原子番号5の元素であるホウ素が、テストステロンやエストロゲンなどの内分泌機能の維持やバランスのサポート、健康な骨づくり、炎症反応の調節などに寄与するのではないかと注目されている。
そこで、本記事では米フィットネス誌がまとめたホウ素(ボロン)に関するトピックを詳しく解説する。
(IRONMAN2025年12月号「from IRONMAN USA」より転載)
生活用品や体内に存在
「ホウ素」という名前は知っていても、この成分について説明できる人は少ないだろう。「ボロン」という呼称の方が、サプリメントなどで馴染みがあるだろうか。
いずれにせよ、この微量ミネラルは植物の生育に不可欠とされる一方で、ヒトの健康、特に骨の維持や全身の代謝においてどのような役割を果たすのか、その点は長く見過ごされてきた。
ホウ素は自然界ではホウ酸塩として存在し、私たちの身近な製品、例えば胃酸を中和する胃薬、口紅やスキンクリーム、シャンプー、さらには一部のサプリメントにも利用されている。
ヒトの体内にも約3~20mgが存在しており、個人差は大きいものの、主に骨、爪、毛髪といった硬組織に比較的高濃度で分布している。
ホウ素の効果
健康な骨づくり

カルシウム、ビタミンD、マグネシウムの働きを助ける
1980年代後半、ホウ素による筋発達の促進やホルモン調節機能が期待されたが、科学的証拠が不足していたため、一時的なブームで終わってしまった。
例えば、高齢女性12名を対象とした研究では、1日3mgのホウ素を摂取することで血中のミネラルレベル、エストロゲン、テストステロンの生成量に変化が起きることが確認された。
しかし、被験者は実験の17週間前からホウ素の少ない食事をしており、体内のホウ素レベルが最適ではなかった可能性が高い。
それが影響したかは不明だが、実験開始から8日以内に、カルシウムやマグネシウムの排泄量が減少した。これは、体内のホウ素レベルが充足することで、骨生成に重要なミネラルが失われるのを防いだ可能性がある。
別の15名の女性を対象とした実験でも、血中のカルシウム濃度と活性型ビタミンD レベルが増加し、体内からのカルシウム喪失を促進するカルシトニンの分泌量が低下したことも確認されている。
心疾患の予防

悪玉コレステロールと血中脂肪の数値が低下
ホウ素による骨の健康維持メカニズムは、関節炎のような炎症性疾患にも関連するかもしれない。
関節炎を起こした骨は、健康な骨に比べるとミネラルが不足している傾向が見られる。もしホウ素が骨のミネラル密度を高めることに寄与するならば、炎症の緩和にもつながる可能性がある。
実際、ホウ素自体にも抗酸化作用や抗炎症作用が備わっていることが示唆されている。
心血管系への良好な影響も報告されている。心血管疾患の主要リスク因子であるLDL(悪玉コレステロール)と血中トリグリセリド(中性脂肪)の値が高い被験者を対象とした実験では、ホウ素の投与開始からわずか2週間程度で、これらの数値が有意に低下したという。
別の研究では、ホウ素を投与したことで、体内に炎症があることを示すC反応性タンパク質のレベルが50%も低下した。この研究では、ホウ素が組織壊死因子やインターロイキン6などの炎症仲介物質のレベルを低下させることも分かった。
吸収率は圧巻の100%近く
ホウ素の体内吸収率は非常に高い。多くのミネラル(例:カルシウム約20%、クロミウム約10%)と比較して、ホウ素は摂取量のほぼ100%が吸収されるとする報告もある。
体内に取り込まれたホウ素は、その高い吸収率にもかかわらず、余剰分は主に尿を介して迅速に排泄される。一部の研究では、便、胆汁、汗からの排泄も確認されているようだ。
ホウ素は主に果物や野菜に含まれ、一般的な食事からの摂取量は1日あたり約1.7~7mgと推定される。特に有機栽培の葉物野菜に豊富だが、柑橘類やベリー類、パイナップルなどの含有量は比較的少ない。
地域によっては、飲料水にも含まれている場合がある。成人の推奨摂取量は1~3mg程度であり、安全な上限摂取量は1日20mgと設定されている。
「テストステロンを増やす」は古い?

