筋トレ ピラティス

怪我を乗り越え3連覇へ━━種目精度が劇的向上!相澤隼人が語るピラティスとの出会い

2023年日本選手権。この大会の時期は腰部や体幹のコアの部分に怪我があり、その改善としてピラティスを始めた

日本選手権3連覇相澤隼人さんがピラティスの概念に触れたのは2023年のこと。腰の怪我で「やりたい動きができない」ことが背景にあった。身体のためにピラティスを学び、インストラクター資格を取得。この学びを通して、どのような気づきや効果があったのだろう。

ピラティスを学んで生かされたこと

━━ピラティスの資格を持たれているそうですが、学ぶようになったきっかけを教えてください。

相澤 ピラティスに興味を持つようになったのは、鈴木雅さんの影響が大きかったです。時期としては2023年の日本選手権後でした。この時期は腰部や体幹のコアの部分に怪我があり、やりたい動きができず……。このままだといけないし、こういったことを雅さんに相談したらピラティスのような身体の動き方を学ぶものを通して、改善していきたいねという話になりました。
ピラティスの教室に通うという選択肢ではなく、団体にピラティスの概念を学びに行ったんです。4日間かけて歴史背景や意図、さらにはさまざまな種目を通して身体を動かす実技などを学びました。

2023年の日本選手権後にピラティスを始めた相澤さん。勧めたのは鏡に映っている鈴木雅さん

━━ピラティスを学び、取り入れたことで良かった点は?

相澤 ニュートラルや体幹の部分は学びが大きかったですね。言葉としてはよく聞く単語なのですが、この概念が自分の中でクリアではなくて。すごくモヤっとしていた部分の解像度が高くなりました。
動きでいうと、正直苦手なものもあって。特に自分は身体を丸める動きがすごく苦手で、逆に伸ばす動きが得意でした。最初は背骨を一つひとつ分節して丸まっていく動きが難しかったのですが、取り組んでいくと良くなっていく感覚はありましたね。
身体の機能的におおよそ正しいと言われる動きを学び、自分の身体が思った通りの動きを再現しやすくなりましたし、このポジションだと体幹が安定するといった感覚が養われたな、と。

━━ご自身のトレーニングに生かされた部分はありますか?

相澤 ベンチプレスやスクワットなど特定の種目が上手になったというよりは、末端を動かすトレーニングがより安定した動きでできるようになりました。
基本的にトレーニングでは、体幹が安定した状態で、腕や脚などの末端を動かします。コアが安定していると、末端の動きがより洗練されてくる、いい動かし方になってきます。

━━いい動かし方になると筋肉に対する刺激の入り方も変わる?

相澤 はい、あくまで自分の場合という限定的な話にはなりますが、変わりますね。必要以上に負荷が分散しなくなる、と言った方が分かりやすいかもしれません。
例えばベンチプレスやプッシュアップといった「押す」動き。多関節種目になるので肩や腕などいろいろな筋肉に負荷が分散してしまいがちなんですが、いい動きでできるようになれば、より対象筋に対する負荷量が強くなる感覚がありました。その効果で、種目の精度が高くなったかな、と。
注意してほしいのは、ピラティスの「特定の動き」によって、身体のある部位が筋肥大した、というわけではないこと。あくまで体幹がすごく安定するようになって、それが末端に生きているという感じです。

━━体幹を安定させる能力の向上によって、いろいろな恩恵がありそうです。

相澤 すべてのトレーニング種目において、安定と可動しかありません。身体のどこかが安定していて、どこかは可動している。ピラティスを続けていくうちに、どこかを安定させた状態で、どこかを動かす機能が向上しました。このように、身体を思い通りに動かせると望ましくない動きを防ぐことができる、つまり怪我のリスクを減らせる可能性が大きくなると思います。

ピラティスという選択の良さと気をつけること

━━ニュートラルや体幹に対する概念がクリアになったとおっしゃっていました。その部分を深掘りしたいです。

相澤 資格を取得した団体で学んだことがベースの言葉にはなりますが、「背骨と尾骨が引っ張られている感覚にいる状態で、体幹部が安定している感じがニュートラルに近い」と捉えると分かりやすいかな、と。この体幹は、肩から股関節にかかる長方形のエリアですね。

━━「安定」と聞いて、動かないポジションを想像しました。

相澤 少しピラティスの概念からは逸れますが、安定は「動いていいけど、望まない動きを防ぐ能力」というふうに考えるのがいいかもしれません。一方で、固定というのは一切の動きがない状態、のような感じです。
安定と固定を具体的なイメージで表すと、車線とレールが近いかと思います。車線の中であれば動いていい、でも車線からはみ出すような動きをしてしまうと、安定性が崩れているという考え方です。レールは想像の通り、敷かれたレール上に固定され、その上でしか動けないというイメージです。

━━トレーニーがピラティスをする良さはなんでしょう?

