一般競技者からトップアスリートまで、さまざまな選手や一般の人の“食”を指導する管理栄養士・健康運動指導士のTejin(テジン)が、正しい食の情報をお届けします。
私が指導する大学ラグビー部の選手は、トレーニングや栄養摂取に非常に前向きで、プロを目指してタンパク質の摂取を意識している人が多くいます。
一方で「夕食で回転寿司30皿食べます!」「毎食後に必ずプロテインを飲んでいます!」といった相談もよく受けます。果たしてこれは理想的な取り方なのでしょうか?
ここではQ&A形式で、タンパク質に関する正しい知識と実践のポイントを整理し、初心者にも分かりやすく解説します。
Q1タンパク質を取ればすぐに筋肉はつきますか?
→ いいえ。総摂取エネルギーが足りなければ筋肉は増えません。
筋肉をつけるにはタンパク質はもちろん大切ですが、まずは「消費エネルギーより摂取エネルギーを上回ること」が前提です。
人間の身体は「エネルギーファースト」と呼ばれる機構を持ち、いくらタンパク質を取っても、エネルギー不足では筋肉を分解してしまいます。エネルギーがしっかり取れていれば、筋肉が合成へ傾くので筋肉がつきやすくなります。
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、推奨量は以下のとおりです。
・成人男性:65g/日
・成人女性:50g/日
さらに運動量が多い人たちは「体重1kgあたり1.2〜2.0g」という摂取量を推奨されています。
参考:【スポーツ栄養学ハンドブック】 東京大学出版会、2021年
Q2タンパク質を取りすぎると身体に悪いのですか?
→ はい。過剰摂取は腎臓や体調に負担をかけます。
タンパク質は不足しないことが大切ですが、取りすぎも注意が必要です。
・エネルギー比率で20%以上
・体重×2g/日以上
これを超える過剰摂取は、脱水・低骨密度・腎結石のリスクが指摘されています。理由は、腎臓でのろ過に負担がかかり、アンモニアなど老廃物の処理で疲れやすくなったり、排尿増加によって脱水や足の攣りにつながるためです。
「たんぱく質=最も重要な栄養素」とラテン語由来で呼ばれるほどですが、”過不足なく”摂ることが何より大切です。
Q3たんぱく質は一度に摂れば効率が良いですか?
→ いいえ。タンパク質は“1日の合計量”が大事で、一度に大量に取っても効率的ではありません。
一度の吸収できる量は個人差があり明確な上限はありませんが、1回の摂取量が25~30gがたんぱく質の利用が最適化されるとされています。
参考:【スポーツ栄養学ハンドブック】 東京大学出版会、2021年
実例:回転寿司30皿を食べた場合
・マグロ10皿(20貫)=74g
・サーモン10皿(20貫)=50g
・えび10皿(20貫)=64g
合計:188g(最適量の6倍!)
明らかに摂りすぎで、利用効率は低下します。
また「毎食後にプロテイン」を飲む習慣も、たんぱく質が不足した食事を補うなら有効ですが、通常の食事後に重ねて飲むのは過剰になりやすいため、食事間の補食として取るのが最適です。
Q4運動後のゴールデンタイムは本当にあるのですか?
→ あります。ただし、1日の総摂取量がより重要です。
運動直後30分〜1時間は、筋肉が栄養を取り込みやすい「ゴールデンタイム」と言われています。近年の研究では2時間程度まで有効とされており、焦らずに摂取しても十分効果的です。
ただし筋肥大や回復において最も重要なのは、1日を通して必要なたんぱく質量を確保することです。
食事がすぐに取れない場合は、以下のような補食が効果的です。
・バナナ+プロテイン
・おにぎり+ゆで卵
・ヨーグルト+フルーツ
理由は、運動直後は血流が筋肉に集中して消化機能が落ちているため、脂質が多い揚げ物などは不向きだからです。
Q5タンパク質はプロテインだけで十分ですか?
→ いいえ。食品から摂ることが不可欠です。
プロテインは便利ですが、食品には他の栄養素も豊富に含まれています。
牛肉:鉄分、クレアチン
豚肉:ビタミンB1
鶏肉:低脂質、イミダペプチド、ビタミンA
乳製品:カルシウム
納豆:ビタミンK、マグネシウム
目的別の活用例
■スタミナ・筋力向上 → 牛肉
■疲労回復 → 豚肉
■減量中で脂質を控えたい → 鶏肉
■ケガ予防→乳製品、納豆
食品とプロテインを組み合わせて、バランス良く摂ることが重要です。
Q6タンパク質は食欲にも影響しますか?
→はい。たんぱく質が不足すると食欲が強まりうると言われています。
これは「プロテインレバレッジ仮説」と呼ばれ、1日のタンパク質摂取が不足すると、身体は他の食品を求めて食欲を増やすと言われています。
1日の食欲を安定させるためにも朝食でのタンパク質の摂取が大切です。
・卵や納豆、豆腐などを追加
・牛乳やヨーグルト、豆乳を取り入れる
・時間がないときはプロテインを活用
また主食(ご飯・パンなど)と主菜(肉・魚・大豆製品)を組み合わせると、アミノ酸スコアが向上し、効率よく体内で利用できるタンパク質量が増えます。
ココがポイント
自分が続けやすい方法で、朝食に1品タンパク質をプラスすることが効果的です。
■参考文献
・厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
・ダン・ベナードットほか【スポーツ栄養学ハンドブック】 東京大学出版会、2021年
■著者プロフィール
申泰鎮(シン・テジン)
管理栄養士・健康運動指導士。高校時代のボクシング経験をきっかけにスポーツ栄養士を志す。現在はボクシングジムや大学ラグビー部で、増量・減量・コンディショニングに対応した栄養サポートを実施。競技者から一般層までを対象に、食事・サプリメント・体づくりに関する実践的な支援を行う。執筆や講演活動も多数。