タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルといった栄養素が体内で適切に働くためには、ある重要な成分が欠かせない。それが、体内のあらゆる化学反応をサポートするタンパク質の一種「酵素」だ。
酵素は我々の身体の代謝や消化などの機能を司る不可欠な存在であり、私たちの体内で日々生成されている。そこで、本記事では米国フィットネス誌で解説された酵素に関する最新トピックをわかりやすく解説する。
(IRONMAN2026年7月号「from IRONMAN USA」より転載)
なぜ酵素が注目されるのか?

私たちの身体の中では、さまざまな酵素が存在し、それぞれに役割を担って働いている。その中には、例えば、トレーニング後のリカバリーや、筋肉の合成・修復といった代謝経路をスムーズに進めるために欠かせない体内酵素も存在する。
また、適切な栄養摂取とコンディショニングを徹底することで、トレーニング後の体内環境を健やかに整え、タンパク質の合成やスムーズなリカバリーの土台を作る一助になると考えられている。そのため、酵素に関する知識を増やしていくことはトレーニング愛好者やアスリートにはとても有用なことなのだ。
『ザ・エンザイム・キュア(酵素療法)』の著者であるリタ・リー博士は「酵素の存在なしにはビタミン、ミネラル、その他の栄養素、さらにはホルモンさえも、本来の反応を引き起こすことができない」と述べている。
かつて、酵素の詳細な役割は解明されていなかったが、酵素が体内のあらゆる化学反応を動かす「生命活動の触媒」としての役割があることが明らかになってから、トレーニング業界でも栄養のポテンシャルを最大限に引き出すための重要な生体成分として注目されるようになったのである。
酵素は「スイッチ」
体内には数千種類の酵素が存在し、さまざまな代謝や同化経路で化学反応を進めている。酵素は基質と特異的に結合して反応の活性化エネルギーを下げ、その進行を劇的に加速させるため、トレーニング後の筋線維の修復や成長に必要な反応が滞りなく進行するようになる。
しかし、加齢や精神的ストレス、不摂生な食生活などによって、その活性は低下しやすい。つまり、酵素は体内の反応を動かす「スイッチ」のような側面も持つ成分なのだ。
酵素を取るベストタイミング
サプリメントとして酵素を摂取するベストタイミングは、一般的にワークアウト直後の食事やプロテインを補給するタイミングであると推奨されている。
この時間帯は、タンパク質、炭水化物、ビタミン&ミネラルなどをしっかり身体に供給するタイミングであり、これらの栄養素と一緒に摂取することで、胃腸での消化・吸収を効率良くサポートできると考えられているからだ。

複雑な過程を経てつくられる筋肉
「タンパク質合成」や「アナボリック作用」という言葉は、細胞が新たにタンパク質を組み込む過程のことを指している。ボディビルダーがタンパク質合成のための食事やトレーニングを実践し、休息もしっかり計画して取るようにしているのは、これらの作用が筋肥大を起こす上で重要な過程となるためである。
この過程に関わるのがメッセンジャーRNA(mRNA)であり、これは化学的にタンパク質を合成するための設計図となる。筋線維中にアミノ酸が運搬されてタンパク質が同化される過程はこのようにとても複雑だ。
メッセンジャーRNA とは
メッセンジャーRNA(mRNA)はデオキシリボ核酸(DNA)が持つ遺伝情報を写し取ってつくられる、細胞の中でタンパク質の設計図となる遺伝情報を運搬する伝令役の分子である。生化学分野では、DNAの遺伝情報をmRNAに写し取る(コピーする)プロセスを「転写」、mRNAの情報を基にタンパク質が合成されるプロセスを「翻訳」と呼んでいる。
翻訳のステップでは、リボソームが組み立て工場となり、そこに転移RNA(tRNA)によって必要なアミノ酸が運搬される。運搬されたアミノ酸はmRNAの配列通りに正しく並べられ、つなげられてタンパク質になるのだ。このように、DNA、mRNA、tRNA、リボソーム、そしてアミノ酸といった各要素がそれぞれの役割を正確に果たすことで、初めて円滑な筋発達(タンパク質合成)が可能になるのである。

アスリートのパラドックス

スポーツ科学の分野では「アスリートのパラドックス(矛盾)」と呼ばれる現象がある。
これは、特に持久系アスリートに見られる現象で、本来なら、筋中の脂肪(筋細胞内脂質)が多ければ、インスリンが効きにくくなり(インスリン抵抗性が高まり)、代謝異常を招くはずであるのに、どういうわけか持久系アスリートは一般的にインスリンが効きやすく(インスリン感受性が高く)、代謝も良好であるという現象が、パラドックスであると捉えられているのである。
この現象の理由として考えられることはいくつかあるが、その一つが日常的なトレーニングによって筋肉内のミトコンドリアの密度や、脂質代謝に関わる酵素の活性が極めて高いレベルに維持されているため、脂質が効率良くエネルギーに変換されるという生理現象だ。
また、米国糖尿病協会の研究者たちは、細胞内の脂質代謝機能が低下した環境下(運動不足など)では、利用されない脂肪の蓄積が起きやすいといった現象があることを研究結果として報告している。
これは視点を変えれば、持久系アスリート以外でも、運動や適切なコンディショニングによって、筋肉内の脂質代謝に関わる酵素活性が高まれば、効率的なエネルギー利用が進むということを示唆すると見ることもできそうだ。
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