トレーニングメニューとは身体づくりの原点と言っても過言ではない。どのような考えで組めばいいのか。何となくのメニュー作りから脱却するきっかけにしてほしい。
※IRONMAN 2024年8月号に掲載された「身体が変わる人たちは知っている!トレーニングメニューの正しい組み方」をWEB用に編集したものです。
初心者向けトレーニング計画
安易に「BIG3」から始めるべきではない
身近に指導者がいない場合、初心者が自力でトレーニングプログラムを作ることは困難だ。今回は、数多くのクライアントを見てきた久野選手に、初心者のためのメニュー作りや意識したいポイントについて教えていただいた。
2019・2021年オールジャパン選手権メンズフィジーク172㎝以下級 優勝
2023年ジュラシックカップボディビルオープンクラス3位
久野圭一
ひさの・けいいち
1982年10月12日生まれ、東京都出身。身長172㎝、体重72kg(オン)80kg(オフ)。2017年10月に株式会社キーフィジークを設立。パーソナルトレーニングジム「キーフィット」など3店舗を運営。2019・2021年オールジャパン選手権メンズフィジーク40歳未満172㎝以下級連覇。ジュラシックカップ2023ではオープンクラスで3位に入賞。
トレーニングを始める前段階
初心者へトレーニングの処方をする際は、種目に入る前に、まずは身体の動きを確認します。スクワットを例にすると、足首・膝・股関節の伸展ができているか、腹筋が使えているか、足裏で踏めているかなどです。この部分ができていないままトレーニングを進めると、怪我をしたり重量が伸びなかったりします。そのため、まずはこれらを改善するためのエクササイズとして、腹筋ならばプランクやキャットアンドドッグでお腹の使い方を学ぶことを勧めたいです。股関節ならばいろいろな方向へのアクティベーションドリルなどです。トレーニングを始める前に、まずはある程度まで身体能力を高めることが大切だと言えます。
初心者のための分割法
週に何回トレーニングできるかによりますが、5回トレーニングできるならば、3分割や4分割のスプリットルーティンを組みます。しかし、多くの初心者の場合は、週に1回か2回しかトレーニングできないことが想定されます。そういった場合は、全身法を選ぶ方が良いのではと思います。
初心者のトレーニングで覚えておかないといけないのは、追い込むとベテランと比べて筋肉へのダメージが大きすぎることです。ハードにトレーニングした際の筋肉痛は、ベテランよりも初心者の方が圧倒的に大きいです。ビルダーの場合は、翌日や翌々日には回復しますが、初心者だと、1週間から10日は筋肉痛が抜けないこともあります。このことを踏まえると、体力のレベルが低いうちは、激しすぎるトレーニングは向かないということが言えます。つまり、分割を細かくして1部位に強い負荷を与えるよりも、全身法でハードに追い込みすぎない方が良いケースもあるということです。コントロールされた強度ならば、同一部位を週に2回や3回トレーニングすることも十分に可能です。
トレーニングの頻度をもう少し増やして2分割に取り組める場合は、まずは脚のトレーニングをどうするかを考えます。初心者の場合は、脚はそこそこで良いと考える人もいると思います。そうなってくると、脚のトレーニングは少なめにして、メインの分割は、胸・肩・上腕三頭筋の日と、背中・上腕二頭筋の日にするやり方があります。やはり、クライアントのやりたいことを優先することが大切だと思いますので、メニューも工夫することが重要です。
トレーニングにおけるレップ数
初心者がトレーニングをする際は、コンパウンド種目に関してはレップ数は多すぎない方が良いと思います。限界まで追い込む1、2歩手前で終えるようにすると、フォームに集中することも楽になるはずです。10レップのように数が多くなると、フォームを狙うというよりもトレーニングをこなすという感じになってしまいます。一方で、サイドレイズやレッグエクステンションのような、ある程度の反復動作が前提にあって筋の弾力性を駆使して動作するような種目は、レップ数が多くても良いと思います。
ヘビーエクササイズへの移行
環境が整っているのであれば、動きの問題点を探り、改善のためのエクササイズを処方してもらうことが理想です。しかし、それを行うだけの人的な余裕や設備的なものが足りない場合は、別の方法を考えないといけません。
僕は、マシンのトレーニングをいくらやっても、スクワットが上手にできるようにはならないと考えています。高齢者等は別ですが、バーベルスクワットができないことの原因は、筋力ではないことがほとんどです。おもりを担いだ瞬間に背中がガチガチになり、骨盤も前傾して股関節が動かないという様子がその例です。こういった問題を解消するためのエクササイズとしては、ゴブレットスクワットを推奨します。ゴブレットスクワットでは腹筋周りが強く働きますし、足裏の踏みも強くなりやすいです。おもりが身体の前にあるため、目で負荷を認識しながら動作できる点もゴブレットスクワットの特徴です。これにより、おもりと自分の重心の位置が迷子になることを防げます。女性の場合ならば、ゴブレットスクワットだけでも良いのではと言えるくらい優れた種目です。
さらに重量を扱いたいとなれば、バーベルスクワットへの移行が必要ですが、その際も、アップの段階でゴブレットスクワットを取り入れることが勧められます。身体の正しい使い方を覚え、身体をプレアクティベートするためにも行ってもらいたいです。
初心者にありがちなミス
初心者のトレーニングを見ていると、おもりを挙げることに固執するあまり、その他の部分が全て崩れているということがあります。一方で、いつまで経っても重量を上げていかないパターンの人もいます。「重量を上げていきたい」という「心の姿勢」の面はとても良いのですが、おもりを挙げたい一心で、ラットプルダウンで勢いを使いすぎたり、半分しか引けていなかったりしては効果は出にくいです。使用重量は増えていても可動域が減り、筋肉の仕事量は減ってますので、プログレッシブオーバーロードができているとは言い難いです。
おもり以外の全ての面を無視したトレーニングというのは、初心者にありがちなミスなのかもしれません。おもりにこだわることは大切なのですが、それと同じくらい、フォームにもこだわってほしいです。フォームがある程度保てていてこその重量ですから、フォームが保てないならば、その分だけ重量は落とさないといけません。自分の中で、フォームに対する点数を付けてみて、80点が取れていれば重量を伸ばしてみるというように考えるのも良いと思います。必ずしも、毎回100点のフォームをキープする必要はないです。僕の好きな言葉に8・2の法則というものがあります。8割はしっかり行い、2割はオリジナリティがあって良いとするものです。フォームについては、僕はそのような認識を持っています。
取材・文:舟橋位於 写真:IRONMAN編集部
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