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なぜ日本王者はピラティスを取り入れたのか?牛山恭太が実践したピラティス種目を大公開━━世界記録の裏側に迫る

(左)山下翔平:理学療法士・公認心理師・ピラティスインストラクター
(右)牛山恭太:パワーリフティングノーギア66㎏級日本王者

昨年12月、アジアクラシックパワーリフティング選手権で、トータル725kgの世界新記録を樹立した牛山恭太選手。オープンカテゴリーでの世界新は日本人初の快挙だ。その偉業の裏には、ピラティス講師・山下翔平氏と歩んだ3カ月があった。今回は、牛山選手と山下氏の対談を通じて、パワーリフティングにおけるピラティスの重要性に迫る。

━━牛山選手がピラティスを取り入れたきっかけは?

牛山 きっかけはともにYouTubeチャンネルを運営しているNAOTOさんからの勧めでした。当時の私は大会での記録が伸び悩んでおり、なにか新しい変化を加えたいとも考えていたため、まずは体験してみようと思ったのです。

━━では当初は、ピラティスを行うことへの明確な目的意識を持っていたわけではなかった?

牛山 正直、ピラティスがどういうものかもよく理解していない段階でした。ただ、自分にはないものを得られるのではないかという期待感はありました。

━━実際に、パワーリフティング競技のトップレベルで活躍中の牛山選手からオファーがあったときの率直な感想を聞かせてください。

山下 牛山選手が競技者として抱える悩みや期待感に興味を持ちました。初めて話したときから『熱心で真面目な研究家』という印象が強かったので、成長が楽しみだと感じたことは覚えています。

━━実際にレッスンを開始する上で、どのような目標設定を定めたのでしょう。

牛山 当時はアジア選手権に向けた調整中だったので「とにかく世界新記録を樹立したい」ということは伝えました。そして、レッスン前後における自分の感覚の変化を山下先生に共有していく。直前直後はもちろんですが、その後のBIG3の感覚も含めたフィードバックを繰り返していました。その上で、取り入れる種目も日々アレンジしたというイメージです。

山下 自分の実力を発揮できれば世界新記録は射程圏内という状況でした。でも、コンディションの調整が噛み合わずチャンスを逃してきたという背景があった。だからこそ、牛山選手の実力を最大限出すためにピラティスの力を使い、感覚ベースから身体の使い方を見直していきました。

━━2025年2月号に掲載されたインタビューでは「骨の使い方」が伴になったと言っていましたが、その点への擦り合わせは?

牛山 山下先生の指導の中で「筋肉」よりも「骨」というワードが出てきた印象があったのと同時に、骨盤や背骨の動きは自分の中でも重視している部分でした。

山下 確かに私は筋肉を鍛えるというより、身体のコントロールに重きを置いているので、「骨」という言葉で表現をすることは多かったかもしれません。また、牛山選手は自分の感覚的な部分も言語化することがとても上手な選手だと常々感じていたのですが、具体的な話を聞くほど、頭の中のイメージに身体がついていけていないという課題があることが分かって。でも言葉で細かく表現してくれるからこそ、取り入れるべき種目も明確になっていったと思います。

━━言語化された牛山選手の良い感覚に、どのように動作をマッチさせるかという取り組みになっていったのですね。

山下 牛山選手は腰の痛みや左肩への違和感を覚えることが多かったようで。具体的にはスクワット時に腰を反りすぎてしまったり、バーベルを担いでも左肩が詰まっていたり。しかし、このままでは最大出力の発揮は難しいので、まずは骨(関節)の動かし方を作り込む。その上で、筋肉を使って力を発揮しようというアプローチを重ねていきました。

━━先生が牛山選手に指導をする上で特に大切にしていたことは?

山下 レッスンを継続する中で牛山選手に必ず課していたことが2つあります。
1つ目は、レッスン後は必ず、その日自分が取り組んだことの整理をするということ。
2つ目は、感覚の変化を言語化するということです。私は特に「感覚の言語化」に重要性を感じていて。1週間に1度という限られたレッスン機会をどう生かすかは、レッスン外で行われる競技への取り組み方や、考え方次第で変わります。だからこそ、自分のトレーニングのときにその感覚をどう育むか。手間な作業に感じる方もいるかもしれないですが、意識を持つ癖づけのためにも「感覚を文字に起こす作業」を継続してもらいました。

━━山下先生の課題にも愚直に取り組む素直さは牛山選手の強みの一つですね。

山下 私は理学療法士と公認心理師、2つの国家資格を保有しているので、心理的な観点からも牛山選手を見ることが多かったのですが……。前回の世界大会から今回まで、牛山選手の本気度とスイッチをすごく感じていて。ただ実は、この熱量をキープするのは難しいとも思っていました。特に試合前ともなると、わずかなハプニングにも過敏に反応してしまい、パフォーマンスへの影響が出やすい。でもそのときに、これまでの努力を自負できる能力や、感覚的なところまで言語化した上で動作とのつながりを持てると、良いパフォーマンスが発揮できる。感覚を文字に起こす作業は自分への揺るぎない自信をつけてもらうためにも取り組んでもらいました。

