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40代以降の減量は特に注意!? 岡部友が語る「ビフォーアフター」の落とし穴と本質的なゴールとは

一般的に「ビフォーアフター」というと減量をイメージする人が多いかもしれませんが、体重だけに注目するのはじつはとてもリスキー。パーソナルトレーナーの岡部友さんに「ビフォーアフター」という言葉・テーマがもつ潜在的な危険性について語っていただきました。

[初出:Woman'sSHAPE vol.30]

━━「2023年国民健康・栄養調査」(厚生労働省)によれば、日本の若年女性は痩せている傾向にあり20代女性は約5人に1人が「痩せ(BMI18・5未満)」に該当しているそうです。

岡部 まず「痩せることと女性らしい身体になることはまったく別物」という大前提が腹落ちしていないと、ずっと体重にしばられてしまうでしょうね。「痩せたらキレイになれる」「痩せればすべてが解決する」っていう幻想を捨てないと。体重は毎日自分で計れるから、いちばんわかりやすい目安になっているのも数字にハマってしまう理由のひとつかもしれません。

━━わかります……。個人的な話ですが、私も20代は体重を減らすことを目標にしていて。トレーニング+食事制限をして2〜3カ月で10㎏近く痩せました。周りからは「痩せたね!」って言われて嬉しいし達成感はあったんですが、振り返ってみればその達成感は〝3カ月の我慢を耐え抜いたこと〞に対しての達成感だった気がします。案の定リバウンドしました(苦笑)。

岡部 若いときってそうですよね。「見た目と体重は関係ない」という正論を言われたところで納得できないというか。「せっかく痩せたのにリバウンドしてしまった……」って自己嫌悪に陥る女性、たくさん見てきましたよ。でもこういう失敗を自分で体験して初めて、正しい知識の重要性に気づいていくんです。ビフォーアフターのアフターをキープすることの難しさ、短期間で痩せることのリスクは、実体験してないと心の底から理解するのは難しい。

「アフター」をいかに健康的に維持するか

━━心も身体もいかにアフターを安定させるか、がカギですね。

岡部 はい。アフターは(健康的に)キープできてこそアフター。ビフォーアフターの写真で「マイナス○○㎏!」って比較された写真は、確かにインパクトは強いけれども、じゃあその人は半年後、1年後も健康的に同じ体型を継続できているでしょうか。追跡してみたら、おそらく大半はリバウンドしているはずです。そういう意味で、今回の「ビフォーアフター」というテーマは、じつはかなり気をつけなければいけないテーマだと思っています。

━━我慢してつくったアフターではなく、いつ撮られても「これが私です」と言える状態が本質的なアフターということですね。

岡部 そのとおりです。それは一種の「諦め」とも言えるかもしれませんが、自分の見た目も中身もちょっと気に入らないところはあるけれど、それも自分と思える。0か100かではなく、ありのままの自分も受け入れられるようになることが、ビフォーアフターの本質的なゴールで、私がみなさんと一緒に目指したいアフターはそこですね。

━━つまり、考え方を変えていくことですね。聞けば聞くほど時間がかかりそう。

岡部 でもそこがトレーナーの醍醐味なんですよ。トレーニングって身体の変化こそわかりやすいですが、じつはいちばん変化していくのってメンタルです。「痩せなきゃ」という思い込みは、自己肯定感の低さからきていることも多くて、そういうお客様が、少しずつ心も身体も変化して、ありのままを受け入れられるようになっていく過程をサポートできるのは、とても幸せなことだと思っています。とにかく、食事でも運動でも、変えた行動がストレスなく無意識的に〝日常になる〞までには相当の時間がかかるので、気長に考えてほしい。私のお客様たちを見ていてもそれは確かです。

「お尻を育てる」とは?変化してきたお客様の傾向

岡部 SPICEUPFITNESSは来年で設立10年になるんですが、最近は痩せている方が筋量を増やす目的でトレーニングしに来るようになってきています。薄く平らなお尻が丸く、分厚くなっていったビフォーアフターをインスタグラムにアップしていたんですが、その反響が大きくて。「育尻」というキャッチコピーで尻トレ強化キャンペーンも実施したんですが、すぐ定員が埋まってしまいました。

━━SPICEUPFITNESSは、オープン時からお尻のトレーニングに特化していることが売りでしたよね。原点回帰した、という感じですか。

岡部 まさに。10年やってきて自分も年齢を重ねていくなかで、どの年代の方が来てもいいように尿漏れ対策や呼吸法など、お尻以外のことも勉強してプログラムに反映させてきました。去年、ずっとサポートしてもらっているヒップトレーニングのスペシャリスト、アースローが開発した素晴らしいマシンが導入できたことで、いっそう尻トレの環境が整いました。そこで原点に帰ってみようとなりました。昔は太っている方が減量をメインにしつつ、ボディメイクの一環として尻トレを行うというパターンが多かったんですが、今はちょっと違いますね。筋肉を増やすことに対して、世間の感度が上がったように思います。

