『月刊IRONMAN』連載「筋肉社長列伝」。トレーニングを愛し、フィットネス業界の躍進を支える経営者をクローズアップする企画だ。今回は、サンテプラス株式会社・坂田直明(さかた・なおあき/54)社長。

「私が大切にしているのは、やってみたいことがあれば行動に移し、実現させることです」
パナソニック、日本ミシュランタイヤという安定したキャリアを捨て、2006年に創業。様々な困難を乗り越え『フレックスクッション』や『カブキグラス』やなど、日本だけでなく世界中のプロスポーツチームやフィットネスジムで使われる製品を生み出した。坂田社長を支えた相撲への情熱や挑戦する心、そして今後の展望を追う。
起業のきっかけとなったのは「相撲をモテるスポーツにしたい」という発想
坂田社長は相撲を愛している。立教大学で主将として青春を捧げ、社会人になってからはコーチ・監督として指導に情熱を注いだ。だからこそ、国技の現状を憂いていた。他のスポーツに比べて競技人口が極端に少なく、大学でも入部希望者はなかなか集まらなかった。

「入部希望者を増やすためには、相撲が女性にモテるスポーツに変革させたいと考えました(笑)。女性人気が高まれば、自然に男性の入部希望者も増えると考えました」
ひらめきが形となったのは、フィットネスジムだった。坂田社長は高校時代から現在もジム通いを続け、マシンコーチの経験も持つ。
「トレーニングに携わるなかで、相撲の『股割り・四股・テッポウ・摺り足』が理にかなった動作で、あらゆるスポーツに有効だと確信していました。
しかし、当時、ジムのプログラムは海外発ばかりで、日本発のものはありませんでした。相撲の基本動作を応用した『SUMOエクササイズ』を制作し、女性会員も多いスポーツジムで普及すれば「ヒップアップ」などの効果も感じていただけ、更には相撲へ見方も変わるのでは、と考えました」
大企業の安定を捨てた決断と難航 「信念は揺らがなかった」
起業前、坂田社長はミシュランタイヤで100人超の部下を率いる立場だった。破天荒な挑戦に、周囲は「そんなことが仕事になるのか」と心配した。
「相撲の『四股・テッポウ・摺り足・股割り』の効果とSUMOフィットネスの可能性を信じていたので、決意は揺らぎませんでした。」
しかし、日本ではアポイント取りに苦労した。「導入事例がない。聞いたことがない。」と断られることばかり。しかし、フィットネス業界の流れを見ていると、米国がトレンドを発信していることに気づいた。「だったら源流に行ってみよう」と米国に向かった。
「市場調査も兼ね、2006年3月に米国の『IHRSA(※1)』という展示会に行き、多くの業界関係者にSUMOエクササイズを提案したところ、ニューヨークの有名ピラティススタジオが興味を示してくれました。
本格的なプレゼンに向けて2カ月かけてプロのインストラクターの力も借りながらSUMOエクササイズを完成させ、ニューヨークに行き、有名なピラティス指導者に対して『四股・テッポウ・摺り足・股割り』の実技指導を2時間くらい実施しました。
エクササイズ自体の効果は感じていただけた一方で「アメリカでは『スモウ=太る』のイメージが強く、プログラムとしては採用は難しい。」という結論でした。
しかしながらプログラムの付属品として開発して持って行ったクッションが好評だった。開脚や前屈のストレッチが効果的にできる他、「骨盤が立ち、ピラティスに役立つ!」と評価され20個の受注をした。これが「フレックスクッション」の商品化へのきっかけになった。
「私自身、身体が硬く開脚が苦手だったため、学生時代から土俵の俵にお尻を乗せ『股割り』をしていたので、この俵の「高さ」「傾斜」「滑らない」をイメージし、体の硬い人でも骨盤を立てて効果的にストレッチできるよう工夫しました。
世の中の人を見まわしてみると、ほとんどの人が骨盤を立てることに苦労し、股関節周辺のストレッチがうまくいかない、この問題の解決に繋がると確信しました!」
日本でも展示会に出品し、当時、女子陸上競技単距離指導の第一人者だった福島大学の川本和久先生がフレックスクッションを「骨盤が一発で立つ!」と絶賛し、米国での実績やメディアからの取材も追い風になり、陸上競技、プロ野球、プロサッカー、ピラティスへ波及。フィットネスクラブもグループレッスンに活用したり、ストレッチスペースに設置したりと普及していった。
その後は、米国の世界的ピラティス指導者やプロ野球のトレーニングコーチとの交流から「フレックスバレル」という派生品の開発にも繋がった。
(※1)アメリカ最大規模のフィットネス展示会。現:HFA(「HEALTH&FITNESS ASSOCIATION」)
理想を追求した結果、プロに支持されるクオリティに。
製品がトップ選手やプロに支持される理由について、坂田社長は「多くのトレーニングコーチやトレーナーの皆様のお蔭です」と言う。専門家であるトレーニングコーチやトレーナーの方々に製品が認めらえることが1つのステップで、これが自信や喜びとなっていく。モノづくりへのこだわりも強い。
「自分自身が求める理想のクオリティを出せるまで、一切の妥協をしない。品質と耐久性、両方とても大事です。」と語る。フレックスクッションもカブキグラスも自分自身が欲しかったものを妥協せず追求した結果です。今では息子と娘のようなもんです(笑)」
フレックスクッションやフレックスバレルとは、全く別のカテゴリであるが、もう1つの主力商品がオートフォーカス&ハンズフリーの高性能双眼鏡「カブキグラス」である。
坂田社長自身が海外駐在時にオペラやバレエにハマり、従来の双眼鏡では席をアップグレードにする感覚にならないという不満から商品開発に至ったものだ。

「双眼鏡を30個くらい買いましたが、全て共通する問題がありました。『手ブレして、まつ毛が当たり、ピント調整が難しく、持っているのも大変』『舞台を見ることに集中できず、双眼鏡の操作に気がいってしまう。』
これらの不満をすべて解消し、席をアップグレードする感覚を作り出すため、2年間かけて様々な技術者の協力を得て『カブキグラス』を開発しました。」
「オートフォーカス、ハンズフリー&手ブレなし、まつ毛も当たらず、ずっと装着して安定してみれる。更にはレンズも最高級のクリアさと解像度」という納得のクオリティで、様々な分野の日本の匠たちに協力いただき完成しました。」と満足そうに語る。
今では国内や海外の名門劇場だけでなく、電力会社や高速道路などの点検のプロ、更にはプロ野球のスカウト等にも導入されている。
「挑戦の風土を日本に」 新境地への挑戦
現在、坂田社長は日頃の仕事と並行し、『相撲×起業』のビジネスコメディ映画の制作を計画している。新たな挑戦にあるのは「やってみたい!」という挑戦の心と相撲への愛、そして自身の経験を次世代につなぎたいという熱意だ。
「コメディという万人に受け入れられやすい媒体を通じて、日本全体を前例主義や安定志向から、挑戦を応援する風土に変えたい。
私自身も何回も壁にぶつかりましたが、方法を変えて提案することで受け入れらたり、相撲で培った『もう一丁』のド根性精神で前に進んできました。米国のように周囲の目を気にせず『誰でも挑戦する』『起業を通じて人生の理想を実現する』という空気に日本も変革していきたいです」
相撲への情熱を心に秘めたコメディ映画への挑戦は、次世代の起業家たちに、きっと新たな挑戦と「もう一丁」の不屈の精神を届けてくれるだろう。










