相澤)
HowToでは、膝関節や股関節の誤りについても紹介している。自分のフォームと照らし合わせて、身体の問題点を探るきっかけにすると良いだろう。

「そして、さらに重視するのは股関節の動きです」(相澤)
膝関節は基本的には曲げ伸ばしだけの単純な構造である。それに対して、股関節は球関節であるため、より3次元的な動きをする。そのため、股関節がしっかり動かせるようになれば、いろいろな動きに適応することが可能になるというわけだ。自分がうまく股関節を動かせるかどうかは、ぜひ確認してもらいたい。
ハンマーストレングス
最後は、加藤選手から「誤って行いがちな種目」として名前の挙がったハンマーストレングスについて見ていきたい。

「ハンマーストレングスマシン全般に言えることですが、軌道が人間工学に基づいて作られているので、そこに合わせると筋肉へ刺激が的確にが入ります」(加藤)
ハンマーストレングスは、てこの原理を用いた「レバレッジマシン」だ。マシンの軌道に合わせると負荷が筋肉に乗るが、外れてしまうと効果が得られにくくなる。

「肘をきれいに引き込めていなくて、もったいないなと思うシーンはよくあります」(加藤)
このように加藤選手からは、マシンの特性を正しく理解することの重要性が指摘された。そして、相澤選手も同様の意見だった。

「フロントプルダウンで広背筋の下側を狙いたいとします。肘が肋骨の横を通って骨盤に近づくという動作をイメージし、それが実現できる椅子の高さを適切に調整しないといけません」(相澤)
自分の行いたい動作とマシンの位置関係を正しく理解しないと、不自然なトレーニングになってしまうということだ。

「それに加えて、重さのかかる向きと前腕の向きを揃えることが大切です。また、行いたい動きが自然にできるグリップを意識するようにもしたいです」(相澤)
この2点に関しても、HowToで解説している。ハンマーストレングス以外のマシンにも当てはまることが多いポイントなので、正しく行えているかチェックしてみよう。
種目ごとのHow to記事はこちら!!
■ラットプルダウン
https://www.fitnesslove.net/?p=137214&preview=true
■チンニング
https://www.fitnesslove.net/?p=137224&preview=true
■バーベルカール
https://www.fitnesslove.net/?p=137227&preview=true
■アップライトロウ
https://www.fitnesslove.net/?p=137229&preview=true
■スクワット
https://www.fitnesslove.net/?p=137232&preview=true
■ハンマーストレングス
https://www.fitnesslove.net/?p=137234&preview=true
あいざわ・はやと
1999年10月21日生まれ、神奈川県相模原市出身。身長164㎝。アイデンティティの筋肉を携えて唯一無二の俳優道を歩み出す。新規受付はストップしているが元ゴールドジムアドバンストレーナーでパーソナルトレーナー。JBBF(公益財団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)の審査員としても活動中。JBBF日本男子ボディビル選手権2021~2023年優勝。
かとう・なおゆき
1981年生まれ、埼玉県出身。身長161cm。オン70kg/オフ76kg。幼少期より体操競技に打ち込み、9歳から20歳までの11年間にわたり鍛え抜かれた身体感覚を土台に、22歳頃から本格的にトレーニングを開始。以降、ボディビルに情熱を注ぎ続けながら、2007年より子供体育スクールの責任者として指導に携わり、2015年よりゴールドジムに勤務。現在はアドバンストレーナーとして、トレーニングサポートにあたっている。2019年 JBBF日本男子ボディビル選手権3位。
「背中は特に誤りが見られがちだと思いますね。ベントオーバーロウイングは難しいですし、上から引くチンニング・ラットプルも誤りが多いです」(相澤)