筋発達を目指すアスリートにとって、テストステロンとの相性については大きな関心があるはずだ。
結論から言うと、ホウ素にテストステロンの分泌量を増やす作用は期待できないようだ。
かつてホウ素がテストステロンを含むステロイドホルモンを活性化させる可能性があるという研究結果が発表され、一時的に「アナボリックサプリメント」としての地位を獲得した。
しかし、この研究には問題があった。ホルモン活性化を示唆した研究の被験者が高齢女性だったのである。その後も、男性を対象とした研究では、活性型テストステロンのレベル上昇について一貫した証拠は得られていない。
高齢女性でのエストロゲン上昇
高齢女性を対象にした実験では、エストロゲンのレベルが高まっている。これは閉経後の女性の骨健康維持には有益だが、男性にとってはテストステロンと拮抗する女性ホルモンの増加は望ましい結果ではない。
若い男性ボディビルダーでの検証、効果は見られず
20~27歳の男性ボディビルダー19名に対し、1日2.5mgのホウ素サプリメントを7週間摂取させた実験では、フリーテストステロン、筋量、筋力のいずれにもプラシーボ群との有意な差は見られなかった。
若年女性での検証でも有意な変化はなし
19~24歳の女性28名に10カ月間ホウ素を摂取させた実験でも、テストステロン、エストロゲン、プロゲステロン、ビタミンDのいずれのレベルにも変化は確認されなかった。
男性でのエストロゲン増加の可能性
別の男性被験者への5mgホウ素投与実験では、4週目にエストロゲンレベルが増加した。研究者は、これがホウ素による一時的なテストステロン増加の結果、その一部がエストロゲンに変換されたためではないかと推測した。
この解釈は、ホウ素に間接的なテストステロン増加作用があるという期待を再び生んだ。
テストステロンの活性化を妨害するタンパク質が減少
最も注目すべき知見は、男性8名に11.6mgのホウ素を摂取させた実験で得られた。この研究では、血中テストステロンと結合するタンパク質である「性ホルモン結合グロブリン(SHBG)」が有意に減少した。
このSHBGの減少は極めて重要である。テストステロンがSHBGと結合すると、その活性力は失われ、不活性型となる。テストステロンがアナボリック作用を発揮するためには、SHBGと結合していないフリーな状態で、アンドロゲン受容体と結合する必要がある。
さらにこの実験では、ホウ素摂取群でテストステロンレベルの上昇とエストロゲンレベルの低下が観察された。
また、テストステロンの代謝産物であるDHT(ジヒドロテストステロン)、ストレスホルモンであるコルチゾール、およびビタミンDの増加も確認された。
DHTやコルチゾールの高値は一般的に望ましくないが、ホウ素がアナボリックな活性型テストステロンを増やすという視点から見ると、これらの変化を単純に否定的に捉えるのは早計かもしれない。
参考文献
Ferrando, A, et al. (1993). The effect of boron supplementation on lean body mass, plasma testosterone levels, and strength in male bodybuilders. Int J Sports Nutr. 3:140-49.
Volpe, S.L., et al. (1993). The effect of boron supplementation on bone mineral density and hormonal status in college female athletes. Med Exerc Nutr Health. 2:323-30.
Naghii, M.R., et al. (2008). Elevation of biosynthesis of endogenous 17-B estradiol by boron supplementation: one possible role of dietary boron consumption in humans. J Nutr Environ Med.17:127-35.
Naghii, M.,et al. (2011). Comparative effects of daily and weekly boron supplementation on plasma steroid hormones and proinflammatory cytokines. J Trace Elements Med Biol. 25:54-58.










