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日本最年少アームレスリング王者がたどり着いた境地——鎌田竜が実感したアームレスリング×ピラティスの相乗効果とは

ベテラン選手が長きに渡り活躍を続けるなか『日本アームレスリング界の絶対王者』を見据える25歳の若きホープがいる。その名は鎌田竜だ。
2017年に開催された『全日本アームレスリング選手権大会』ではレフトハンド・男子-90㎏級に出場し、見事優勝を果たした。そして17歳にして掴んだ日本一の称号は当時の日本最年少優勝記録に名を刻み、誰もが認める実力者として業界に名を馳せる。類い稀なる才能と努力で数々のタイトルを手にした鎌田選手が、「現在の強さの根源はピラティスにある」と語る背景に迫る。

━━まずはアームレスラーとしてご活躍中の鎌田選手ですが、これまでの実績を教えてください。

鎌田 私は17歳(2017年)で出場した『全日本アームレスリング選手権大会』のレフトハンド・90㎏以下級で優勝し、全日本チャンピオンとなることができました。そしてこの年齢での全日本優勝は当時の日本最年少記録に。同年に韓国で開催された『シルビスクラシック』という国際大会でもレフトハンド・90㎏以下級で優勝することができました。しかしその後は数年間、国内大会でも優勝から遠ざかり、全日本選手権での成績は2位〜3位。納得のいく成果が残せなかった期間もありましたが、2022年には『全日本アームレスリング選手権大会』のレフトハンド・105㎏以下級で再び優勝。同年開催の『オールジャパンアームレスリング選手権大会』では90㎏以下級に出場し、左右両手での全国優勝を果たすことができました。

━━素晴らしい実績ですね。鎌田選手はまだお若いですが、アームレスリングはいつから始めたのでしょう。

鎌田 11歳から始めました。競技歴は今年で15年目になりますね。

━━競技を始めてから日本チャンピオンになるまではどのような競技生活を送ってきたのですか?

鎌田 オープンカテゴリーでの全日本選手権デビューは16歳。初優勝をさせていただく前年になりますが、そのときの成績は4位でした。年齢別の大会では『全国高校アームレスリング選手権大会』で3連覇させていただきました。

━━小学生から中学生の期間はどのような形で実践を?

鎌田 『ビギナークラス』という初心者の選手でも参加がしやすいカテゴリーが設けられている大会があったため、中学卒業まではそのカテゴリーに出場をしていました。優勝は難しかったですが、入賞まではさせていただくことも多かったです。

━━ビギナークラスとは言うものの、出場選手は大人では?

鎌田 はい、大人に囲まれて実践を積んでいきました。むしろ大人しかいなかったです(笑)。

━━圧倒的な実績を残し続けてきた鎌田選手も2018年から2021年までの4年間は優勝から遠ざかっていたとお話しされていました。不調の原因についてはどのように分析されていますか?

鎌田 怪我が大きな原因であると考えています。伳板損傷をしてしまい、左肩の痛みに悩まされていたんです。

━━怪我に悩まされていたとは。では、左肩の療養をする間は右手の練習を中心に?

鎌田 実は右手も2019年に手術をしてから本格的な練習はできていませんでした。きっかけは試合中に起きたスラップ損傷という関節唇が剥がれる怪我。さらには同時に脱臼も起こしていたため、即手術という状態でした。

━━左右ともに大怪我に見舞われていたのですね。

鎌田 それでもアームレスリングで私が得意としている左手の手術を回避できたことは不幸中の幸いだと考えています。

━━2022年の優勝はまさに大復活劇であったと思います。そんな鎌田選手が競技を始めたきっかけは?

鎌田 父の影響です。私は幼少期から柔道を習っていたのですが、同じ道場で知り合った方が、たまたま私の地元である北海道・旭川市のアームレスリング協会関係者の方で。ある時、その方と父が遊び半分で腕相撲対決をしたところ、私の父がその方に勝ってしまったんです。これをきっかけに競技の道に誘っていただき、父とともにアームレスリングを始めました。

━━偶然が生んだ出会いだったのですね。とは言っても、小学生時代から大人相手に勝利を収めてきた鎌田選手の実力は素晴らしいもの。ご自身の強みはどこにあると考えていますか?

鎌田 私と父、共通の強みは瞬発力です。スタートの合図直後、一瞬で決着をつけるプレースタイルは似たものがありますね。

━━幼少期から取り組んでいたという柔道も競技に生きている実感はありますか?

鎌田 柔道もかなり生きていると思います。柔道の組み手では、相手の襟と袖を握るのですが、特に『引き手』と呼ばれる袖の握り方がアームレスリングに近いものを感じていて。柔道では相手の柔道衣を小指から中指の3本指で絞りながら親指で動きをコントロールするのですが、アームレスリングも小指から中指に力を入れながら親指を当てていく動きがあって。競技自体は全くの別物ですが、共通する動きも見つけています。

━━柔道で染みついた握り方がアームレスリングに生かされているのですね。そして今ではピラティスも取り入れているという鎌田選手ですが、実際に始めた時期は?

