一般競技者からトップアスリートまで、さまざまな選手の栄養サポートを行う管理栄養士・健康運動指導士のTejin(テジン)が、パフォーマンスを最大限に引き出すための「トレーニング前の糖質の正解」について解説します。

筋トレやスポーツに取り組む方の多くが、トレーニング前にバナナやおにぎり、エネルギーゼリーなどを摂取しているのではないでしょうか。しかし、「なんとなく取っている」状態では、期待する効果が得られないどころか、場合によってはパフォーマンスを下げてしまうこともあります。糖質は量・タイミング・種類の3つを適切に設計することが重要です。
なぜ糖質が必要なのか
糖質は体内でブドウ糖に分解され、筋肉や肝臓にグリコーゲンとして蓄えられます。高強度トレーニングや無酸素運動では、この筋グリコーゲンが主要なエネルギー源になります。
筋グリコーゲンが不足した状態では、
・高重量を扱えない
・レップ数が伸びない
・集中力が低下する
・フォームが崩れやすくなる
といったパフォーマンス低下が起こります。
さらに、糖質が慢性的に不足した状態で強度の高いトレーニングを継続すると、エネルギー確保のためにアミノ酸が利用されやすくなり、筋タンパク質分解の亢進につながる可能性があります。結果として回復遅延やオーバーリーチングのリスクが高まります。特に筋肥大やパワー向上を目的とする場合、トレーニング前の糖質確保は「筋肉を守る」という観点でも重要です。
トレーニング前に必要な糖質量の目安
ACSM(米国スポーツ医学会)では、運動1~4時間前に体重1kgあたり1~4gの糖質摂取が推奨されています。
体重70kgの場合、70~280gの糖質が目安となります。
ただし、これは幅のある推奨量であり、以下の要素によって調整が必要です。
・運動強度
・運動時間
・直前の食事内容
・減量期か増量期か
・個人の消化能力
糖質の量の具体例
ご飯(200g)=74.2g
うどん1玉(生・150g)=79.8g
カステラ2切れ(100g)=61.3g
練り羊羹2切れ(100g)=66.8g
バナナ1本(可食部・120g)=27g
オレンジジュース1杯(濃縮還元・200g)=21g
参考:「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」

時間別の糖質戦略
3~4時間前
通常の食事として主食を中心に十分な糖質を摂取します。ご飯、パスタ、うどんなどの複
合糖質を主体に、脂質は控えめにすることで消化を妨げません。
2時間前
おにぎり、餅、カステラなど比較的消化しやすいものが適しています。脂質や食物繊維が
多い食品は避けます。
1時間前
バナナ、エネルギーゼリー、スポーツドリンクなど吸収の速い糖質が有効です。固形物で
胃もたれしやすい人は液体を活用します。
30分以内
スポーツドリンクや少量の飴など、少量で素早く吸収されるものを使用します。
単糖類と複合糖質の考え方
「できるだけ複合糖質を」と言われますが、実際にはタイミングで使い分けることが大切です。
・3時間以上前はご飯や麺類などの複合糖質中心
・1時間以内は吸収の速い糖質を戦略的に活用
単糖類や二糖類を大量に摂取すると血糖値の急上昇と急降下が起こる可能性がありますが、運動直前や運動中では有効に機能する場面もあります。重要なのは「量」と「タイミング」です。
見落とされがちな3つのポイント
①1日の総糖質量を確保する
トレーニング前だけ整えても、日常的な糖質摂取量が不足していれば筋グリコーゲンは十分に回復しません。高強度の運動を1日1~3時間実施している場合の糖質の推奨摂取量は6~10g/日となります。
一方、競技を目的としない健康維持レベルの運動を行う場合、体重1kgあたり3~5g/日程度が一つの目安になります。また、日本人の食事摂取基準では、炭水化物は総摂取エネルギーの50~65%を占めることが望ましいとされています。競技レベルや運動量に応じて、この範囲内で調整することが重要です。
② 減量期の調整
減量中でもトレーニング強度を維持したい場合、トレーニング前後に糖質を重点配分する「タイミング戦略」が有効です。総摂取エネルギーを抑えながらも、パフォーマンスを維持できます。
③ 胃腸のトレーニング
運動強度や運動時間が高まるほど、多量の糖質を摂取する能力も重要になります。トレーニング前に十分な糖質を取ろうとしても、普段から慣れていなければ胃腸の不快感につながることがあります。
日頃のトレーニングの中で糖質量や種類を試し、自分に合う摂取量を把握しておくことが大切です。

まとめ
トレーニング前の糖質摂取は、
・筋グリコーゲンを満たす
・トレーニング強度を維持する
・筋分解を抑制する
・回復を促進する
ために欠かせない戦略です。
大切なのは、「何を食べるか」よりも
いつ
どの目的で
取るのかを明確にすることです。
競技特性や身体状況に合わせて設計することで、糖質は最大の武器になります。
■参考文献
・文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
■著者プロフィール
申泰鎮(シン・テジン)
管理栄養士・健康運動指導士。高校時代のボクシング経験をきっかけにスポーツ栄養士を志す。現在はボクシングジムや大学ラグビー部で、増量・減量・コンディショニングに対応した栄養サポートを実施。競技者から一般層までを対象に、食事・サプリメント・身体づくりに関する実践的な支援を行う。執筆や講演活動も多数。