━━元々長けていたであろう牛山選手の言語化能力をさらに向上させることで、モチベーションの維持も促していたのですね。

牛山 実際に、大会直前の練習中、プレートを付け替えるタイミングで25㎏プレートを右足の親指に落としてしまって。今でも変色しているほどなのですが、そのときの気持ちも思い返せばこれまでと違ったと。恐らく、山下先生に出会う前の自分であれば、その時点で「まずい。試合は大丈夫かな」と不安な気持ちが先行していたと思うんです。でも今回は違った。マイナスな感情が入る余地もなく「やるしかない」と強い気持ちを持つことができたのです。冷静に動作確認をし、問題も見られなかったのでメンタルを揺さぶられることはありませんでした。

山下 本当に素晴らしいです。

牛山 最終的に世界新記録更新という大きな目標を達成できたのは、私の気付かぬところまで長期的な視点でサポートを続けてくださった山下先生のおかげです。そして、ピラティスで得られた身体の使い方や「感覚を文字に起こす作業」の癖づけは私の今後の競技生活においても一生の財産になることを確信しています。ピラティスで得られた身体の使い方は今後の競技人生で一生の財産になると確信しています。

パワーリフティング世界記録樹立を支えた
牛山恭太実践ピラティスワーク8選!

牛山恭太選手が世界記録樹立までの3カ月で特に効果を実感したというピラティス種目を8つに厳選。チェアマシン、リフォーマー、マットとさまざまなピラティスを紹介していく。

腰痛予防につながる
サイドストレッチ

①チェアマシンに左半身を乗せるように座る
②右足は膝を伸ばした状態で床につけ、手はまっすぐ横に伸ばす
③左方向に上体をゆっくりと倒し、右半身の側面にストレッチがかかることを感じる
④身体を回旋させながら、右手を左手の隣に置く
⑤反対側も同様の手順で行う

パワーリフティングの動作時の感覚が格段に向上
フットワーク

①手足を伸ばし、仰向けになる。このとき、足はバーに乗せる
②ゆっくりと膝を曲げていき、しゃがむような体勢をとる
③ゆっくりと膝を伸ばし、①の体勢に戻る
④②③の動作を繰り返す

股関節と背骨の動作学習ができる
アップダウンストレッチ四つん這いver.

①床に膝立ちをし、手は前方に設置した椅子の上に置く
②身体は脱力し、胸を床につけるイメージで上体を伸ばす
③大きく息を吸い込み、胸郭を広げるイメージで身体を丸める

足関節・股関節・背骨の動作学習ができる
アップダウンストレッチ立位ver.

①直立の状態で、手は前方に設置したストレッチポールの上に置く
②身体は脱力し、胸を床につけるイメージで上体を伸ばす
③大きく息を吸い込み、胸郭を広げるイメージで身体を丸める

背部の過度な収縮軽減につながる
ニーリングアーチ

①膝立ちの体勢で膝を曲げる
②両手はそれぞれの踵を掴み、上体を支える
③骨盤を後傾させるイメージでお尻を持ち上げる
④腰・胸・首・頭の順に身体を反らす

殿筋群の硬さの軽減につながる
ヒップストレッチ

①床に座る
②右足は膝を内側に曲げ、左足は後方に伸ばす
③手は床につき、上体を支える
④前方に視線を合わせ、上体を軽く反る

全身の使い方の意識定着
クロックアーム

①横向きに寝た状態から右膝を90度に曲げ、前方に出す
②手は伸ばした状態で前方に出し、手のひらを合わせる
③頭上を通って反対へ手を伸ばして胸を開く
④右手を頭の方向へ上げる

肩甲骨を寄せる動作の詰まる感を軽減する
サイドプランクローテーション

①横向きに寝た状態から、両膝を曲げ、右手前腕は床につく。膝から肩までが一直線になるよう、上体をキープする
②膝を伸ばし、足先から肩までが一直線になるよう、上体をキープする
③右手で上体を支えたまま、身体を床に向かって倒す
④ゆっくりと身体を起こし、視線は天井に向かって斜め上方向へ
⑤③④の動作を繰り返す

うしやま・きょうた
1997年8月10日生まれ。北海道音更町出身。身長168㎝、66kg級。パワーリフティングノーギア66㎏級日本記録保持者。パワーリフティングを広めるべくYouTubeチャンネル『パワーチューブ』を開設。公式記録(ノーギア):スクワット247.5㎏、ベンチプレス177.5㎏、デッドリフト300㎏、トータル725㎏

やました・しょうへい
1988年3月20日生まれ。理学療法士・公認心理師、株式会社I&I代表。PritateFitnessWelfit運営、ピラティスインストラクター、ウェルネスライフトレーナー資格養成講座開催、理学療法士養成校非常勤講師、優木まおみさんMAOBICS監修。

取材・文:池田光咲 撮影:坂井亨輔 写真提供:牛山恭太 Web構成:中村聡美

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