相澤 自分の身体を操作する能力が上がると思います。ただ、操作能力を上げる手段はピラティスに限らない、ということが前提にありますが。とは言え、ピラティスの限定された動きの中で、自分の身体を動かしていくことはすごくいいことだと思いますね。

━━逆に、気をつけるべきことはありますか?

相澤 ピラティスはうまく取り入れるもの、という考え方が必要かもしれません。身体の機能向上のために有効なピラティスですが、あくまで手段(ツール)。ピラティスのこの動きができないと、トレーニングができないわけではない。そこの区別をつけておかないと、目的と手段がすり替わってしまう場合もあると思います。

━━実際、そういうご経験が?

相澤 はい、ありました(笑)。自分もトレーニングのパフォーマンスを上げ、それによって筋肉を大きくすることが大きな目的だったのに、「あっ、アップしなきゃ!ピラティスの種目をやらなきゃ」って思ったこともあり……。手段であるはずのものが目的になっていたんです。
このようにルーティン化してしまったことで、やらないという選択肢が取れなくなるっていうのもある。だからこそ、ピラティスをするのが目的なのか身体の機能向上が目的なのか、といったような点を自分の中で押さえておく必要はありますね。必要な部分や要素だけを取捨選択する力を備えることも大切です。

━━実際、やられていたピラティスの種目をいくつか教えていただきたいです。

相澤 体幹部の安定を目的に行っていた種目3つをお伝えしますね。まずはASブリッジ(アーティキュレーションショルダーブリッジ)。これはヒップリフトに似た動きで、特に股関節を活性させるためにもやっていました。
そしてスワンダイブ。ベンチプレスのアーチを組む動きと逆向きのような動きです。身体が反っている状態で、体幹部を安定させる機能を高めたいときに効果的だと思いました。
最後はシザーズです。仰向けの状態で下肢をハサミのようにして足を入れ替えるのですが、体幹を安定させた状態で足を上下させるのがポイントです。

チャレンジしようと思っている人たちへ

━━ピラティスを初めてされる方の中には「この動きを完璧にマスターしなくては!」と思う人もいるかもしれません。

相澤 自分もアップでピラティスの動きをしていたときは、正しいと言われる動きに100%近づけていくことを意識していました。ですが、そこを目指す必要はないんじゃないかなって思います。
要は、その動きが60〜70%ぐらいの精度でできていればいいっていう考えを持っておくことを自分はお勧めします。自分はピラティスの先生ではなく、ボディメイクにおけるトレーナーという立場ですし、ピラティスの動きの中の要点さえ押さえて大体の動きができていればクリア、パスっていう考えにしていいと思っています。

━━全部ができないといけないのでは……という不安要素が取り除かれました。

相澤 トレーニングでベストパフォーマンスをするのが目的であれば、先ほどの60%理論がいいのかな、と。ある程度、動きの習得ができたらいったん卒業してみるのもありだと思います。
例えば自分の場合だと、いつもは2時間トレーニング時間を確保できていたけど今日は1時間しか取れないとき。こういう日はアップなしでやってみようとか、短縮しようとなるんですね。アップのレベルが10段階あるとしたら、ゼロだと確かに動きは悪くなります。ですが今まで10していたものを7にしても同じクオリティーでトレーニングできるんです。
あれもこれも、と足し算になりがちなのですが、トレーニング時間を削ってしまったら本末転倒なのでは、と。自分の考え方としては「できる動きはやらなくてもいい」という立場です。

━━その人の悩みやトレーニング歴などによって、どのように取り入れるか変わってきそうです。

相澤 例えばベンチプレスでアーチを作ったときに腰に詰まったような痛みや違和感があったら、ピラティスの種目を取り入れてみるのはありだと思います。
もともと運動をしてきた人、現在トレーニングしている人はトップダウンの考え方でピラティスを取り入れてみてもいいかもしれません。一度、レッスンを受けてみて、どれくらいの精度でできているのかを専門の人に評価してもらう。そして、できなかったことを深掘りして改善していく作業がいいと思いますし、自分もこっちのタイプです。
一方、全く運動経験がない人の場合はある程度イメージを作っておいて、少しずつ負荷を増やしていく方法もありです。着実に積み重ねていくことはできますが、「この動きができないと、次へ進んではいけない」という考えに陥ってしまうという懸念はあります。
ピラティスで解決できることは身体機能や運動能力の向上がメインだと考えています。トレーニング中にやりづらい動きや違和感があるけど、関節の可動性などには問題がない。しかし、身体の動かし方に問題があって悩んでいるという人には、ピラティスをお勧めしたいですね。

あいざわ・はやと
アイデンティティの筋肉を携えて唯一無二の俳優道を歩み出す。新規受付はストップしているがパーソナルトレーナー、JBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)の審査員としても活動中。JBBF日本男子ボディビル選手権2021~2023年優勝。マットピラティスの資格を取得。

取材・文:小笠拡子 撮影:中島康介、舟橋賢、アイアンマン編集部 写真提供:相澤隼人 Web構成:中村聡美

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