2001年に施行された厚生労働省の規制緩和により、日本でも2004年頃にコエンザイムQ10(CoQ10)が大ブームになったことを記憶にとどめている方も多いだろう。
あれから健康情報に関する規制も強化され、当時に比べるとメディアでの露出は落ち着いたものの、現在も定番の健康サプリメントとして広く浸透している。
また、トレーニング科学の分野において、補酵素としてのコエンザイムQ10の働きは今も注目されているテーマの1つである。そこで本記事では、米フィットネス誌で解説されたコエンザイムQ10に関するトピックを詳しく紹介する。
(IRONMAN2026年7月号「from IRONMAN USA」より転載)
加齢で体内生成が低下していくコエンザイムQ10

コエンザイムQ10(CoQ10)は、チロシンとフェニルアラニンという2つのアミノ酸に、ビタミンB6が作用することによって体内で生成される。ビタミンの多くが補酵素(コエンザイム)として機能することから、コエンザイムQ10 もビタミンの一種と混同されやすいが、本成分は体内で合成できない他のビタミンとは異なり、厳密には必須栄養素ではなく「ビタミン様物質」に分類される。
コエンザイムQ10がつくられるのは主に肝臓だが、加齢に伴って体内での生成効率が低下する可能性があることを示唆する研究もあるようだ。
一方で、コエンザイムQ10のサプリメントを利用することで、加齢に伴う身体的な衰えの防止や健康維持に役立つ可能性が示された実験もある。
さらに、細胞のミトコンドリア内でコエンザイムQ10が電子伝達を助け、エネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)の合成に関与していることを示唆する研究報告もあり、アスリートにとっても有益な栄養素であるのではないかと考えられている。
ATPの生成時には大量の酸素が消費されるため、酸素代謝の副産物であるフリーラジカルも大量に生成される。このフリーラジカルの元になる不対電子(ペアを持たない不安定な電子)には、他の電子と結合して安定した状態を作ろうとする性質があるが、この性質が細胞の酸化(体内で発生するサビのようなもの)を引き起こす一因となるのである。
コエンザイムQ10は強力な抗酸化作用を持つため、フリーラジカルによって細胞が傷つけられるのを抑制する効果もあるのではないかと期待されているのだ。
どこにでもある物質
あらゆる細胞で広く利用されるコエンザイムQ10は「ユビキノン」とも呼ばれている。この名称は、IT用語としても馴染みのある「どこにでも存在する」という意味の英語「ユビキタス(語源はラテン語の『至るところに』)」と、化学用語の「キノン」が組み合わさってつくられた言葉である。この名の通り、コエンザイムQ10はほとんど全ての生物の細胞に存在する脂溶性分子なのだ。

LDLに多く含まれるコエンザイムQ10
コエンザイムQ10は、血液中におけるコレステロールの主要な運搬体であるLDL(低密度リポタンパク質)に高濃度で含まれている。LDLと聞くと悪玉コレステロールを連想する人も多いだろうが、実際には、酸化されない限りLDLは安全である。
つまり、LDLが多くても、その中にたくさんのコエンザイムQ10が含まれていれば、LDLの酸化に対して強力な抵抗力を発揮し、トラブルの原因となる変質を抑えるアプローチが期待できるのだ。

もし、フリーラジカルが猛威を振るってLDLが酸化されそうになると、コエンザイムQ10は真っ先にフリーラジカルの餌食となる。そういう意味では、コエンザイムQ10が最前線で身代わりとなって抗酸化作用を発揮することで、LDLを健常な状態に保つ手助けをしていると言える。
また、ビタミンCやEなどの抗酸化物質が酸化されてしまうと、ビタミンCやE自体もフリーラジカルのような酸化物質に変化してしまうのだが、酸化物質になったビタミンCやEはコエンザイムQ10から電子を供与され、再び抗酸化物質に戻ることができると考えられている。
炎症抑制と筋発達
高強度トレーニングを実践するアスリートの中で、強烈な酸化ストレスが炎症性サイトカインの大量放出を誘発するという事実に、どれほどの人が意識を向けられているだろうか。炎症性サイトカインは免疫機能に関連するタンパク質であり、その多くは炎症を促進する働きを持つ。これが筋中に放出されれば、過剰な炎症が筋組織にもたらされ、それは筋組織の分解(カタボリック)を加速させる一因になり得る。
実際のところ、炎症性サイトカインの一つであるTNF-α(腫瘍壊死因子α)の増加というのは、加齢に伴う筋量減少の主要な原因の一つと考えられていて、高強度運動を行わない高齢者でも、TNF-αは全身性炎症に伴って増加する傾向があると考えられているのだ。
吸収率を考慮した賢い選択
ウエイトトレーニングをはじめ、ハードな競技を行うアスリートは大量の酸素を消費するため、強烈な酸化ストレスにさらされる。だからこそ、抗酸化物質としてのコエンザイムQ10の有用性は極めて高い。
しかしながら、一般的なコエンザイムQ10サプリメントは脂溶性のため、一説には「吸収率が10%程度」と非常に低いのがネックとなっている。そこで近年注目されているのが、体内でそのまま働く還元型(ユビキノール)のサプリメントである。標準的な酸化型に比べて優れた吸収率を示すため、加齢によって体内生成率が低下してくる中高年にとって、検討したいサプリメントの一つと言えるだろう。
コエンザイムQ10は脂溶性であるため、日常の食事(肉や魚など)から摂取できる量は微量である。そのため、不足分を補うにはサプリメントを上手に活用するのが効率的と言える。
明確な摂取量に統一された見解はないが、激しい運動を行うアスリートであれば、一般的に1日100~300mgを目安に、吸収率を高めるため食後(脂質を含む食事の直後)に数回に分けて摂取するアプローチが推奨されている。
40歳未満のアスリートを対象にした実験
中高年だけでなく、40歳未満の若いアスリートのコンディショニングにもコエンザイムQ10が役立つのか。それを検証した興味深い実験を紹介したい。

| 被検者: | 40歳未満のアスリート |
| グループ分け: | 「コエンザイムQ10を摂取する群」と「プラセボ群」 |
| 実験方法と考察: | 被験者を2つのグループに分け、ヨーロッパで最も急勾配で知られる50kmの山道を駆け上がる高強度運動を実施。レース前から運動後にかけて、厳密な栄養管理の下で検証が行われた。 |
| 実験結果: | コエンザイムQ10群では、運動後の筋肉損傷の指標であるクレアチンキナーゼ(CK)値の上昇が抑えられ、さらに、激しい運動によって生じる酸化反応を著しく抑制し、細胞膜レベルでの酸化ダメージを和らげるデータも確認されたと報告されている。 |
この実験結果は、たとえ若く強じんなアスリートであっても、超高強度の運動による筋肉へのダメージや酸化ストレスに対して、コエンザイムQ10を事前に摂取しておくアプローチが、効率的なリカバリーをサポートする選択肢になり得ることを示唆している。
コエンザイムQ10は、ハードなトレーニングによるダメージや酸化ストレスに対するアスリートのコンディショニングにおいて、非常に有益な選択肢となるだろう。特に体内の生成効率が低下する40歳以上の中高年アスリートは、日頃の栄養管理として意識したい成分だ。