鎌田 2024年6月頃からです。

━━元々ピラティスというもの自体は知っていたのでしょうか?

鎌田 私は柔道整復師を生業としているため、ある程度は知っていました。専門学生時代にはピラティス講座も受講しています。

━━では、競技者として本格的にピラティスを取り入れようと考えたきっかけは?

鎌田 いつもお世話になっている柔道整復師の方に勧められたことがきっかけです。始めは「試しにやってみよう」程度の軽い気持ちだったのですが、どっぷりハマりましたね(笑)。

━━鎌田選手にピラティスを紹介した方は、なぜピラティスがアームレスリングに生きると考えたのでしょうか。

鎌田 その方はアームレスリング経験者ではなかったものの、私の身体を見てくださっている期間は長かったので、アームレスリングの動きはある程度知り尽くしていて。私の身体の使い方や酷使しやすい部分などを考えた上で、競技とピラティスのつながりを感じたのだと思います。

━━鎌田選手が実際に感じたピラティスの良さを教えてください。

鎌田 自分の身体を思い通りに動かす能力と感覚が向上したことでしょうか。筋肉というより、脊柱の動きをはじめとした分節運動。骨の一つひとつを動かす感覚が向上したと感じています。骨のコントロールができると、筋肉のコントロールもしやすくなって。今まで伝えきれていなかった自分のパワーを全て出し切れるようになったのです。

━━出力向上などの変化はピラティス開始直後から感じられたのでしょうか。

鎌田 私はアームレスリングに生きそうな種目で構成されたメニューを組んでもらっていたので、感覚の変化は歴然でした。

札幌のピラティスサロン『totonoeru』に通う鎌田選手。リフォーマーによるピラティスで「アームのパフォーマンスは、かなり上がった」とのこと。さらに「腰痛がなくなったのと、身長が伸びた」といううれしい変化もあったようだ(写真提供:鎌田竜)

━━具体的にはどのようなメニューを組んでいますか?

鎌田 アームレスリングという競技は一見するとシンプルな動きで構成されているようですが、立位で行うため、下半身から上半身へ力を伝えることが重要です。さらには、動きの中でも脊柱をまわす動作も加わる。そこで必要となるのが、下半身と上半身の分離した動きに連動性をもたせるアプローチです。私はここに力を入れて取り組んできました。

━━身体を変幻自在にコントロールできることで生まれるメリットは他にも?

鎌田 自分の身体の使い方や動かし方のコントロールができると、怪我の防止にもつながるというメリットがあります。アームレスリングにおいて、身体の連動性の欠如は肘や肩の故障に直結します。これは、大きな負荷が1箇所に集中してしまうから。しかしこの負担を分散させることで、怪我のリスクは大幅に軽減します。私は『ケア』という目的でもピラティスを取り入れているのです。

━━ピラティスを始めてからの怪我の調子は?

鎌田 基本的に怪我はありません。『痛みが出る=身体の連動性が失われている』と考えているため、現在では小さな身体の違和感でも敏感に察知し、その都度ピラティスで身体のコンディション修正を行っています。

━━では、ピラティスでは固定のメニューを繰り返しているだけではない?

鎌田 その通りです。そのときの身体の状態に合わせた種目をピラティスでは取り入れています。とは言っても、アームレスリングの肝となるのは脊柱周りと下半身の動き。そのため、この2箇所の調整を中心としたメニューであることにブレはありません。

━━鎌田選手にとってピラティスはご自身の競技パフォーマンスを左右する大きな要素になりつつあると感じますが、いかがですか?

鎌田 大いに影響しています。今ではピラティスレッスンの間隔が空くと身体の感覚が悪くなってしまうほど。今の私が怪我なく良いコンディションを維持できている要因はピラティスのおかげであると言っても過言ではありません。

━━ピラティスができていない時期はどのような違和感を覚えるのでしょう。

鎌田 対戦相手の手を握るセットアップポジションの時点で、筋肉・関節ともにハマらない感覚が生まれるのです。そしてこのわずかな感覚のズレがパワーの出力に大きな影響を及ぼし、怪我のリスクも高めます。
アームレスリング界でピラティスを取り入れている選手はほぼいないのが現状ですが、競技力向上にピラティスは大きな役割を果たすと断言します!

かまだ・りゅう
2000年1月14日生まれ。北海道旭川市出身。身長176cm、体重90kg。JAPANHOKKAIDOProve代表。柔道整復師、JATI-ATIの資格を持つ。11歳でアームレスリングを始め、高校生で全国大会3連覇、17歳で全日本選手権史上最年少優勝を果たす。2022年AJAFオールジャパンアームレスリング選手権大会左右優勝。

取材・文:池田光咲 撮影:坂井亨輔 Web構成:中村聡美

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