ボディビルダーこそ、日頃のケアを見直そう!ということで、ボディビル元世界チャンピオンの鈴木雅氏と、主にアスリート中心の施術で世界的に活躍される河合智則先生のお2人に解説をお願いした。
セルフケアに必要な3要素を「知識編」「スクリーニング編」「実践編❶」「実践編❷」の4回に分けてお伝えしていく。
取材・文:舟橋位於 撮影:中原義史 撮影モデル:五味原領 Web構成:中村聡美
強く押さないことがポイント
「過活動や疲労によって、筋肉が固くなっていると感じることがあります。そのような場合に組織を緩めようとしてごりごり刺激するのは組織を痛め逆効果になる可能性があります。強圧刺激によって組織を痛めることにつながる他、痛みに慣れてしまって、過敏化した受容器の適正化という目的が果たせなくなることもあります」(河合)
腰へのアプローチ(後屈後に側屈)
やり方
片足を後方に引く
このとき、かかとは床につけるようにする一方の手で腰を押さえる
後方に倒れるようにして股関節を伸展させる
さらにそこから側屈の動作を加える
ポイント
押さえている手で皮膚を伸ばすようにする
腰へのアプローチ(直立のまま側屈)
やり方
片足を後ろに引く
このとき、かかとは床につけるようにする一方の手で腰を押さえる
押さえた手と反対の方向へ身体を倒す
腰へのアプローチ(かかとをブロックに乗せる)
やり方
足を前に出してブロックにかかとを乗せる
腰を中心に前に倒れるようにして股関節を屈曲させる
その状態のまま、つま先を内と外に動かす
ポイント
骨盤周囲の靭帯などにアプローチする
腰に当てた手は皮膚をストレッチする
横隔膜へのアプローチ
やり方
肋骨の下に指を入れ込む
そのまま身体を前に倒す
深呼吸する
ポイント
横隔膜の緊張緩和を狙う
下部僧帽筋へのアイソメトリックアプローチ
やり方
床にバンザイの姿勢でうつ伏せになる
胸椎伸展の動きで上体を持ち上げる
腕を床から離し、さらに大きく身体を反る
セルフケアで絶対に避けること
「絶対に強く押すな」(河合)
前提としてセルフマッサージは、自分の身体をマッサージしているという知覚(セルフアウェアネス)がある。これにより、可動性(自分の意識で動かせる範囲)がより向上するという特徴がある。
ところが、疲労によって組織の粘性が上がって固い状態になると、刺激への感覚が鈍りがちになる。そこで刺激を入れようとして強く押してしまうことが多いが、これは誤りである。
「スーパーで売られている肉を想像してください。垂直に強い力で押せば、線維はへこんで痛んでしまうはずです」(河合)
これと全く同じことがセルフケアにも当てはまる。強い力で押したばかりに筋肉が損傷すれば、それだけ回復にも改めて時間が必要となってしまう。大事なのは、やはりセルフアウェアネスである。自分の状態を正しく感じ取って、適切な処方を行うことが重要だ。
セルフケアでフリーウエイトの質を高める
「可動域が上がることがまず一つです。それから、上がった可動域の中でも重さを受けることができる安定感も手に入ります」(鈴木)
セルフケアを行うことで、対象筋で負荷を受ける感度が上がるようだ。また、コンパウンド種目を行う中で、狙う筋肉全体に刺激を行き渡らせることも可能になると言う。
「ベントオーバーロウイングなら、背中の側部だけでなく僧帽筋下部にも刺激が入ります。またブルガリアンスクワットも、殿筋の下部だけでなく殿筋全体を刺激できるようになりました」(鈴木)
繰り返しになるが、正しい可動域の中で安定感を得られるようになることが重要だ。セルフケアに呼吸や体幹のエクササイズを組み合わせることで、腹圧の意識や関節の安定が狙え、最終的により良いトレーニングを行えるようになるだろう。
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「解剖学はビジュアライズすることが大事です。私自身、授業で半年間検体と"にらめっこ"をして『どこにどの筋肉がありどう走行してどう付着しているか』が直ぐにイメージできるくらいに詰め込みました」(河合)
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Anne M. Gilroy(原著, 編集),Brian R.MacPherson(原著, 編集),⦆Jamie C.Wikenheiser(原著)
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すずき・まさし
1980年12月4日生まれ。福島県出身。株式会社THINK フィットネス勤務。ゴールドジム事業部、トレーニング研究所所長。2010~2018年日本選手権9連覇。2016年IFBB世界選手権ボディビル80kg以下級優勝。現在トレーナーとしては主にアスリートやボディビル競技者のトレーニング、栄養指導にあたる。他にもアスレティックトレーナーや理学療法士に対して身体の原理原則をいかにトレーニングに落とし込むかといった指導にも携わる。
かわい・とものり
愛知県出身、ドクターオブカイロプラクティック(専門職博士)、スポーツ健康科学博士号(学術)を取得。日本でのトレーナー活動の後、スポーツ医科学を追求すべく2005年渡米。カイロプラクティックドクター号(専門職博士)、スポーツ科学修士号を取得。アメリカにてアメリカ州立大学柔道チーム、総合格闘家、NFL、MLB選手などのサポートの他USLPGAツアー公認カイロプラクターとして活動。2011年帰国後プロ野球選手などトップアスリートを中心に臨床を行う。並行して筋膜(Fascia)とスポーツ障害の研究に従事し博士号を取得。ボディビルダーでは鈴木雅氏、相澤隼人氏、現役だと嶋田慶太選手、五味原領選手などの施術も行っている。現在シンガポールで起業し日本と往復生活。

