━━ちなみにマシンの進化はトレーニングにどんな変化をもたらしましたか。

岡部 初心者でもフォームが乱れにくく、結果が早く出るようになりました。昔はマシンを効果的に使えるようになるまでに、ある程度筋力が必要で、そこに至るまでの時間が必要だったのですが、いい意味でプロセスが短縮された感じです。これはかなり画期的で、素晴らしい進化ですね。

筋肉は1年に1%ずつ減少
40代以降の痩せるリスク

岡部 ビフォーアフターというと、どうしても減量に話がいってしまいますが、40代以降は体重を減らすことがどれだけ危険かということを知っておいてほしいですね。20〜30代でも減らしすぎはよくないですが、40代の減量はかなり慎重になったほうがいい。ここは啓蒙していかなきゃいけないところです。

━━どういうことでしょう。

岡部 40歳からは筋量が1年に1%ずつ減っていきます。かつ筋力は3%ずつ減ります。何もしなければ。70歳以上の2000人くらいのデータで、体力別に筋力の減り方を3年間追ったものがあるんですけど、3%ずつ減るなら3年間で9%でなければいけない。でも体力のある人(最大酸素摂取量が多い人)は3年で3%も減っていないのに対して、体力のない人では16%も減っているというデータでした。体力がないと感じる人は平均以上に減りますし、減り方が顕著だということもわかりました。40代で不必要に痩せようとしている人は今すぐやめてほしいですね。

━━体重が減るということは脂肪はもちろん、少なからず筋肉も減りますからね。

岡部 筋肉が減っていくと脳は「この人、筋肉いらないんだ」と判断して成長ホルモンの分泌を抑えようとします。だから若さを保ちたいならその逆をやらないと。40代以降は〝脳をだます作業〞がとても大事なんです。

━━いっぽうで年を重ねるほど太りやすく=痩せにくくなっていく、という悩みもあって、健康を考えるうえでも「痩せなければ」という課題があがってくるのも事実です。

岡部 女性ホルモンのエストロゲンはインスリンの分泌や感受性を高める働きがあり、エストロゲンが減少する更年期以降は、インスリンの効きが悪くなるので太りやすくなります。食生活が昔とそこまで変わらないのに、脂肪がつきやすくなってしまう理由のひとつはこれです。だから更年期以降は、糖質(糖分)の摂り方に気をつけないといけない。糖を脂肪としてため込まないようにするためには、運動を続けるのがいちばん!糖質は筋肉を動かすための主要なエネルギー源ですからね。

━━40代以降はますます体重ではなく、中身を見ることが重要ですね。

岡部 唐突ですが、イラストレーターのみうらじゅんさんが、ある人生相談で「人生において仕事は副業で、生活のほうが本業だ(意訳)」とおっしゃっていて。それを聞いて「運動」もまさに人間にとって本業だな、と。

━━食べる、寝ると同じくらい欠かせないもの、という意味ですか。

岡部 そう。現代人はそれを副業というかオプションみたいに扱っていますが、本来は、何かの目標のためにやるものじゃなくて、大げさに言えば「やらなきゃ死ぬ」レベルの行為。現代社会のようにオフィスワークが中心になる前は、肉体労働が基本でしたよね。私の祖父母くらいまでは今より家事も重労働だったし、不便だったし、生活していれば自然と身体を動かしていたと思うんです。現代でも農家とか建設現場とか肉体労働をされている方たちは、日常の動作が運動やトレーニングになっているはず。「ジムでつくった健康的な身体」なんて、せいぜいここ100年以内の話ですから。

━━現代は、本来から遠ざかった生き方をしているので、わざわざ運動する必要がでてきたと。意識的に「運動を取り戻す」必要がありますね。

岡部 そのとおりです。運動を特別なものと思わず、本来はやって当然のものという前提を忘れないでほしい。「ビフォー・アフター」という"点"で考えるのではなく、現代社会でできるだけ長く健康でいるためには一生続けてください!

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おかべ・とも
1985年12月6日生まれ、神奈川県出身。株式会社ヴィーナスジャパン代表取締役。分子整合栄養アドバイザー。高校卒業後、アメリカで運動生理学、解剖学を学び、フロリダ大学在学中に、プロアスリートに指導できるスポーツトレーナーが保持する資格NSCA-CSCSを取得。女性専門ジム「SPICE UP FITNESS」を東京、大阪、名古屋の5店舗で運営。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演し大きな反響を呼んだ。IG:@tomo_fitness

取材・文:宮部史  撮影:中原義史 写真提供:岡部友
Web構成:中村聡美

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