近年は、男性にも更年期障害が起きうることが少しずつ認知されはじめているが、まだ偏見も根強くクリニックを受診する勇気がないといった方も少なくないだろう。
メディアでテストステロンなどの男性ホルモンに関する情報に触れる際も、ドーピング問題や攻撃性との関連ばかりが強調されるといったマイナス面が伝えられることも多い。そうした中で、テストステロンに対しての間違った認識も増えつつある。
そこで、本記事では米フィットネス誌がまとめたテストステロンに関する誤解を紐解くトピックについてわかりやすく解説する。
本記事は、海外のフィットネス事情やトレーニング文化に関する情報をもとに構成された翻訳・編集記事です。日本国内の事情や環境とは異なる部分も含まれます。
(IRONMAN2026年9月号「from IRONMAN USA」より転載)
テストステロンのマイナスイメージが強い理由

テストステロンと聞くと「ドーピング」や「薬物注射」をイメージしてしまう人も少なくないだろう。しかし、テストステロンは健康や長寿などに密接に関わっている主に体内で生成される男性ホルモンである。
誤解が生じている要因は、プロスポーツ選手たちによる薬物乱用について報じられる際に、テストステロンという名前をよく耳にすることにあるかもしれない。テストステロンをはじめとしたアナボリックホルモン(あるいは同化ステロイド)を増幅させるような薬物は1990年代頃から規制が強化され、スポーツ競技においても禁止されてきた。
そのため、テストステロンに否定的なイメージが根強く残っているのだろう。エイジングケアにおいて、テストステロンが果たす役割は大きい。そこで、本稿ではテストステロンの誤解について紐解いていきたい。
テストステロンへの誤解
テストステロンについての正しい情報を認識するために、主にテストステロン療法に関してよくある誤解を解消してほしい。
テストステロン療法は違法?

医師が処方して医療目的で行うテストステロン補充療法は合法だ(※)。これらテストステロン補充療法で対象になるのは、臨床的・血清学的に低テストステロン症と認められた、一般的には40歳以降の男性だ。
低テストステロン症(加齢男性性腺機能低下症:LOH症候群)とは、加齢やストレスに伴う男性ホルモンの低下によって生じる疾患のことで、腹部脂肪の増加、疲労感、性欲の減退、筋肉量の減少、思考の鈍化などの症状が見られる。
しかし、スポーツ界での薬物乱用が社会問題となったことで、治療としてのテストステロン補充療法までもが悪いイメージを持たれてしまっている。こうした誤解や先入観によって、テストステロン補充療法に懸念を示す人が多いので、この点は正しい理解が広まることが望ましい。
※ 編集注
本稿はアメリカにおける状況を解説するものであるが、日本においても男性更年期障害(LOH症候群)などの治療において医師の処方によるテストステロンの投与は認められている。また、日本でも世界アンチ・ドーピング機構(WADA)へ加盟しているスポーツ競技団体においては、選手がテストステロンを投与することは原則として禁止されている。
テストステロンは性欲を劇的に高める?
バイアグラに代表されるような男性機能をサポートする薬剤は、血管拡張作用を持ち、もともとは循環器系の疾患に対する研究から開発された背景がある。しかし、それらはあくまでも一時的な対処療法に過ぎない。
一方、男性更年期障害においてテストステロン補充療法を受けると、中枢神経系に作用して勃起の質と強度を改善するケースもある。
性欲を劇的に高めるような性機能の万能薬ではないが、テストステロン値を適正なレベルに調整することは、医師の適切な管理のもと、根本的な男性機能の回復において有効な選択肢の一つになり得ることを知っておこう。
心臓発作と前立腺ガンの原因になる?

テストステロン補充療法が心血管問題のリスクを減らすという実験結果が数多く得られているにもかかわらず、医師の中にはこの治療法の処方をためらう人もいる。テストステロン補充療法が前立腺ガンの原因となるとして懸念を示す医師も少なくない。
しかし、現時点では、生理的な範囲のテストステロン補充療法そのものが前立腺ガンを新たに発症させるという明確なエビデンスは示されていない。
もちろん、前立腺ガンはホルモン感受性のある腫瘍であり、未治療の前立腺ガンがある人がテストステロン補充療法を行う際は注視する必要があるが、この治療法そのものが原因で前立腺ガンが引き起こされるわけではないのだ。
テストステロン自体に発ガン性があるのだとしたら、テストステロン値の高い思春期・青少期での前立腺ガンの発症率が高くなるはずだが、そうではない。
すでに潜んでいる未発見の前立腺ガンがある場合、テストステロンの投与によってその腫瘍の進行を大きく加速させてしまうリスクがある。
そのため、治療を始める前には必ずPSA(前立腺特異抗原:Prostate Specific Antigen)検査などのスクリーニングを受け、医師の管理のもとで安全に行うことが大前提だということを肝に銘じておこう。
薄毛が進行する?

薄毛の傾向がある人は、一般的に「アンドロゲン感受性」が高いと考えられている。このような人がテストステロン補充療法を受けると、体内のテストステロンレベルが上昇することで、テストステロンの代謝産物であるジヒドロテストステロン(DHT)が高まり、毛包に及ぼす影響が高まるケースもあるため、場合によっては薄毛を加速させる可能性がある。
テストステロン補充療法を受ける場合は、担当医にDHTの増加による薄毛への影響について不安をしっかり伝えておくべきだろう。
早死にする?
「アナボリックステロイドの使用が原因で死亡した」というプロスポーツ選手のニュースから、テストステロンを投与することで早死につながると誤解している人も多い。アナボリックステロイドの使用にリスクがあるのは確かだが、不安をあおる報道のあり方には問題もある。
一方で、医師の処方に基づくテストステロン補充療法は薬物乱用とは全く次元の異なるものだ。筋肥大が目的ではなく、生活の質を向上させ、健康寿命を延ばす目的で実施される医学的に管理されたテストステロン補充療法である限り、定期的な血液検査等によって副作用などのリスクを適切にコントロールしながら、安全に治療を進めることが可能なのである。
編集注
生活習慣の改善と運動の重要性
本稿は「男性のエイジングケアにおいてテストステロン補充療法も決してマイナスではない」という主旨を解説したものである。しかし、まずは正しい知識を持ち、日々の生活習慣の改善やウエイトトレーニングをはじめとする運動によって、自前のテストステロン値を適正なレベルへ高めていくことこそが、中高年期の健康維持において最も大切であるという点を、最後に留めておきたい。










